物書きさんに20のお題・黄
19:「ビスケット」
瑞稀が転校してきてそろそろ2か月になる。近ごろ、目に見えて元気がない。
原因は、相変わらず愛想のない佐野のこととか色々あるやろうけど、時期的にホームシックも絶対あるはず。オレも経験者やし、わかる。
オレは例のお好み焼き屋、「まいど」を見つけてホームシックも吹っ飛んだんやったっけ。昔から慣れ親しんだ味がホームシックにはよう効くって事やな。せやけど、懐かしい味が欲しいて入った店で、記憶のそれとは似ても似つかんもん食べさせられてまう事も正直ようあることや。そんな時はホームシックがますます悪化するばっかりやから、懐かしの食べ物も要注意ってとこや。
まあ、心配はあとからする事にして。とりあえず調査、と思って聞いてみた。
「なあ瑞稀、何か食べたいものないか?」
「え、別に…って、どうして?」
不思議そうにオレを見る。おっきな目やな。ほんまに可愛らし…おっと。
「いやあの、別になんもないねん」
「?」
毎日いろんな話してるはずやのに、何かをさりげなく聞くのってホンマに難しい。
ありがたいことに、次の日、なんて言うこと無い雑談中に瑞稀がぽろっと言うた。
「ビスケット食べたいなー。メープルたっぷり添えてさー」
ビスケット。それはわかる。なんか懐かしい響きやな。
メープル。ホットケーキのアレやな。うん。
せやけど二つの関連がようわからん。
日曜日の午後、練習がえらい早う終わったんでオレはとりあえずスーパーに行ってみた。
ビスケットの棚に直行する。そういうたらうちの家では、オカンは「マリー」派、オトンは「チョイス」派でオレは「ムーンライト」派やったなー、とか思い出す。つーことで、めぼしい銘柄を全部買う。
ちょうど向かいの棚にジャムやらのコーナーがあって、そこで「メープルスプレッド」を発見した。これをビスケットにはさんだらええんちゃう?メープルシロップ掛けるより絶対食べやすい。シロップかけたら手に持って食べられへんもんな。というわけでこれも買う。
部屋に戻ってから早速試した。
…ちょっとあんまり甘すぎるけど、アメリカの菓子は何でもかんでも甘いらしいから、これでええんかも。自信ないけど。
そうや、焼いたマシュマロと板チョコをビスケットにはさんだん、ボーイスカウトで習った!ていうて小学校の時のツレに食べさせてもろたなあ。ボーイスカウトっていうたらアメリカっぽいやんな。うん。よし、これでいこ。
隣の部屋をノックしたら、瑞稀が出てきた。佐野は外出中らしい。
「瑞稀、ちょっとこれ食べへんか?さっき買うて来て作ってん」
「え、これ何?」
言いながらひとつつまんで食べる。お、ちゃんと笑顔になってる!よっしゃ!
「甘いけど美味しいね。中津んちじゃクッキーこんな食べ方するんだねー」
「いやこれはクッキーやのうてビスケット…」
「クッキーでしょ?」
「そうなんか?」
「面白い組み合わせだけどいけるねー。中津ありがと、ごちそうさま」
正直なんていうか釈然とせんけど、とりあえず喜んでもらえたみたいやな。ホンマ、嬉しそうに食べてたわ。よかった。
…せやけど、ホームシック対策っていう当初の目的から微妙に外してへんか?
部屋に戻って残りのビスケットを睨んでたら、外出してた萱島が帰ってきた。手土産付きやて、珍しい。
「ちょっと相談に乗っただけなんだけどなんかえらく感謝されてしまって。お土産持たされた。男子校の寮だって言ったら、じゃあ皆さんでどうぞって量が倍以上になって」
差しだした大きな紙袋にはケンタのロゴが入っていた。とりあえず萱島の机に中味を広げた。フライドチキンが山盛りに、ポテトにサラダもよーさんあって、で、えっとなんやこれ。
「あ、ビスケットもあるんだ。これ芦屋あたりが好きそうだね」
「ビスケット?ビスケットってこう言うのとちゃうん」
オレはムーンライトの箱を指さして聞く。
「アメリカ英語のビスケットはこんなだよ。それはイギリス英語のビスケットだね」
英語って、アメリカも英語ちゃうんか!なんでアメリカとイギリスとそれから日本とで意味ちゃうねん!どういうことや!オレは心の中で叫んだ。
それから、萱島とほぼ同時に帰ってきたらしい佐野も含めた隣室の二人を部屋に呼んで、4人で大量の食べ物を片付けた。もちろん瑞稀は念願のビスケットを幸せそうに平らげ、「そうか、案外身近に売ってたんだね」と喜んでいたから、オレの第一目的、「瑞稀のホームシック解消」はちょっと予定外のかたちで達成されたらしい。
せやけど、せやけど。
ビスケットごときに騙された気がするのんは、なんでやろ。