フリスビー刑事ティムカ編・第2話
 「休暇は終わりぬ」


○銃口

狙いをつけられた銃口から弾丸が発射される!

○七聖署管内のアーケード街(夜)

足下のふらついた若者が拳銃を乱射している。逃げ惑う人達の叫び声。

○七聖警察署・捜査課(夜)

素早くデスクの電話を取るオリヴィエ係長。
オリヴィエ 「…銃の乱射だって!?」
立ち上がるランディ。
オスカー 「リュミエールがいない時に限ってコレだ…」
と、舌打ちをして拳銃を装備する。

○海辺の安ホテル・表(夜)

玄関から仲良く出て来るティムカとリュミエール。
少し離れた車の陰からティムカを狙っている銃口。だがリュミエールがチラチラと重なってしまい、撃つタイミングを逸してしまうのだ。
男の声 「…何だよ、あいつは! まさか用心棒ってわけでもないだろうが…」

○居酒屋『金魚屋』・表(深夜)

店ののれんをしまうアル。

○同・中(深夜)

客はアギオ一人だけである。
アル 「ずい分と待たしちまって悪かったな」
赤ら顔のアギオが、急に緊張した態度になって、リュックを開けようとした瞬間、店の電話が鳴る。
アル 「(電話を取り)…ボスですか、はい…はい…わかりました(と電話と切ると)アギオさんとやら、あんた、とんでもない奴に『金魚』を売っちまったみたいだぜ」
鋭い目つきのアルに完全にうろたえてしまっているアギオ。

○七聖警察署・取調室(翌朝)

オスカーが拳銃乱射犯ロウと向き合い、ランディが横で記録をしている。
オスカー 「…ロウ、お前、もしかしておばあちゃん孝行だったんじゃないか?」
不可解な表情でオスカーを見返すロウ。
オスカー 「夕べあれだけの群衆の中で銃をブッ放して、数人のケガ人で済んだんだ。俺はてっきり、お前の亡くなったおばあちゃんにでも守ってもらったのかと勘違いしちまったぜ…」
ランディの独白 「オスカー先輩、相変わらずだな…こんな狂気じみた奴に、果たして通じるんだろうか…」
ロウ 「ばあさんどころか、俺は親の顔も知っちゃいないぜ」
オスカー 「なるほど『天涯孤独』っていう奴だな」
と、ビニール袋に入った拳銃を置く。
オスカー 「で、そんな孤独、いや孤高と言った方がいいのかもしれんが、そんなお前に誰がこんな物騒なおもちゃを恵んでくれたんだ?」
ロウ 「…それこそ、顔も知らないばあさん、かもしんねぇな、フッ…」
ランディ 「ふざけるのもいい加減に…」
オスカー 「(ランディを制して)いや、こいつはマジだぜ。どうやらどこかで『拳銃の神様』にでも会っちまったらしい」
ロウ 「(オスカーを凝視して)あんた、刑事より占い師に向いてんな」
オスカー 「ああ、よくそう言われてるぜ」

○港・ティムカの小船

漁船ではなくプライベートな船である。
招待を受けたリュミエールが、物珍しそうに船内を観察している。
奥のキッチンからトレーにフラッペを載せて登場するティムカ。
ティムカ 「やっぱり変ですか? 船の中に暮らしているってこと」
リュミエール 「そんなことはありませんよ。
 私も様々な部屋を知っていますが、これほどくつろげる空間は稀有だと思います」
ティムカ 「(顔をパッと輝かせて)本当ですか!? そう言っていただけると僕もうれしいです。さあ、僕自慢のコーヒーデザート『ココアミント・エスプレッソ・スムージー』を召し上がって下さい!」
リュミエール 「ありがとうございます。この氷、まるで波の泡のようですね」
ティムカ 「さすが芸術家の方はほめ方も絵的なんですね」
と、リュミエールの優雅なスプーンの運び具合にも感心している様子だ。
リュミエール 「…これは、コーヒーとチョコレートとミントの香りが絶妙のバランスで…うーん、ティムカさんの才能は計り知れませんね」
ティムカ 「そんな、ほめすぎですよ」
    × × ×
フラッペを完食し、再び船内を見回しているリュミエール。小さな宝船の模型に目が止まるのだ。
ティムカ 「その船はここの船神事用の宝船のミニチュアなんです」
リュミエール 「豊漁を祈る気持がよくわかりますね。ただ魚の気持を思うと少し複雑な気もしますが」
ティムカ 「魚に気持があるとすれば、ですが」
リュミエール 「! ではあなたは魚には気持がないと?」
ティムカ 「ええ。あくまで個人的な意見ですけど、僕にはあるようには思えないです」
リュミエール 「(落胆したように)そうですか…」
ティムカ 「…もしも気持があるとしたらそれは、海そのもののような気がします」

○同・表(夕)

小船から出て来るティムカとリュミエール。黄昏時である。
ティムカ 「あの、リュミエールさんはまだこちらにいられますか?」
リュミエール 「ええ、あと何日かは。絵が完成するまで、と言いたいところなのですが、なかなか意のままにはいきませんから」
ティムカ 「それじゃ是非週末の祭を御覧になって下さい。僕も豊漁願い舞を披露することになっているんです」
リュミエール 「それは是非見させていただきますよ。でも又絵の題材が増えてしまいましたねぇ」 
ティムカ 「あはっ」
と、笑おうとするがただならぬ気配に緊張感がみなぎる。リュミエールもティムカを狙う銃口の存在に気付いた!
リュミエール 「危ない!」
と、ティムカに体当たりすると同時に数発の銃声が響き渡る。
ティムカ 「おケガ、ありませんか?」
リュミエール 「あなたこそ」
ティムカ 「僕は平気です。こんなのしょっちゅうですから」
リュミエール 「何ですって!」
リュミエールの瞳に刑事魂が甦る!

○バー・シルクロード・中(夜)

お互いの顔も見えないほど暗い照明。
生演奏らしきジャズ音楽が聞こえる。
カウンターでレイチェルが一人でカクテル「ドゥ・リギュール」を飲みながら、時々扉の方に目をやっている。
マスター 「『短い不在は恋を活気づけるが、長い不在は恋をほろぼす』…ああ、余計なこと言ってしまいましたねぇ」
レイチェル 「! そういえばここで待ち合わせてる時って、ワタシ結構待ちぼうけってパターンですよね」
マスター 「大丈夫ですよ。フリスビーさん、今頃全速力で向っていますよ。ところでルーティスはお元気ですか?」
レイチェル 「ええ、おかげさまで。あの子最近、ワタシがデートだとわかるみたいなんですョ」
マスター 「ほう〜それは又どうしてでしょう」
レイチェル 「警察犬の勘なんでしょうか。今夜だってまとわりついてなかなか出かけさせてくれなかったんですョ」
と、ケータイの振動に気付く。
顔を見合わせるレイチェルとマスター。

○同・表(夜)

明らかにがっかりした様子のレイチェル。
ランディの声 「ごめんよ。この埋め合わせはいつか必ずするから!」
レイチェル 「気にしないで。乱射事件の捜査なんでしょ。くれぐれも気をつけてネ」

○同・中(夜)

マスター 「…どうやら今夜もジンクスが当たってしまったみたいですねえ。『ドゥ・リギュール』を頼んだら、待ちぼうけになってしまう…教えてあげた方がいいんですかねえ」
と、グラスを見つめてため息を吐く。

○七聖警察署・捜査課(夜)

勢いよく入って来るランディ。
ランディ 「係長、モンタージュ上がりました。
 いやーそれにしてもオスカー先輩の“ 落とし術” さすがですよね!」
オリヴィエ 「そんな注釈いらないから、サッサと写真をお見せ(と写真をひったくり)
 こいつが拳銃の運び屋なんだね」
ランディ 「はい。ロウは偶然その男と肩がぶつかって、リュックから落ちた物を拾って渡そうとしたら、男は逃げ、開けてみたら拳銃だったと、供述してます」
オリヴィエ 「フーン、なーんかなさそーでありそーな話だねえ。…にしてもどこかで見たような顔だねえ…」
オスカー 「だろうな」
と、颯爽と入って来るとおもむろにペンを出し、写真に描き加えるのだ。
オリヴィエ 「アーーッ、アギオ!!」
オスカー 「御名答。例の『猫屋』ウルフォードんとこの若い奴だ」
オリヴィエ 「ウルフォードったら、まーだ懲りずに悪さしちゃってんのね! 今度という今度はもう許さないんだからっ」
と、デスクに叩き付けられた写真には、ヒゲを描かれたアギオが写っている!

○港(夕)

港祭り当日。大きな篝火が炊かれており、大勢の漁師や観光客で賑わっている。その炎に照らされるアギオの顔。
不安な様子で、自分に近付く人間に神経を尖らせている。
    × × ×
船神事用の宝船の側では舞の装束を着たティムカとリュミエールがいる。
ティムカ 「何もリュミエールさんまで船に乗ることはないじゃないですか。僕は子供の頃から船に乗っているので、海上の音はどんなに小さくてもわかるんです。だから」
リュミエール 「いいえ! 私はあなたが狙われていると知った以上、黙って見過ごすわけにはいかないのです」
    × × ×
陽が落ち、木製のスリットドラムのみで奏でられるシンプルな音に合わせ、ティムカが宝船上で華麗な舞を始める。
物陰から周囲に鋭い視線を走らせているリュミエール。
リュミエールの独白 「狙撃者側から見れば、狙い時は彼が背中を見せた時でしょうか…」
大勢の観衆の目を釘付けにしているティムカの神がかりな舞姿。
アギオも見とれているが、突然背後から襲われ、数人の男達に連れ去られしまう。
ケータイをかけるアル。
アル 「…ボス、アルです。手筈通りアギオは捕えました」

○ウルフォードのアジト(夜)

ジュラルミンケースから拳銃を取出し、感触を確かめながら、電話の応対をしているウルフォード。
ウルフォード 「急げ。どうやらサツの連中も動き出したらしい。アギオの口は塞がなきゃならねえ、何としてもな」

○『情報屋』・前(夜)

チャーリーの声 「毎度ありぃ!」
ランディ 「(写真を手に)これはとんでもないことになりそうだぞ!」
写真には海岸に立つアギオ、そして遠方に絵を描くリュミエールが写っているのだ!
(つづく)

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