物書きさんに20のお題・黄

10:「目覚まし時計


第一声では小鳥かと思った。だが、本物の小鳥ならとっくに鳴き疲れて飛び立つであろう時が過ぎても、さえずりは続いている。
佐野の枕元の時計は5時半を指している。佐野自身がセットした時間まで一時間半。
だが、目が覚めてしまった彼は枕元の時計のアラームをオフにして、身体を起こす。

電子音はいっこうに止まらず、その合間の頭上の寝息も断続的に続いている。

この状況への対処法については、最近完全に確立されたと言っていい。最初は起こすべきかどうか迷ったし、どんな起こし方をするのが一番双方にとって平和なのかについて山のような考察を重ねたものだが。

佐野は二段ベッドの下段で半ば立ち上がると、上段の底を音を鳴らして2度3度かるく突き上げた。
とたんに
「わ」との叫び声付きで、上段の住人があわてふためき、2秒ほどおいてようやく目覚ましを止める。

そのあと何もなかったように布団にもぐり込んでしまう気配に、思わず声を掛ける。

「早起きしなければならない予定があったんじゃないのか」

「うん」布団越しらしく、くぐもった声が聞こえる。


小さくため息をついて、佐野はさっさと身支度する。
いささか早すぎる時間だが、すっかり目が覚めてしまった今、もう一度眠くなる頃は本当に起きなければならない時間だろうから。

机に向かって本を読み始めても、上段の住人は起きてこない。少々珍しい事態だが、しばらく考えた佐野は、自分の目覚ましを5分後にセットして上段のカーテンの隙間からつっこんだ。

はたして5分後、上段の芦屋が恐慌状態で目覚ましを二つ持って降りてきた。止め方がわからないうえ、どちらの時計が鳴っているのかすら定かではないらしい。その手から佐野は自分の時計を奪ってすぐに音を止める。

「ありがと、佐野」

「おはよう」

「…おはよう。佐野、早いんだね」

いったい誰のせいだよ、とうんざりした気持ちを慎重に隠しながら、
「お前は予定よりずいぶん遅れているようだけど」と言うと慌てて着替えを持ってバスルームに消えた。


ぽつんと床に残された芦屋の目覚ましをしげしげと眺め、佐野は思う。

よく見ればなんとこの場に不似合いな存在だろう。卵に羽が生えた形状は言うまでもなく、軽やかな電子音までもが少女めいている。
その小ささや地味な色合いでカモフラージュされているが。
それはまるで、男子校の寮というこの環境に一生懸命溶け込もうとしているらしいその持ち主への、佐野自身の違和感を凝縮したようだ。

どんなに本人が努力していても、そして持ち主の存在が日常に成り果てて同室の佐野すらうっかり忘れそうになっても、思いがけないタイミングで不意に「これは異常事態だ」と主張しはじめるのだ。警告音と共に。


佐野は芦屋の目覚ましを拾い上げて本来の場所に戻し、何もなかったように机の前に座り直すと、2度ばかり深呼吸した。

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