フリスビー刑事セイラン編・第2話
「対立」


○七聖警察署・会議室

ハーブティを配っているリュミエール。
リュミエール 「今日はレモンバームをお入れ致しました。これは――」
オスカー 「記憶力を高める、だろ?」
リュミエール 「(カチンときた様子で)それだけではありません。レモンバームには疲労防止効果もあるのです。特にフリスビーに飲んでいただきたくて」
ランディ 「ありがとうございます。でも俺、(とバク転し)この通り、疲れ知らずですから!」
オリヴィエ 「じゃ、元気一杯に夕べのことを報告してくれる?」
現場の地図や写真を貼ったボードで説明を始めるランディ。
ランディ 「午前3時8分に通報があり、4丁目歩道橋下に急行したところ、頭から血を流した女子高生が救急車で搬送されるところでした。被害者の名前はレイチェル・ハート。七聖学院大附属高二年です」
セイラン 「いきなり嘘はいけないな。新人刑事君」
ランディ 「何ですか、『嘘』って?」
セイラン 「君はたった今『被害者』と言ったが、まだこの一件が事件だとは証明されてはいないよ。レイチェル・ハートは『自殺者』なのかもしれない」
ランディ 「彼女は自殺なんかしません!」
と、その語気に驚く一同だが、
セイラン 「(一人冷静に)根拠は?」
ランディ 「俺は彼女を知っています。ジョギング仲間なんです。レイチェルは自他ともに認める天才ランナーで、大会を控えて、自らの記録に挑戦するんだと張り切っていたんです。そんな彼女が自殺だなんて、絶対にありえません!」
あきれた笑いを浮かべるセイラン。
セイラン 「君、それでも刑事? 悪いけど僕は確たる証拠がない限り、君のそのおめでたい説に納得するわけにはいかないよ」
ランディ 「『おめでたい』ってどういう意味ですか!?」
セイラン 「それ以上の意味もなければ、それ以下の意味もないよ。係長、鑑識課としては事件、事故、あるいは自殺の線もふまえ、証拠品探しを始めますのでよろしく」
 と、出ていってしまう。
オスカー 「どうやら坊やは、青髪の麗人に嫌われたようだな」
オリヴィエ 「まあそのへんはおいといて、そのレイチェルちゃんからは何か事情聴取できなかったワケ?」
ランディ 「はい、既に意識不明で。現在も七聖警察病院の集中治療室で、予断を許さない状況です…」
リュミエール 「(ランディの肩に手をおき)大丈夫ですよ。信じましょう、若き天才ランナーの生命力を」
大きくうなずくランディ。
オリヴィエ 「もしフリスビーの言うように事件だとしたら、それなりの理由があるハズよね。だからアンタはレイチェルの周辺の聞き込み。特に昨日一日の行動を洗ってみて。オスカー、リュミエールは目撃者探し、お願いネ☆」
ランディ 「わかりました。俺、必ず彼女が自殺じゃないって証拠、つかみますから!」
と、勢いよく出ていく。
オスカー 「熱いハートが燃えてるね〜」
リュミエール 「私にもああいう時代がありました」
オリヴィエ 「へえ〜、気がつかなっかたねェ」
 ハーブティを一気飲みするリュミエール。

○七聖学院大附属高校・グランド

 陸上部員達に話を聞いているランディ。
部員A 「レイチェルなら昨日も絶好調な走りで、6時頃まで練習して帰ったわよ」
ランディ 「何か変わった様子、なかった?」
部員A 「ないわよ。いつも通り、『自信』に手足がくっついてる感じ。ねっ」
部員B 「ええ。レイチェル、大会に出られなくなって、悔しいと思うわ。
 刑事さん、きっと犯人捕まえてよね!」
ランディ 「ああ、もちろんだよ」

○歩道橋の上

 手袋をして調査しているセイラン。
 ふと何か光る物に気がついた。
 セイランがつまみ上げた物――それは折れた短い針で、先に血痕が付いている。

○バー(夜)

お互いの顔も見えないほど暗い照明。
生演奏らしきジャズ音楽が聞こえる。
カウンターで一人カクテルを飲んでいるセイラン。
セイラン 「マスターは『天才』って呼ばれたことがある?」
マスター 「……」
セイラン 「別に答える義務はないよ」
マスター 「『天才とは、何よりもまず苦悩を受けとめる先駆的な能力である』…」
セイラン 「トーマス・カーライル、だね」
マスター 「あー、そうなんですかー。誰の言葉かは知りませんでしたが、うー、お客様を見ていたら浮かんできたんですよー」
セイラン 「それって光栄に思うべきなのかな、僕としては。カーライルはこうも言ってる、
 『理想は我々自身の中にある。同時に、その達成に対する諸々の障害もまた、我々自身にある』とね」
マスター 「勉強になりますねー、うんうん」

○七聖警察病院・集中治療室(夜)

窓越しにレイチェルを見舞っているランディ。
酸素マスクで苦しそうに息をしているレイチェル。
レイチェルの声 「…天才ランナーのライバルはたったひとつ。記録だけよ。そっちこそがんばりなさいよ、ランディ刑事さん」
グッと拳を握りしめるランディ。
ランディ 「レイチェル、君の仇はきっとこの僕がうってみせる。だから、負けるなよ!」

○同・集中治療室前の廊下(夜)

集中治療室の方を窺っていた怪しい人影に気づくランディ。
ランディ 「誰だ!」
あわてて逃げる人影。
ランディ 「待て!」
 と、追いかけるが見失ってしまう。
ランディ 「何者なんだ、一体…」

○公園(早朝)

ベンチで詩集を読んでいるセイラン。
犬の吠え声に顔を上げると、目の前にランディとサニーがいる。
セイラン 「何か用?」
ランディ 「夕べ病院に怪しい人物が現れました」
セイラン 「怪しいってどんな風に?」
ランディ 「明らかにレイチェルの部屋の様子を窺ってました」
セイラン 「明らかに、君の主観だ」
ランディ
「そう言うと思ったよ。でも俺の中では、彼女が何らかの事件に巻込まれた可能性がどんどん増えてる。これから俺は、彼女のジョギングコースを走って、その事件の手がかりを探るつもりです。じゃ」
と、走り去ろうとするが――。
セイラン 「待ちたまえ。一つ聞きたいことがあるんだ」
ランディ 「何でしょう?」
セイラン
「天才ランナーの蔭にはとかく黒い噂がたつものだけど、レイチェル・ハートの場合はどうだったのかな? 例えば…ドーピング疑惑とか」
言い終わらないうちにセイランの頬を張りとばしたランディ。
ランディ
「彼女を侮辱するな! ただでさえあんなヒドイ目に合った彼女に、あなたはさらにイチャモンをつけるのか! セイランさん、鑑識課だったことは幸運だよ。もし捜査課なら、あなたのニックネームは間違いなく『イチャモン』だよ!」
セイラン 「ははっ、『イチャモン刑事』、なかなかいいネーミングじゃないか。但し、美的センスのかけらもないけどね」
 と、腫れ始めた頬をおさえる。
 心配そうに鼻を鳴らすサニー。
セイラン 「ありがとう。平気だよ」
ランディ 「サニー! そんな奴になつくんじゃない! ほら、行くぞ!」
 と、走り出す。
 ランディの顔に不安の影がみるみる広がっていく――。

  「新人刑事の掟」へ  続き

あの方が、そこはかとなく御登場ですが、きっとバレバレ。(すばる)

やっぱりランディは「負けるなよ!」よね!!
本筋にはカンケー無いけれど、中堅3人の掛け合いが大好き。(ちゃん太)

フリスビー刑事 扉へ

すばる劇場へ