フリスビー刑事レイチェル編・最終話

 「恋する勇気」

○飲食街(夜)

ホステス達に取り囲まれながら聞き込みしているオスカー。そのニヤケ顔を横目でにらんでいるリュミエール。
そこへ一人のホステスが大きな紙袋を抱えて戻ってくる。
リュミエール 「(とっさに『スーパーケーレス』の文字に気づき)その紙袋! どこでお求めになったのですか!?」
ホステス 「ああコレのこと? このスーパーは半年前につぶれちゃって、今はパチンコ店になってるのよ。で、景品入れるのにこの袋流用しちゃってるワケよ」
オスカー 「(横から顔を出し)貴重な情報をもらえて俺もうれしいぜ。夜のデートにはいささかムードに欠けるが、その店に誘ってもらえると、なおうれしいんだがね」
ホステス 「(顔を赤らめ)喜んで御案内しますわ」
と、オスカー達が歩き出した所に自転車に乗った主婦がすれ違う。

○廃墟ビル近くの路上(夜)

先ほどの自転車の主婦が急ブレーキで止まり、ビルを見上げる。
主婦 「全くうるさい犬だわね!」
と、突然主婦めがけて落ちてくる傘!
主婦 「ギャーッ!! なんて犬なの!! おまわりさんに言ってやらなくっちゃ」
と、傘を鷲づかみにすると怒りまくりの状態で自転車を走らせていくのだ――

○廃墟ビル・ 屋上(夜)

吠え続けるルーティス。

○同・屋上のポンプ室の中(夜)

ランディの側に寄り添っているレイチェルとマリン。
レイチェル 「身体が冷えてきたみたい…」
と、ランディをさすり始める。マリンもぎこちなくさすっている。

○ジェレミーの部屋(夜)

子犬を撫でさすっているジェレミー。

○七聖警察署・捜査課(深夜)

デスクに格好良く腰掛けて捜査資料に目を通しているアリオス捜査官。
アリオス 「…犯罪者傾向で言うならば、子犬を袋詰めした奴はいつも同じ公園で、しかもロゴの入ったスーパーの袋を無造作に使っているあたり繊細な計画性がない、つまり『無秩序型』に分類できる」
オリヴィエ 「で、殺人犯の方はというと?」
アリオス 「まず布袋の口を縛っていた縄の縛り方が完璧だ。その上被害者につけられた胸部の十二カ所の傷の深さが一定となると、こいつは『秩序型』と言わざるを得ない、つまり今回の事件は犯人が二人いる、そいつが多重人格者じゃない限りはな」
オリヴィエ 「又余計なこと言っちゃって。これ以上話をややこしくしないでくれる?」
フンと鼻で笑いながらペンダントをもてあそんでいるアリオス。

○パチンコ店(深夜)

店前で張込んでいるオスカーに、缶コーヒーを持ってくるリュミエール。
リュミエール 「花冷えですね…大丈夫でしょうか、フリスビーは…」
警官 「オスカー刑事! 御苦労様です」
と、憧れの態度で近付いてくる。
オスカー 「よう。お前こそこんな夜中にどうした?」
警官 「(傘を抱え)ええ、この近くの空きビルの屋上で犬が吠えてうるさいという苦情で」
リュミエール 「オスカー様!」
オスカー 「どこのビルだ、案内してくれ!」
と、猛ダッシュしていく3人。

○廃墟ビル・屋上(深夜)

屋上に駆け上がってくるオスカー達。
リュミエールが吠えるルーティスに気づき、ライトで照らす。
リュミエール 「オスカー様、ルーティスです」
リードを外すとポンプ室にまっしぐらに走っていくルーティス。

○同・屋上のポンプ室の中(深夜)

人の気配に覚醒するレイチェル。
レイチェル 「誰かいますか!?」
天井の穴から顔を出すオスカー。
オスカー 「レイチェルお嬢ちゃんか、ずい分手の込んだかくれんぼだな。フリスビーは一緒か?」
レイチェル 「オスカー刑事! ランディ刑事がケガをしています、救急車を早く!」
マリン 「…刑事さん、助けがきたよ…」
いたわるようにマリンの肩を抱くレイチェル。
レイチェル 「きっと目を覚ますわ。彼は強い人だもの」

○暗闇(ランディの夢の世界)

ピチャピチャという小さな水音だけが響いている。やがてフッと浮かび上がったペンダントが左右に揺れる――。
アリオスの声 「このペンダントの中身を当ててみるか? どうだ、マスターの心眼は?」
マスターの声 「あー、そうですねー、きっと想像以上のエクセレントな物だとお見受けしますが…うーん…! 閃きましたよ、ひょっとしたらお客様お気に入りの『マイ香酢』じゃありませんか!?」
ランディの声 「そんなわけないじゃないか」
アリオスの声 「はははは、そっちこそ想像以上のエクセレントな回答だ。その独創性に免じて中身を教えてやるよ」
ペンダントの蓋が開かれる。
アリオスの声 「どうだ? わかったか?」
マスターの声 「あーなるほど。この香りは…
そう、クローバーの香水ですね、うんうん」
ランディの声 「…そうか、これがクローバーの香りなのか…」
と、周りが明るくなっていくのだ――。

○七聖警察病院・ランディの個室

花束の香りに誘われるように目覚めるランディ。
オリヴィエ 「おはよ、フリスビー。まさかあんたが花に興味があるとは思わなかったね。
奮発したかいがあったってもんだよ」
と、改めて大きな花束を眺めるのだ。
ランディ 「係長……!! 事件は!? あの少年は、どうなったんですか!?」
オリヴィエ 「心配ないよ。事件はもうすぐ解決だよ、レイチェルの ”鼻” が正しければね☆」
ランディ 「『鼻』ですか?…」

○ジェレミーの部屋

事情聴取に来たオスカーとリュミエールを前にして、笑みさえ浮かべて余裕の顔で座っているジェレミー。
側でペットの子犬がクンクン泣いている。
ジェレミー 「マリンは親が熱心で塾にもいくつか行ってたみたいだけど、それほど勉強が好きでもないらしくて成績は伸び悩んでたかな、よくは知らないんだけど」
オスカー 「いやそれくらい知ってくれていたら十分さ。君の方は優等生なんだって?」
ジェレミー 「そんなでもないよ。僕は学校の授業だけだしね。あ、宿題もそれなりにはやってるけど」
リュミエール 「可愛い子犬ですね。名前は何というのですか?」
と、子犬を抱き上げる。
ジェレミー 「特に決まってないんだ。気分で色々呼んでる。『ジュニア』とか『シッポ』とか。名前なんてそう重要でもないでしょ」
リュミエール 「そうかもしれませんが…ところで失礼ですが少し臭いがしませんか?」
ジェレミー 「そいつ、耳の病気なんですよ。
どうやら僕が耳そうじしすぎちゃったみたいで、医者に怒られましたよ」
オスカー 「俺もこう見えてキレイ好きだからな。君の気持はわからんでもないよ。さてと、そろそろ本題にいくとするか」
と、ショウの傘を取出すのだ。
オスカー 「この傘に見覚えはあるかな?」
ジェレミー 「…見たことないですね。それが何か?」
オスカー 「この傘は被害者の物でね。残念ながら指紋は出なかったんだが、特徴的な臭いがついていたんだよな、お嬢ちゃん」
ルーティスを連れ入ってくるレイチェル。激しく動揺するジェレミー。
レイチェル 「さあルーティス、この傘の臭いをしっかり覚えるのよー」
傘の臭いを嗅いだルーティスがやがてリュミエールに向って吠え始めた!
リュミエール 「何故私に吠えるのですか、ルーティス…なるほど、私ではなくこの子犬の臭いが気になっているのですね」
オスカー 「『ジュニア』の方にはこの傘に見覚えがあるようだな」
ジェレミー 「そんなバカな!」
レイチェル 「マリン君に罪をきせようとしたことが、かえってアダになったわね」
うなだれたもののやがて笑いがこみ上げてくるジェレミー。
ジェレミー 「ゲームオーバーだな」

○七聖警察署・取調室

オスカーがジェレミーを取調べている。
調書をとっているリュミエールの手が怒りで震えている――。
オスカー 「念のためにもう一度きくが、それがショウを殺した動機なのか?」
ジェレミー 「ああそうだよ。あいつんとこの犬が僕の手をかんだんだ。死をもって償ってもらわなきゃならない」
× × ×
隣室のマジックミラーからジェレミーを観察しているアリオスとオリヴィエ。
アリオス 「『自己愛性人格障害』の可能性は否定できないな…」
オリヴィエ 「あの子、あんなに宝石みたいなきれいな瞳してるのにねぇ」
アリオス 「この世は純粋な奴ほど生きにくくできてるからな」

○同・表(数日後)

並んで出て来るレイチェルとマリン。
マリン 「レイチェルさん、僕のこと色々とかばってくれてありがとうございました」
レイチェル 「かばってなんかないよ。事実を話しただけ。でもよかった、前科にならなくて」
と、桜吹雪が二人を包み込む。
レイチェル 「(桜を見上げながら)だけど君のやったことはきっと皆が知ってるわ。嫌なこといっぱいあると思うよ。でもね(と、マリンを見据え)どんなに辛くても人の中にいなきゃダメだよ! 逃げちゃダメ。ワタシが言いたいのはそれだけ」
マリン 「…うん…覚えとくよ」
迎えに来た母親と去っていくマリンを見送り続けるレイチェル。
レイチェルの心の声 「負けちゃダメだよ」

○七聖警察署・捜査課

最後の挨拶に来ているレイチェル。
レイチェル 「(空席のランディの机を見つつ)色々と御迷惑をおかけしましたが、いい勉強になりました。ありがとうございます」
と頭を下げる。
オリヴィエ 「ハーイよく言えました。ところでレイチェル、まさかこのままフリスビーに会わずに行っちゃう気じゃないわよね?」
図星でひきつっているレイチェル。
リュミエール 「余計なお世話かもしれませんがフリスビーも待っていると思いますよ」
レイチェル 「…ワタシにそんな資格があるんでしょうか…」
オリヴィエ 「知ってる? 女ってちょっぴり不幸な時が一番きれいになれるってこと」
オスカー 「口紅の色を毎日変えてみるのもいいかもしれないぜ」
オリヴィエ 「あらあんたも見るとこちゃんと見てんじゃないのさ」
オスカー 「当然だ」
リュミエール 「あなたの過去の事実は確かに変えられないでしょう。しかしあなたの気持は気合で変えられるのじゃありませんか」
オリヴィエ&オスカー 「気合で??」
リュミエール 「私、何かおかしなことを言いましたでしょうか…」
思わず笑い出すレイチェル。
オリヴィエ達もつられて笑い始める。

○七聖警察病院・ランディの個室

とまどいがちなノックの音。
ランディ 「どうぞ」
花束を手に入ってくるレイチェル。
ランディ 「レイチェル…」
× × ×
ランディ 「聞いたよ。君とルーティス、大活躍だったんだって。あっそれより先にお礼を言わなきゃだね。助けてくれてありがとう。君とルーティスは俺の命の恩人だ」
レイチェル 「…じゃあこれでオアイコですね」
ランディ 「えっ?」
レイチェル 「だってランディ刑事はワタシの命の恩人ですから。色んな意味で」
ランディ 「あっそうか、そうだったよね、ハハッ 。じゃあオアイコだ。…こういうの、運命っていうのかな」
レイチェル 「は、早く元気になって下さいね、ルーティスも会いたがってますから」
ランディ 「ああ。…アレ? 唇がやけに光ってるけど、油物でも食べてきたのかい?
俺も早くこってりした物が食べたいよ、病院の食事はどうもね」
思い切り吹き出すレイチェル。

○同・表

中の様子をうかがっているオスカーとリュミエール。
オスカー 「あのバカ。レイチェルも口紅の買い損ってもんだな」
リュミエール 「天然にもホドがありますよね」
オスカー 「……」
(レイチェル編完・ティムカ編に続く)

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多少はランレイ度数が上がったでありましょうか??
次のティムカ編ではお待ちかねリュミ刑事が海を舞台に大活躍の予定(あくまで予定!)でございます。(すばる)

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