16:涙
私は素直じゃない子供だった。
それは一人っ子時代が長かったせいかもしれないし、父親のちょっと特殊な職業によるあまり一般的でない家庭環境のせいかもしれない。どちらも大勢の大人に囲まれるただ一人の子供、という現象の原因であったから。そしてそれ以上に少々極端なところのある両親のキャラクターのせいかもしれない。いや、あのころは本気でそんな風に思っていた。まったく、自分じゃない誰かのせいにして安心しているあたり恥ずかしいほどのお子様っぷり。
ともかく、あのころの私はヘンだった。
皆と同じに見られたくなくて、特別扱いされたくて、でも突出しちゃダメだとも思っていて、いったい何をどうすればとツッコミどころ満載。
弱い自分を見せたくない気持ちと、弱さをわかって欲しい気持ちと、どっちが重いのか量りかねていた。
そんな中の出会いだからこそ、意味があったのだろう。
涙は心の汗だ、なんて恥ずかしい台詞もあのひとの口からするりとこぼれれば、心の底にすとんと落ちた。
周りが言うような、熱病のような恋の中にいたという自覚はない。
だってあのひとが作ってくれる世界はとても穏やかで優しかったから。
あるとき、どうしていいかわからない自分を抱えてぼろぼろ涙をこぼす私の頭を自分の胸にそっと押しつけて言った。
「こうやれば君の泣いている姿は誰からも見えなくて、でも君が泣いていることは僕にだけはきちんとわかる」
考えてみればそんな風とは言え抱きしめられたのはそのときが初めてだった。
わたしはしゃくり上げながらも心の隅では、この人について行く、と感じていた。
あと少しで出会って20年になる。
私が今私として生きてゆけるのは周囲との関係を組み立て直せたから。
そしてそれは、ちょっぴり悔しいけれど、あなた抜きにはなしえなかったと思う。
そんな私とあなたの関係は、あのころ自分があんなに忌み嫌っていた両親の関係に驚くほど近いのが不思議だ。
幸いウチの息子は、当時の私ほどバカではないらしく、私たちを苦笑混じりで見てくれているらしいけれど。