物書きさんに20のお題・黄
18:「方向オンチ」
裏面に大きく”野江”と書かれたゲーム機を手に、芦屋はパニックになっている。
画面を注視しつつ、両手でぐるぐる動かしている。あんな奇妙な操作するゲームなんて知らないぞ。
「それなんのゲーム?」
「ちょっと待って、わ、うわー」
もの悲しいサウンドが流れる。ゲームオーバー、なんだろう。
「ごめん邪魔しちゃった?」
「別にいいよ。おれが下手なだけだから」
「どんなゲーム?」
「フツーのアクション。他のところはなんとかなったんだけれど、ダンジョンってすごく苦手なんだよね」
ダンジョンだと思っただけで方向感覚が怪しくなるのだという。ヘンなの。
「芦屋って方向オンチだったっけ?」
「さあ?とくに自覚はないけれど」
我々の会話をすぐそばで黙って聞いていた佐野が吹き出している。
「なんだよー佐野」芦屋はおかんむりだ。
佐野によると、芦屋は特殊な方向オンチなのだそうだ。
「どう見てもヤマカンだけで目的地にたどり着いている」「ちゃんとたどり着くから方向オンチの自覚がない」らしい。
「そんなことないって!」と反論しかけた芦屋だが、
「方向オンチは目印の選び方を間違える」「どうでもいいことに気を取られる」と説明されて
「あるかも…」とうなだれる。面白い。
「しかしそれでも迷わないんだから、すごいよね。勘がイイって、一種の才能かも」とフォローすると、
「ありがとう中央!」とぶんぶん握手してきたあと、
「じゃ、続きがんばる!」と再びゲームを始めた。
佐野は目を細めてその様子を見ている。
…孫を見るじいちゃんのようだ、と言ったら怒るだろうか。
そして僕の視線に気づいた佐野は、照れ隠しのように言う。
「勘が良いだけじゃなくて、どうせ方向オンチだからダメなんだ、なんてみじんも思っていないのが勝因なんだと思う。ポジティブは無敵だな」
「芦屋に直接言ってやったら?」
「図に乗るから却下」
目を見合わせて笑うか笑わないかの瞬間、再びもの悲しいサウンドが芦屋の持つゲーム機から流れてきたのだった。