フリスビー刑事ティムカ編・第3話
 「眠れる水」


○七聖警察署・駐車場(夜)

覆面車の運転席にオスカー、後ろの席にランディが乗込む。

○走る車の中(夜)

オスカー 「フリスビー、紙袋の中にお前さんの着替えを用意してやっといたからな、センス抜群の俺の見立てだ、ありがたく思えよ」
ランディ 「ありがとうございます!」
と、紙袋から取出した服はド派手なアロハシャツだ。
オスカー 「俺はウルフォードに面が割れてるからな。今回の潜入捜査はお前のチンピラとしての演技力にかかってるってわけだ」
ランディ 「(アロハシャツをうんざりと見つつ)先輩…俺、どうしてもチンピラじゃなきゃダメですか?」
オスカー 「どうしても嫌だと言うなら、係長が用意した『アバズレホステス』役の衣装がトランクに入ってるがな」
ランディ 「いや俺、これでいいです!」
と、潔く上半身裸になるのだ!
    × × ×
すっかりチンピラ風になっているランディ。
ランディ 「それで、『猫屋』ウルフォードというのは何者なんですか?」
オスカー
「拳銃密売組織のボスさ。だが正面切って『拳銃屋』の看板を上げるわけにはいかないからな。で奴は猫を売る商売を始めたって寸法さ」
ランディ 「ペットショップってことですか…」
オスカー

「但し見せるのはカタログだけだ。
 猫には『ペルシャ』『シャム』『アメリカンショートヘア』、色んな種類がいるだろ。
 俺が一番色気を感じるのは『ロシアンブルー』だがな」
ランディ 「猫にまで色気って…」
オスカー 「そのそれぞれの猫が、リボルバー、オートみたいに欲しい拳銃のタイプに対応していたのさ」
ランディ 「なるほど。それじゃ俺は怪しげなペットショップを当たればいいんですね」
オスカー 「そうだ。あいつがバカじゃなきゃ猫以外のな」

○居酒屋『金魚屋』・表(夜)

  『しばらくの間お休みさせていただきます』と貼り紙がしてある。

○港・宝船の上(夜)

ティムカの豊漁願い舞がクライマックスを迎え、スリットドラムの音も高らかに響き渡っている。
数m離れた場所の小さな漁船に男達が乗込んでいくのを、船上から発見するリュミエール。
最後に、両手を後ろ手に縛られ、口にガムテープを貼られたアギオが無理やり連れ込まれていく。
リュミエール 「! 彼は電車で一緒だった…」
    × × ×
リュミエールの回想。
車中、リュックサックを抱えているアギオ。
海岸でリュミエールに気付かれ、逃げるように去るアギオ。
    × × × 
ティムカのことが気になりながらも、漁船が出港するとたまらず、長い髪を素早く結い上げ海に飛込んでしまうリュミエール。
無事に踊り終えたティムカが泳ぐリュミエールに気づき、心配そうに眺めている。  
ティムカ 「…あの衣装のままあんなスピードで…リュミエールさん、あなたは一体何者なんですか?」

○海(夜)

必死に泳ぐリュミエール。だが漁船は遠ざかっていく。

○七聖警察署・捜査課(夜)

電話をかけているオリヴィエ係長。
オリヴィエ 「…確かに『全力で休暇モード』って命令したけど、これだけ連絡取れないのはフ・シ・ギ」
と、顔をくもらせるのだ。

○海(夜)

疲労がピークに達しているリュミエール。力尽きたように沈んでしまう――。
が、水中に突如ティムカが現われ、リュミエールを抱えると、水面へと力強く持ち上げていく。

○ティムカの小船(夜)

ベッドに寝かされているリュミエールが意識をとり戻す。
リュミエール 「…ここは?」
ティムカ 「よかった、気がついて。ここは僕の船の中です。今温かいスープを持ってきますからね」
と、キッチンへ。
ゆっくりと身体を起こすリュミエール。
宝船の模型が視界に入ると、突如記憶が甦り、
リュミエール 「船は、漁船は!?」
スープカップをトレーに載せて持ってくるティムカ。
ティムカ 「ハナフサ丸ならすぐ近くで停泊しています。僕の勘では、たぶんエンジン関連にトラブルがあったんじゃないかと。悪いことはできないってことですね」
リュミエール
「ティムカさん…あなたは海上の音なら何でもわかると言われてましたが、それにしてもまるでエスパーのように何もかも御承知なのですね…」
と、あっけにとられた表情だ。
ティムカ 「あはっ、ちょっとイタズラがすぎてしまいましたね。種明かしはコレです」
と、胸ポケットからリュミエールのケータイを取出す。
オリヴィエの声 「リュミちゃん、ワ・タ・シ。
 優秀なアンタのことだからもう悪い子達と拘っちゃってるんだろうけど、丸腰はいくら何でも危険すぎ。ってことで即刻連絡、いいわね!」
ティムカ 「すみません、勝手に。でも僕心配だったんです、それで…」
リュミエール 「ティムカさん、謝らなければならないのは私の方です。私は刑事です。
 あなたを守るはずが、逆にあなたを危険に巻き込んでしまうなんて」 
ティムカ 「生意気に聞こえるかもしれませんけど、海の上では僕の方があなたを守れます。さあ、まずはこの『たっぷり生姜スープ』で身体を温めて下さい」
と、湯気の立ったスープカップをリュミエールに持たせる。

○居酒屋『金魚屋』・表(明け方)         

いかにもチンピラ風に店前をうろついているランディ。
少し離れた場所から眼光鋭くランディを監視している漁師=ものの見事に変装したオスカーである。
オスカー 「…いくら何でもありゃやり過ぎってもんだぜ…」
と、ケータイが鳴る。
オスカー 「おぅリュミエール、生きてたか」
リュミエールの声 「連絡が遅くなって申し訳ありません、オスカー様。早速ですが私は今アギオが拉致されたと思われる漁船を追跡中です…」
オスカー 「(口笛を鳴らし)そりゃ海の女神にまでホレられそうな敏腕ぶりだな。係長賞のリップスティック賞にも手が届きそうだぜ」
リュミエールの声 「さあ、それはどうでしょうか…」
オスカー 「ん? その口ぶりは何か係長に言えないトラブルを抱えていそうだな」

○ティムカの小船(明け方)

リュミエール 「(少し顔を赤らめ)さすがはオスカー様。何でもおわかりになるのですね。実は、民間人の少年を巻込んでしまったのです…」
と振向くと、ティムカは双眼鏡でハナフサ丸を監視している。
オスカーの声 「ケガを負っているのか?」
リュミエール 「いえ、そこはむしろ私が彼に助けられたほどなのですが…」

○居酒屋『金魚屋』・表(明け方)

血気盛んな漁師たちに囲まれ始めたランディ。
オスカー 「すまないがリュミエール、こっちもトラブル発生のようだ。又後で連絡する」
    × × ×
ランディ 「…だからさあ、おいらは金魚じゃなくて犬を飼いたいんだよ。それもなるたけどう猛な奴をさ」
漁師A 「この野郎、だいぶイカレてるぜ」
と、漁師たちをかき分けオスカーが登場する。
オスカー 「おい兄ちゃん、犬ならいいのがいるぜ。俺について来な」
去っていくオスカーとランディを茫然と見送る漁師たち。

○車の中(明け方)

ランディ 「助かりましたよ、先輩」
オスカー 「ったく、そんなんじゃいつまでたっても『フリスビー』卒業できないぞ。で、何がわかった」
ランディ 「店主の名前はアル。金魚のカタログが置いてあって『リュウキン』が時々売れていたみたいです」
オスカー 「ほぅ、腕を上げたな」
ランディ
「いやいや先輩にはかないません。
 最初は誰だかわからなくて、すっかり地元民に溶け込んでましたよねー」
オスカー 「まあ経験値の差ってことだな」
ランディ 「それでアルって奴を御存知なんですか?」
オスカー
「その名は初耳だな。ただカタログってとこをみるとおそらくウルフォードの一味に間違いなかろう。それよりリュミエールがちょっとしたピンチでな。一刻も早くランデブーして拳銃を渡さなきゃならん」
ランディ 「リュミエール先輩が!?」
と、にわかに緊張が走るのだ。

○海(明け方)

ハナフサ丸、そしてティムカの小船。

○ティムカの小船(明け方)

双眼鏡をのぞいていたティムカが突然叫ぶ。
ティムカ 「リュミエールさん! ハナフサ丸が動き出しましたよ!」
リュミエール 「何ですって!?」
ティムカ 「パワー全開とまではいきませんが少しずつ沖に出ています。追いますか?」
リュミエール 「(苦悩で顔を歪めているが)やむを得ません、お願いします!」
ティムカ 「わかりました。ただこれ以上沖に出たらケータイ連絡はムリですよ」
リュミエール 「! それも仕方ありません。人の命がかかっているのですから」

○海(明け方)

ハナフサ丸を追尾するティムカの小船。
やがて朝日が昇り、2つの船を照らし出す――

○ハナフサ丸・甲板(早朝)

太いロープで縛られたアギオ。
アギオ 「俺は裏切っちゃいねえ! 頼む、信じてくれ!!」
アル 「信じてやるとも。だが今はお前に死んでもらうしかないのさ。ウルフォードの旦那が気が短いのは今に始まったこっちゃないからな」
と、顎をしゃくってみせると忽ち部下たちがアギオを抱えて海に放り込む。

○ティムカの小船(早朝)

アギオの叫び声と水音が聞こえ、
リュミエール 「! 今の音は!?」
と言うが早いか既に海上にいるティムカ! 上半身だけは見えていて、まるで波が無くなり海面が平らになったかのように高速にハナフサ丸の方に近づいていく――
リュミエール 「これは…私はまだ夢をみているのでしょうか…」

○海中(早朝)

沈んでいくアギオの身体を受け止めるティムカ。素早くナイフでロープを切ると、海面に上昇していくのだ。

○海上(早朝)

海面に浮かび上がるティムカとアギオ。
ハナフサ丸は既に陸に向っていて2人には気づいていない。
近付いてくるティムカの小船。
リュミエール 「ティムカさん! さあこれにつかまって」
と、ロープを投げる。

○港(早朝)

救急車の中に運ばれていくアギオ。
オスカーがリュミエール、ティムカ、ランディを残し、中に乗込んで行く。
オスカー 「後は任せたぜ、リュミエール」
と、ウィンクをすると発車していく。
ティムカ 「…命だけでも助かってくれればいいのですが…」
ティムカの肩を抱くリュミエール。
リュミエール
「きっと助かります。私の力では到底彼を救うことはできなかったでしょう。以前ある方があなたのことを『船玉様の子』かもしれないとおっしゃっていましたが、あなたの泳ぎを見てその言葉を信じたくなりました」
ランディ 「へえー、そんなにすごかったんですか?」
ティムカ 「あれは『踏水術』とでもいう泳法なんです。水を眠らせるとでも言いますか、訓練すればリュミエールさんもできるようになりますよ」
リュミエール 「(目を丸くして)本当に?」
ランディ 「俺もできますか?」
ランディをじっと見つめるティムカ。
ティムカ 「…ええ…たぶん…」
ランディ 「あれ? なんだか先輩の時とずい分トーンが違うんじゃないか…」
と、ティムカを狙う銃口に気付く。
ランディ 「伏せて!」
一発の銃声が響き渡り、銃弾はティムカの頭上を越え海へと消えていく。
走り去る男の背中がチラと見え、
ランディ 「あいつだ!」
と、追おうとするが、ティムカに体当たりされて転んでしまう。
ティムカ 「追わないで!…全ては僕のせいなんですから…」
リュミエール 「フリスビー、すぐに追って下さい!」
ランディ 「はい!」
と、立上がり激走していく。
リュミエール 「(厳しい目で)ティムカさん、あなたならわかるはずです。人を撃っていい理由など何一つありはしないと…」

( つづく )


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