フリスビー刑事セイラン編・第4話
「光と蔭」


○七聖警察署・取調室

黙秘を決め込んでいる容疑者リッキー。
しびれを切らし、机をバンッと叩くと出ていってしまうランディ。

○同・捜査課

ドアを乱暴に開け入ってくるランディ。
ランディ 「クソッ、黙秘権なんて誰が作ったんだ!」
オリヴィエ 「フリスビーったらイライラしちゃって。リュミエールの代わりにペパーミントティでも入れてあげよっか?」
ランディ 「そんなの100杯飲んだって効きやしませんよ、今の俺には」
オリヴィエ 「おおコワッ」
オスカー 「仕方がないな。ここはやはり”おとしのオスカー様”の出番か。それにしても容疑者が男なのが残念だな」
オリヴィエ 「男だとグーンと下がるもんねぇ、お・と・し・率」
オリヴィエをギロッとにらむオスカー。
オリヴィエ 「こっちはマジコワッ」
オスカー 「いいか坊や。まずは容疑者をリラックスさせなきゃならないんだぜ」
ランディ 「わかってます。だからやってやりましたとも、俺の十八番のバク転をね」
オリヴィエ&オスカー 「バク転!?」
ランディ
「はい。それでもまだ気持がほぐれない様子だったので、次はひねりを入れてみました。取調室の天井が低すぎて、一回ひねり以上は難しいです」
オリヴィエ 「そ、そうなんだ…。今度設備課にかけあってみるね」
オスカー 「…熱が出そうだぜ」
と、戻ってくるリュミエール。
リュミエール 「リッキーの家で、面白いモノ見つけましたよ」
オリヴィエ 「ややっ、その凛々しい笑顔。いよいよ事件解決って感じィ?」
リュミエールが取出したモノー白い粉の入った小袋の束である。
ヒューと口笛を鳴らすオスカー。
オスカー 「なるほどリッキーの奴は薬(ヤク)の売人だったワケか。
となると、真夜中の歩道橋でお嬢ちゃんとランデブーしていたのは、取引きってことか」
オリヴィエ 「その取引き中に何かのトラブルが起きて、突き落とされた、なーるほど」
ランディ 「(顔面蒼白で)彼女に限ってそんなこと! 俺、確かめてきます!」
と、飛出していく。

○同・捜査課前の廊下

セイランにまともにぶつかってしまうランディ。火花を散らし合う二人。
背を向けて走り出したランディに――
セイラン 「彼女のこと、信じてるんじゃなかったのかい?」
立ち止り、ゆっくりと振向くランディ。
セイラン 「彼女の所へ行く前に、刑事としての職務をまっとうしてもらいたいね。僕の言ってること、間違ってる?」

○同・取調室

 取調べているのはオスカーである。
 そしてランディ、セイラン。
オスカー 「君の妖しい瞳で、俺は身体じゅう酔わされてる。さあどうしたら君の裸の姿を、ほとばしる想いを見せてくれるんだ?」
リッキーはもちろん、その場の誰もがげんなりしている。
ランディ 「そりゃある意味”おとし”てはいるんだろうけどさあ…」
オスカー 「お前は、甘い誘惑に目がないんじゃなかったのか?」
と、白い粉の袋を机の上に置く。明らかに動揺するリッキー。
オスカー 「プレゼントはまだあるんだぜ。こう見えても俺は一途な方でね」
と、ビニール袋に入った注射針を机の上に置く。
オスカー 「この注射針は、歩道橋の上で発見されたんだが、うまい具合に血痕が残っていてね、DNA鑑定の結果、リッキー、お前の血液だということがわかっちまった」
唇をわなわな震わせるリッキー。
オスカー 「俺だってつらいんだぜ。お前にとっては重すぎる傷だろう。だが…もしよかったらこの俺の胸に飛び込んできてはくれないか? その傷を、俺のハートで癒してやりたいんだ」
リッキー 「(嗚咽しつつ)あいつが悪いんだ、あの小娘が俺を脅しやがったんだ! 薬(ヤク)を売ってることを警察(サツ)に知られたくなかったら、薬を持ってこい、と」
ランディ 「レ、レイチェルが!?」 

○七聖警察病院・レイチェルの病室

見舞いに訪れた陸上部仲間達と楽しそうに話しているレイチェル。

○七聖警察署・取調室

リッキー 「俺が薬の取引きに使っているコインロッカーのある道が、あいつの早朝ランニングのコースだったんだ。ずっと前から、俺の商売に勘づいていたんだ…」

○リッキーの回想・ロッカーの前(早朝)

ロッカーから札の入った封筒を取出し、ほくそ笑むリッキー。その背後から――
レイチェル 「おはよう、薬屋さん」
ギョッとして振向くリッキー。
レイチェル 「ねえ、お願いがあるんだけどな」

○リッキーの回想・歩道橋の上(夜中)

リッキーの声 「あの夜、俺は言われた通りに薬と注射器を持って取引き場所に行ったんだ。それなのにあいつは――」
注射器を手に、じっと考え込んでいるレイチェル。
リッキー 「なに、簡単なことだよ。最初のチクッを我慢しさえすりゃ、あとは夢の世界だぜ」
レイチェル 「ワタシ…やっぱりいらないワ。こんなモノ」
リッキー 「今さら何を言い出しやがる!?」
レイチェル 「だからもういらないのよ! 安心して。ワタシ、あなたのこと誰にも言ったりしないからさ」
リッキー 「嘘つけ! 知ってるんだぞ、俺は。
お前、ここで若い刑事と会ってたろ!?」
レイチェル 「彼になんか言うわけないわ!
 言えるわけ、ないじゃない……」
リッキーの声 「だが俺の頭の中で囁きが聞こえた――『もう殺るしかない』と」
いきなりレイチェルの身体を抱き上げるリッキー。暴れるレイチェル。
注射器がリッキーの腕にささり、その痛みでレイチェルを放り出してしまう。
一旦手すりに引っ掛かるが、バランスを失って落ちていくレイチェル。
腕から注射器を取るリッキー。その時、針が抜け落ちる。

○元の取調室

茫然と立ち尽くすランディ。
リッキー 「あいつが素直に薬を受取ってれば、こんなことには…。みんなあいつのせいなんだ!」
オスカー 「(リッキーの口に人差し指を当て)見苦しいぜ。幕切れはきれいにいこうぜ」
セイラン 「それに君は一つ忘れていることがあるね。君を人生の断崖絶壁から救い出してくれたのは、他ならぬ彼女だってことさ。
 彼女の生命力のおかげで、君は殺人罪にならずに済んだんだ」
オスカー 「そうだぜリッキー。お前にはまだやり直すチャンスが残されているんだ」
と、リッキーの手を握りしめる。
リッキー
「…熱い掌…。刑事さん、なんか俺何て言っていいかわかんないけど…
 ありがとうございました!」
自慢げにウインクするオスカー。

○七聖警察病院・レイチェルの病室(夕)

 リュミエールとともに訪れるランディ。
ランディ 「レイチェル…犯人を逮捕したよ」
レイチェル 「そう。おめでとう」
と、哀しげな微笑を浮かべる。
気をきかせて退室するリュミエール。
窓を少し開け、風を入れるランディ。
レイチェル 「…ずっと、胸が苦しかった。
たった一人で、いつも先頭を走ってたわ。
誰もワタシを追いかけてこないのに、それでも何か得体の知れないモノに追いかけられてる気がしてた。いつか力尽きてしまう、いつか倒れてしまう…
不安だったの、泣き出したいくらいに。だけど泣くことさえ、ワタシには許されなかった。だから…だから薬が欲しくなったの」
ランディ 「レイチェル……」
レイチェル 「がっかりしたでしょ。天才ランナーの正体が、こんな弱虫で」
ランディ 「君は薬を使わなかった。だから弱虫なんかじゃないさ」
レイチェル 「(涙を浮かべ)ワタシを捕まえてくれる? ランディ刑事さん」

○同・レイチェルの病室の前の廊下(夕)

中から聞こえてくる手錠の音。
リュミエール 「つらい初事件になってしまいましたね」
オリヴィエ 「(ひょっこり顔を出し)こーゆー時はハーブティよりお酒よね☆ リュミエール、あんたも付き合いなよ」
リュミエール 「はい、喜んで」

○公園(早朝)

ベンチで詩集を読んでいるセイラン。
サニーを連れたランディがやってくる。
セイラン 「何か用?」
ランディ 「この前ここであなたを殴ったことを謝りたくて。すみませんでした」
と、深々と頭を下げる。
セイラン
「君はこれまでずっと光の中を歩いてきたんだろうけど、刑事としての道を歩むなら、光が織りなす蔭を追わずにはいられない。それが君にできる?」
ランディ
「それができた時、俺は一人前になれるんでしょう。今は…やるだけです。
 たとえ一歩ずつでも」
セイラン 「(初めてランディを見て)君の成長を楽しみにしてるよ」
と、まとわりついてくるサニー。
セイラン 「もちろん君もだ、サニー」
うれしそうに吠えるサニー。
ランディ 「さあ行こう!」
と、決意に満ちた顔で走っていく。
にっこり微笑むと、再び詩集を読むセイラン。

(セイラン編完チャーリー編に続く)


完結記念に元ネタ「太陽にほえろ!」について熱く語ってみました。
「太陽ファンに50の質問」です。

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扉絵の渋さとはもはや全く別人のオスカー刑事。チャ−リ−編になっても扉絵のカックイイッイメージとはますますかけ離れることウケアイだーね。(すばる)

セイラン編は終わったけれど、このシリーズ、大河連載になりそうな予感。
皆様のご感想とリクエストをお待ちしております。(ちゃん太)

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