15:シンドローム


冬、聖ブロッサムのたたずまいは、光線の加減なのか、よりいっそうの荘厳さを見せる。可憐な乙女たちの住処としては重厚すぎると思えるほどだ。
その一角、生徒会室に紅茶の香りが流れ、小菓子を手にした少女たちがさざめき笑う中心に彼女はいた。
生徒会長花屋敷ひばり、その人だ。
「大成功でしたわね、皆様」
「本当に。もうこれは伝説クラスですわ」
「雪まで降るなんて、神様まで味方して下さったとしか」

3年に一度の大行事、桜咲学園との合同ダンスパーティーはクリスマスイヴの前日に開かれるので、その反省会は年が明けてからになってしまう。2週間もあとの反省会が間の抜けたものになってしまうのは当然であろうが、そこはこの行事の特殊性、2週間が経過してなお興奮さめやらぬ者が少なくないので、反省会も熱いのだ。

「ともかく受賞者が両名とも生徒会役員から出たのは光栄なことでした」皆はうなずきあう。ブロッサムに於いては生徒会役員になることに憧れるものが多くいる。今回の実績はこの傾向をこれからも維持するのに役立つだろう。そのことが、次回からも生徒会行事を成功させるのに役立つのだ。
そうこうするうちに反省会は終わり、メンバーたちははそのまま雑談に突入する。

「それにしてもひばり様のタンゴのすばらしかったこと。私、感動で鳥肌が立ちましたわ」
「パートナーの姫島様との息もぴったりで、さながら一幅の絵画のようでした」
「ひばり様は準備期間中終始お忙しくていらしたのに、いったいいつ練習されていたのですか?」

花屋敷ひばりにはカリスマという語が似合う。
実際、ここに集うほとんどは彼女に憧れて生徒会入りした者だ。特に幼稚園からずっとブロッサム、というような純粋培養組(中学高校から入学した者を外部生というのに対してこう呼ばれる)には、ほとんど信者と言っていいほど彼女に心酔している者も多いのだ。
その人はつややかな笑みを浮かべて答える。
「本当に練習不足でお恥ずかしいことでしたわ。パーティーの3日前にやっとの事で小一時間ほど練習時間をとることができたのですけれどそれっきりで」
ため息がさざ波のように広がり、驚きの声が挙がる。
「本当にそんなわずかな時間で?さすがはひばり様ですわ」
「それに、やはり長年親しくしてらっしゃる方がパートナーだというのも大きいのでしょうね」
たちまち彼女は片方の眉を少しばかりつり上げ、
「違いましてよ。私たちはただ、その、品がない言い方ですけれど腐れ縁、なだけですわ」
それでも下級生たちは言いつのり続ける。
「そういうご関係もまた素敵です」
「なんと言っても本当にお二人はお似合いでしたもの」
高校から入った者がうっとりと言い足したのをみて、純粋培養組が思わず顔を伏せたのと彼女の声がやや高くきついものになったのは同時だった。
「申し訳ないわ。あの人と私のことをそんな風に言わないで頂けるかしら。不愉快ですから。だいたい、あちらが私のことを一方的にライバル視している、というだけの関係なのです」
ゆっくりきっぱり言うその目は笑っていない。
そう、彼女とつきあいの長いものは知っているが、姫島の話題はとてもデリケートなものなのだ。

凍りかけた空気をなんとかしようとするように、一年生が雑誌を広げる。
「ダンスパーティーの記録を作るときにこれも参考資料に入れればと思ったのですけれど」
それは一ヶ月以上前に発行された少女雑誌で、広げられたページは読者の投稿写真のコーナーだ。見開きのページの右上の大きな写真には桜咲の制服を着た3人が写っている。
「これ、キングの人とベストカップル特別賞の人でしたよね?」
皆興味津々で雑誌を回し見る。最後に受け取った彼女の目はしかし話題の写真とは見開きを挟んで反対側の隅にある写真に釘付けになっていた。
そこに気取ったポーズをとって写っているのはつい先ほど話題に上った姫島だ。推薦者は「白雪姫」。
食い入るように雑誌を見る彼女の様子に、彼女とのつきあいの長いものたちは心の中で苦笑する。
こんなにわかりやすい反応をしておきながら、ご自分のお気持ちに少しも気がつかれないなんて。
ライバル、という関係に目がいきすぎるのか、はたまた幼稚園からのブロッサム育ちが災いしているのか。
いつも堂々としているはずの彼女が「らしくない」行動をとるとき、常に彼の名前があるというのに。

「資料に採用するかどうかは会長のひばり様にお任せします。で、雑誌本体は申し訳ございませんがそちらで処分して頂けますか」

小さい咳払いとともにくだんの雑誌をしまい込むと、花屋敷ひばりは瞬く間にいつもの華やかなほほえみを取り戻し、何もなかったようにお開きを宣言するのだった。


    

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