フリスビー刑事セイラン編・第1話
「新人刑事の掟」


○公園(早朝)

詩集を片手にベンチにすわっているセイラン。
セイラン 「『空は晴れてても、建物には蔭があるよ、
 春、早春は心なびかせ、
 それがまるで薄絹ででもあるやうに ハンケチででもあるやうに 我等の心を引千切り
 きれぎれにして風に散らせる』…」*
いっせいに飛立つ鳩の羽音。
犬を連れて、白いマフラーをした一人のランナー登場。
ランディ 「おはよう、みんな。いい朝だね」
と、いきなりバク転。
眉をひそめて見ているセイラン。
ランディ 「さあ行くぞ、サニー」
と、軽やかに走り去っていく。
大きくため息をつくと再び詩集を読むセイラン。

○歩道橋の上(早朝)

橋の真ん中で、その場駆け足状態で待っている少女レイチェル。
レイチェル 「あっ、やっときた」
犬の吠え声がして、ランディが階段を登ってくる。
レイチェル 「こら、遅いゾー」
レイチェル同様、その場駆け足で腕時計を見るランディ。
ランディ 「遅いもんか。いつもと同じ時間じゃないか。君が早すぎたのさ」
レイチェル 「大会が近いからね。ペース上げてるのよ。おはよう、サニー」
 と、まとわりついてくる犬をなでてキスする。
ランディ 「その調子じゃ、今回もまた優勝かい、レイチェル?」
レイチェル 「当たり前でしょ。天才ランナーレイチェルのライバルはたったひとつ。記録だけよ」
ランディ 「そうか。がんばれよ」
レイチェル 「うん。そっちこそ、今日初出勤なんでしょ。がんばりなさいよ」
ランディ 「…ひょっとしてそれ言うために俺を待っててくれたのかい?」
レイチェル 「まさか! ねえサニー、アナタの御主人って相当なうぬぼれ屋ねー。じゃ、またね、ランディ刑事さん」
 と、ウインクして走り去っていく。
名残惜しそうに吠えるサニー。
ランディ 「『ランディ刑事さん』か…。とうとうこの日が来たんだな」
と、瞳を輝かせる。

○七聖警察署・捜査課(朝)

係長デスクで一枚の書類を熱心に見ているオリヴィエ係長。
オリヴィエ 「なるほどねー」
と、デスクに笑顔でハーブティを置くリュミエール刑事。
リュミエール 「今朝はローズマリーに致しました。頭脳明晰作用がありますので、きっとよい発想が浮かびますよ、係長」
オリヴィエ 「ありがとね。うーん、いい香り」
と、廊下を走ってくる音が聞こえる。
オスカー 「(新聞を閉じ)おでましだな」
勢いよく飛込んでくるランディ。
ランディ 「おはようございます!」
 一瞬の沈黙の後、
オリヴィエ 「きゃはは、いきなり時間ピッタリで好感度アップって感じィ?」
 違和感満載のハデハデしいオリヴィエを見てかたまっているランディ。
リュミエール 「おはようございます。こちらがオリヴィエ係長ですよ」
ランディ 「あっ失礼しました。本日付けで捜査課勤務を命じられました、ランディです」
オリヴィエ
「まあ見るからに『正義の味方』ってとこ、けっこー気に入ってるんだけどさあ、その白いマフラーはどうかしらねー。なーんか中途半端じゃない?」
ランディ 「はあ…」
オスカー 「フッ、『お前に言われたくない』って顔してるぜ」
ランディ 「そんなこと!」
オリヴィエ 「マフラーのことは後回しにして、とりあえずみんなに紹介するわね。今日から仲間になった、『フリスビー』君よ。遠慮なく鍛えてやってちょうだいね!」
ランディ 「あの係長、俺の名前は…」
オリヴィエ 「あららら、もしかしてこの新人君は、うちのルール知らないのかな?」
ランディ 「ルール?」
オスカー
「知らなきゃ教えてやろうか、坊や。ここでは刑事として一人前と認められるまでは名前では呼ばれない。『フリスビー』てーのは、それまでの仮の名ってことだ。わかったか?」
リュミエール 「私も今でこそ『リュミエール』と呼んでいただけるようになりましたが、つい先日まで『ハーブ』と呼ばれていたのですよ」
オリヴィエ 「”新人刑事の掟”だから当分ガマンしてね、フリスビー☆」
ランディ 「…ルールはわかりましたけど、でも、『フリスビー』はちょっと俺…」
オリヴィエ 「気に入らない? じゃ『ばんそうこう』にする? それとも『イヌのぬいぐるみ』がいいのかな、きゃはは」
ランディ 「……」
突然ドアが開いて、ファイルを手にしたセイランが入ってくる。
セイラン 「先日の強盗事件の報告書をお持ちしました」
オリヴィエ
「御苦労様。丁度よかった、紹介しておくわ、セイラン。今日から捜査課に配属になったフリスビー君よ。彼はね、鑑識課の若きエース、セイラン。とってもお世話になるはずだから仲良くネ」
ランディ 「よろしくお願いします」
と、右手を差出す。
その手をチラと見て無視するセイラン。
セイラン 「ま、せいぜいがんばってくれたまえ。僕の見たところ、君が名前で呼ばれるまでに3年はかかりそうだけど」
と、去っていく。
オスカー 「相変わらずだな」
リュミエール
「気にすることはないですよ、フリスビー。彼はいつもあんな風で…。
 心の中は言葉ほど辛辣じゃありませんし。それに笑うと意外に可愛いのですよ」
オリヴィエ 「あれ? それってもしかして、自分もカワイイって言うための前フリ?リュミエールちゃん」
リュミエール 「もう茶化さないで下さいっ」
オリヴィエ 「あらゴメン。そうよねー。もう『ハーブ』は卒業したんだもんねー」
やってられない、というように新聞で顔を隠すオスカー。
思い切り落ち込んでいるランディ。

○ランディの家(夜)

 サニーにエサを運んでくるランディ。
ランディ
「(サニーの頭をなでながら)たくさん食べろよ。…全く今日は散々だったよ。そうだよ、何か変だと思ったんだよ。プロフィール書類の中に『プレゼントされたい物』なんて欄があってさ。バカ正直に書かなきゃよかったよなあ〜」
 窓を開け放し、満天の星を見上げるランディ。
ランディ 「よーし、こうなったら一日も早く一人前の刑事になって『フリスビー』なんて名前を返上だ!」
フッと脳裏によみがえるセイランの顔。
セイランの声 「僕の見たところ、君が名前で呼ばれるまでに3年はかかりそうだけど」
ランディ 「何て嫌味な奴なんだろう。鑑識課の若きエースなんて言われてたけど、きっと今に俺のことを認めさせてやるぞ」

○七聖警察署・捜査課(夜中)

ソファで仮眠しているランディ。
突如鳴り響く電話。
ランディ
「(電話に飛付き)はい、捜査課。
…4丁目の歩道橋の下で人が倒れている……わかった、すぐ行く!」
と、マフラーをなびかせ出ていく。

○歩道橋の下(夜中)

何人かのやじ馬。
ランディが到着すると、少女が救急車に運び入れられている。
その少女を見て愕然とするランディ。
ランディ 「レイチェル!」
血を流し苦しそうにうなっているレイチェル。
ランディ 「しっかりしろ! 一体何があったんだ! レイチェル! レイチェル!」
夜空にこだまするランディの叫び。

*詩:中原中也「早春散歩」


続き

今んとこ全4話の予定。
「戦国〜」よりはコメディ色濃くしたいなあ〜と思ってるんだけどね。
感想、お待ちしとりますだ。(すばる)

というわけで七聖(ななひじり)署を舞台におなじみの面々が活躍の予定です。
私的には「対等でない」中堅3人組がむっちゃ新鮮だったのですが、皆様いかがでしょう。(ちゃん太)

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