14:きせき


眠りが浅かったのだろう、気持ちだけあのころにタイムスリップしていたようなのは。
ここに至るまでの息子との関係を無意識にトレースバックしていたのか。


――離れて暮らしていると、コンタクト自体はとても難しい。
でも離れているからこそよく見えることもある。

彼の巣立ちを、結果的にではあるが促したのは自分だ。
彼の巣立ちを完成させるのは、あの少年に違いない。

まっすぐな目と澄んだ声と明るい表情のあの少年。
きゃしゃな姿に、限りないつよさを秘めて。
ああ、この子が彼を支えてくれているのだとすぐに解った。
ルームメイト、なのだと言う。
この出会いを配してくれた運命とやらに感謝せねばなるまい。

息子が父親から離れていくのは自然なことだ。
少しその過程が進みすぎたと思っても、逆行させるのは難しいし、自分だってそんなことは望まない。
親離れが完了したとき、もう一度関係は組み立て直されるはずなのだから。



…そうだった。あの頃、そんな風に考えていたのだった。



上の息子は直接現地入りしている。いったんこっちにも顔を出せばよいものを、と思わないでもないが、なんと言っても当事者に何かあったら一大事なので動かさないに越したことはない。加えて移動にはそれなりの費用が必要な以上、贅沢は言えないのだ。
下の息子は、昨日妻の実家に行き、義父母と共にきょう成田で落ち合う手はずだ。
自分のほうの両親は出席を辞退してきた。この行動力の差はやはり年齢によるものなのか。とにかくあっちにはさんざん世話になっているだけに、顔を合わすのが少々気が重いが、この慶び事にそんなことは言ってられない。
主な荷物は一足先に向こうに到着しているはずだ。手荷物はそう多くない。
妻は妙に浮かれていて、よく眠れなかった様子だ。やはり、結婚式というのは女の行事なのだなと思う。
かくいう自分もずいぶん浮き足立っていると妻に指摘されてしまった。弁解するようだが、靴下を間違ったのは、片方ずつ違う靴下を一つにまとめてしまった誰かのせいだと思うのだが。

忘れないように写真を手荷物に入れる。

美沙。

あのとき、奇跡なんてこの世に存在しないと思ったけれども。
今ははっきりとそれが本当にあるのだと解る。
それはきっと君の護りだと私は信じているよ。

なんて言っても私たちの息子は男子校で生涯の伴侶と巡り会ってしまったのだから。 


    

3周年企画へ