フリスビー刑事セイラン編・第3話
「危機一髪」


○七聖警察署・鑑識課

 左頬を腫らしているセイラン。
 普段にも増して近寄りがたい空気に、遠巻きにしている鑑識係員達。
セイラン 「(書類に目を通し)血液型はB型か。レイチェル・ハートと同じだな…」

○同・捜査課

係長デスクで頬杖をつくオリヴィエ。そのデスクに大胆に腰かけるオスカー。
オスカー 「ハデにやらかしたらしいな、フリスビーの坊やは」
オリヴィエ
「顔を殴るなんてサイテー。彼の辞書に『美意識』って文字はないってネ。
 白いマフラーはだてじゃなかったってこと」
と、きわめて不機嫌だ。
オスカー 「(右手を出し)完全に俺の勝ちだな、オリヴィエ係長」
リュミエール 「また何か賭けをされたのですか? 慎みのない方達ですね」
オスカー
「ほんのささやかな賭けさ。『セイランとフリスビーが、1週間以内に戦闘を交えるか否か』――俺の答えはイエス。そして非の打ち所のない勝利、だよな?」
オリヴィエ 「もうっ、ここんとこ負けてばっかり。もってけ、ドロボー」
と、拳銃トレカを1枚オスカーに渡す。
オスカー
「これこれ、これがどーしても手に入らなくてね。
 この分じゃコンプリートの日も近いか、フッフッ…」
リュミエール 「(トレカを垣間見て)確かに撃ち心地の良さそうなボディラインではありますが…」
と、ため息。
オリヴィエ 「ところでオスカー、目撃者は見つかったのかい?」
オスカー 「(トレカを大事そうにケースにしまうと)残念ながら今のところゼロだ。第1発見者のトラック運転手も、彼女以外、誰も見ていない」
リュミエール 「あのような人気のない所へ何をしに行ったのでしょう、彼女は?」
オリヴィエ 「だよねェ。フリスビーの情報待ちって感じィ?」

○七聖学院大附属高校・教官室

 陸上部顧問のハリーの嘲るような笑い声。
ハリー 「ドーピングなんてとんでもない!
確かに彼女の脚力は人のレベルを越えたモノを持ってます。だがそれは自らに厳しい課題を与え、克服し続けた努力の積み重ね以外の何物でもありませんよ、刑事さん」
ランディ 「変なこと聞いてすみませんでした。
 ハリー先生、大会のことですが、レイチェルを脅かすようなライバル選手は本当にいませんでしたか?」
ハリー 「いませんね。彼女の実力はとび抜けていましたから」

○同・表

いくぶんホッとした表情で出てくるランディをリュミエールが出迎える。
ランディ 「先輩…」
リュミエール 「あなたの焦る気持もわかりますが、ティブレイクしませんか?」

○カフェテラス

ポットからローズティを注ぎ込むリュミエール。
リュミエール 「ふさぎ込んだ時にこのローズティを飲めば、気分が明るく前向きになるそうです。さあ、どうぞ」
ランディ 「すみません」
と、飲んでみるが、よく味がわからない様子だ。
リュミエール 「…セイランをぶったというのは本当なのですか?」
ランディ 「できればその話はしたくないです」
リュミエール 「そうですか。…セイランは七聖署に来て日は浅いのですが、既に数々の輝かしい業績を上げているのですよ。私はかつて彼にその秘訣をお聞きしたことがあります」
ランディ 「秘訣?」
リュミエール 「まさかそんなことを簡単に教えて下さるとは思いませんでしたが、彼はこんなことを言われたのです――」
セイランの声 「僕の心の窓には、摩りガラスが入っているんです。だから人が見え過ぎて見えないものが、僕には見えてしまう」
ランディ 「摩りガラス…」
リュミエール 「その時の彼の顔、少し淋しそうでしたね…。それに比べてフリスビー。
 あなたの心の窓にはガラスさえなくて、風が通り抜けている気がするのですよ。もしかしたら、イライラしているのはセイランの方かもしれませんね。今度ペパーミントティでもお持ちしましょうか…」
 窓からの風がランディの白いマフラーを揺らしている。
 突然ランディの電話が鳴り出す。
ランディ 「…ランディですが。えっ! 病院でレイチェルが襲われた!?」 

○七聖警察病院・集中治療室前の廊下

真新しい血の跡が点々としている。
既に到着しているセイラン、オスカー。 
そこへ急ぎ足でやって来るランディとリュミエール。
セイラン 「ストップ! 血痕の採取の邪魔をしないでもらいたいな」
ランディ 「そんな言い方はないでしょう!」
と向っていこうとするのを、リュミエールが制する。
リュミエール 「どんな状況なのですか? オスカー様」
オスカー 「覆面をした男が、お嬢ちゃんを警護していた警官をいきなりナイフで切りつけたらしい。反撃して男も傷を負ったようだが、まんまと逃げられた。俺様だったら、そんなドジは踏まないがね」
ランディ 「じゃ無事なんですね、レイチェルは」
オスカー 「ああ。だが、どうも腑に落ちないぜ。目的がお嬢ちゃんだとすると、警官とハデに立回る必要はないんだが」

○同・男子トイレ

 覆面をゴミ箱に脱ぎ捨てる若い男。
 紙袋から白衣を出して着替え始める。

○同・集中治療室(夕)

意識を取戻すレイチェル。
ランディ 「レイチェル! 俺だ、ランディだ。わかるかい?」
かすかにうなづくレイチェル。
レイチェル 「ここはどこ?」
ランディ 「病院だよ。歩道橋の上から落ちたこと、覚えてるかい?」
レイチェル 「歩道橋…!」
と、急に恐怖の表情になる。
ランディ 「誰かに突き落とされた、そうなんだね、レイチェル!」
ますます恐怖の色が濃くなる。
ランディ 「一体誰なんだ、そいつは!?」
レイチェル 「…わからない。知らない人」
と、苦しい表情に。
ランディ 「ごめん、レイチェル。やっと目を覚ましてくれたのに俺…。今、医者を呼ぶからね」

○同・集中治療室前の廊下(夕)

一人の医者が歩いてくる。
その医者とすれ違うセイラン。
セイラン 「血が…」

○同・集中治療室(夕)

入って来る医者。その直後に走り込んでくるセイラン。
セイラン 「気をつけろ! 彼の白衣の袖口に血がにじんでいる!」
医者 「クソッ」
と、ナイフを出してレイチェルに襲いかかろうとするが――。
ランディ、飛び蹴りでナイフを医者の手から跳ね上げてしまう。
しばらく格闘しているが、やがて白衣を脱ぎ捨て、部屋から逃げ出す犯人。
追うランディ。

○同・玄関(夕)

 犯人を追って走ってくるランディ。
 犯人の前に拳銃をかまえて立ちはだかるリュミエール。
リュミエール 「お願いです。どうか私に、この引き金を引かせないで下さい」
立止まった犯人に後ろから飛びかかり、取り押さえて手錠をかけるランディ。
リュミエール 「よかったですねー、フリスビー。お手柄ですよ」
ランディ 「先輩のおかげです。それと、彼の」
と、セイランの方を振返る。
セイラン
「一度襲って失敗したと見せかけて、間髪入れず周到な計画で確実に仕留める。
作戦としては悪くなかったが、白衣についたケガの血のシミが、君にとっては不運だったね」
 がっくりと肩を落とす犯人。

  「対立」へ  続き

これ書いた後で、くりずさんから扉絵が届いたんだけど、まるで内容を知っていたかのような水様の拳銃シーンがあって大喜びいたしました!(すばる)

オスカーに様付けするリュミ様……ぽ。(←意味不明)(ちゃん太)

フリスビー刑事 扉へ

すばる劇場へ