12:罪
人を縛り動かすものはいろいろあるけれど、一つの代表は恋で今ひとつは罪の感情ではないかと萱島大樹は考えている。
恋についての考察はそれが得意なものに任せるとして、かれがいつも気になってしまうのは罪の方だ。
それはたぶん他人の感情の揺れが伺えてしまう自分の性質と切り離せないものだろうけれど。
今彼のすぐ近くでなかなか面白い現象が起きている。
この二つの感情がいつも隣り合わせているのだ。どっちかというと抱き合わせっていう感じかもしれない。
それは、彼のルームメイト中津とその想い人(!)芦屋と芦屋のルームメイト佐野の3人の間に濃く渦巻いている。他の人に見せられないことがちょっと惜しいぐらい、みごとに層をなし、入り組んで、積み上がって。
中津については説明不要だろう。
まっすぐで単純、屈託のない気性の彼だが、既に開き直って久しいとはいえ、やはり同性の芦屋を好きだということには根源的な抵抗があるらしい。というわけで、彼の恋心には影のように罪悪感がつきまとっている。もしかしたら本人は気がついていないかも知れないけれど。
その中津の思い人、明るくてまっすぐ、と皆が思っている芦屋は実はいつも罪の意識を抱え続けている。それは佐野や中津と接したとき特に肥大する感情らしい。正直それがなんなのか萱島自身には見当がついているが、彼の干渉できる問題ではない事も知っているので黙っている。
そして芦屋が佐野に向ける感情は、恋情以外の何者でもないのだが、そのことに気づいている者が案外多くないのはあからさますぎてかえって目立たないという事なのか、単にみんな他人にかまう余裕がないのか。とりあえず萱島としては、その恋情の1割でも中津に向けてやってくれたらなどといらぬ事を時々考えてしまうのだ。
佐野は正直謎だ。なぜか芦屋と中津に、特に中津により濃く、罪悪感を感じている。初めは同性を好きだと言った中津に嫌悪感を感じる自分が許せなくて、といったたぐいのものかとも思ったのだが(実際そういう奴は中津の周りでは結構いるのだ)嫌悪感などみじんもない時点でこれは間違いだ。このあたりは要観察と言うところ。
そして佐野が芦屋に対して示すのも恋愛感情だと思うのだが、彼のキャラクターによるものなのか、気づいている者はほとんどない。もっとも当の芦屋も全然気づいていないのだからポーカーフェイスも考え物だと思う。
というわけでそんな3人が揃うと間に流れる感情がもつれ絡まり所々で小さく爆発する様子はそれはもうたいしたもので、しかもここへ来てどんどん強まってきている。それでもあの3人が一緒にいるところなど珍しくもないので、誰も何も思わないでいるに違いないのだ。
これから3人がどうなるのかなど解らない。どちらにしても萱島には見守ることしかできない。
時々状態のやばそうな奴に、背後から「大丈夫?」とつぶやくぐらいが関の山で。