物書きさんに20のお題・黄

03:「免疫


裕次郎と遊ぶのは大好きだし、散歩も楽しい。たとえ佐野といっしょでないとしても。
しかし、夏場のお散歩がこんなにツライものになるとは想定外だった。理由はただ、蚊。


アメリカと日本では蚊の種類が違うらしい。皆は刺されてもかゆがるだけなのに、瑞稀は刺されると腫れる。どっちかというと腫れ上がる。なんというか、免疫の問題らしい。
梅田先生にぼやいたら、予防あるのみと言われたので、ウェットティッシュタイプの虫除けと液体蚊取りを購入した。思わぬ出費が痛い。豚の形の蚊取り容器が可愛いのがせめてもの慰めだ。


今日も裕次郎の散歩から帰ってきたら、虫除けを使っていたにもかかわらず数カ所刺されていた。足にも、腕にも。
「あーもう!」と虫さされの薬を塗りながら、
「なんか虫除け全然効いてない気がするったら」とぶーたれているところに佐野が帰ってきた。


佐野は部屋に入って一瞬顔をしかめた。瑞稀が新たに導入した「天然成分虫除けアロマスプレー」のせいだと思われる。
香りの好みは人それぞれなので、もしかしたら佐野の苦手なにおいかも、とあらかじめ瑞稀が大丈夫かと問うたとき、「へーき」と返ってきたので安心していたのだが、ちょっと使いすぎたのかもしれない。たしかに部屋の中が薬っぽい感じがする。


「そういえば佐野って蚊にあまり刺されないの?」
「イヤ普通に刺されるけど」
「でもかゆみ止めとか塗ってるの見たことない」
「ああ、それは要らないから」
要らないってどういうことだろう。聞いてみて、いいのかな。と、しばらくためらっている瑞稀。


と、佐野は突然瑞稀の右腕をはしと掴んで「ココ刺された?薬まだ?」と短く訊く。
「オマエ傷跡残りやすい体質じゃなかったよな?」
思わずこくこくとうなずくと
「ちょっと失礼」と自らの机の引き出しからスクラップ用の小さなナイフを取り出し、刺されたところをがっしりと左手で固定して残る右手でその刃を当てた!
傷、とも言えないほどのごく小さく浅い刃跡。少しの痛みもないものの、あまりの展開に固まっている瑞稀を尻目に、佐野は切り口にためらいなく口をつけて軽く吸い、言う。
「刺されてすぐこうしたら痒くならねぇって中学ん時先輩に教わったからそうしている…って、悪い。口で言うより実地で見せた方が早いと思ったんだけど」


ゆでだこのように赤くなった瑞稀は半分涙目で頷く。
いろんな意味で免疫ないし、もう、なんというか死にそう、と。
そして、部屋に充満するアルコール分がよくなかったかも、と今更気がつくのだった。


真っ赤な瑞稀を見た佐野の脳裏では、しまった、こいつ女なのうっかり忘れてた、傷物にしちまったかも知れねえぜどうしよう、うわああああ、などと言う字幕がぐるぐる回っていたのだが、そんな焦りはもちろんおくびにも出さず、
「わりぃ、傷あとは秋までには治ると思うから許せ。…そういやお前日本脳炎の注射してなくないか?蚊はやばいぞ、いろいろ。気ぃつけないとな」と瑞稀の頭をぽんぽん叩いて、シャワールームに消えたのだった。

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