21:Cry for the moon


妹ははじめ、グランギニョルビルをお城のようだと言った。
高校にいた頃から綿密に計画して手に入れたそれは確かに自分にとっての城と言えた。仕事の場にして、居住空間でもある。
さしずめ妹は姫君で、自分は王様か。

黄里は「要塞だ」と言った。
全方位を威嚇し、周囲すべてにひそかに敵意と闘意を抱いていることを見抜かれた、と思った。ここは客商売の場でもあるのに。

そしてすべてが軌道に乗った後、このお城だか要塞だかに生まれ、独立していったもの。
それは小さな家庭そのものなのだが、その形成の過程をつぶさに見つめていて感じた渇望と欠落感。
本当に自分が欲しかった物がようやく自分に突き刺さったのだ。よりによって、そんなありふれた簡単な物を、と。

ありふれているからこそそれが手に入らなかった焦りは強いのかもしれない。

家庭、の対極にあるつもりの奴がいる。
でも実際は奴は「温かい家庭」にどっぷりつかっている。生家を出て独居している今でさえ。空気のように自然にそれが存在するせいか、本人は自分がいかに家庭のにおいを振りまいているのか気がついていないのだ。
自分は奴の気持ちに気づきながらはぐらかし、それなのに切ってしまうことも無く飼い殺しにしているといえる。
その状況の中にある暗い歓びに気がついてしまったのはいつだっただろう。
奴はそんな自分に気がついているのだろうか。正直、わからない。

無くした半身のように彼を求める気持ちと本当に欲しい物を求める気持ちが両立し得ないことはわかっている。でも、どちらも選べない以上、この暗い歓びに身を浸すしかないのだ。少なくとも、今は。


      

3周年企画へ