28:記憶
近頃彼のアタマの大半を占めるのは、子供の名前らしい。
「どうやら男の子らしいの」と言ってしまってからは特に。
TVをつけたら、野球を見ても、サッカーを見ても、ニュースを見ても、ひたすら名前にチェックを入れる。
「この選手いい動きしてるな、下の名前っと……う、読めん名前はやめとこう」
「いい名前なのに犯罪者か。難しいモンだな」
でもそんな様子を見るのはちょっと嬉しい。
今日もスポーツニュースを見ながら、名前のチェックに余念がない。J2レポートに思いがけない人が映ったと思ったそのとき。
「秀一ってどうかな。ほらこの選手。プレーもいいけど、何か雰囲気いいと思わね?」
「わたし、この人ちょっと知っているよ。うちの高校に練習試合で来たりしてたもん」ちょっと動揺を隠して言う。だって記憶そのまんまなんだもん。
「そうか、お前の高校ってサッカーけっこう強かったんだったな」
「そ」私はテーブルを片付けるふりをしてその場を離れる。
やっぱりプロになってたんだ。すごい。
知り合いにそんな人がいるだけで嬉しいよ。
もう忘れていたつもりのいろいろな記憶が次々にわき出してくる。
あ、わたし、今、けっこうシアワセです。
…でも、あの指輪、「安いし買ったら?」と言われたとき「中津君、買ってくれる?」って言ってみればよかったかな。