09:冷たい手


「手の温かい人は心が冷たいって本当?」

初めてペアでワルツの練習をすることになったとき、君は無邪気な調子でそう言った。
小首を傾げて、目をくりくりさせるその様子は、子犬めいていた。

君の手は驚くほど冷たかった。
冬だけが理由だとは思えない。
私は少し考えてから言った。当時の自分としては精一杯気取ってね。
「いいや、僕の手は普通で、たぶん君の手が冷たすぎるんだと思う。
 ……君はさぞや熱いハートの持ち主なんだろうね。」

君は一瞬困ったような顔をして、じきにくすくす笑った。
私はそんな君のころころ変わる表情にすっかり釘付けになっていた。

恋の始まりなんて、病気みたいなものだね。
でもそのちょっとした熱と浮かれた気分がいろいろな種を育てるんだ。人生とか、家族とかも。

どうやらうちの子供たちは下に行くほど性格が冷静で、末娘など私たちの子とは思えないほど恋愛向きじゃないように見える。

でも大丈夫。
あの子は君に似て、とても手が冷たいんだ。


    

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