フリスビー刑事レイチェル編・第3話
 「孤独は苛む」


○廃墟ビル(早朝)

マリンの足音を追って階段を駆け上っていくランディ。コンクリートがもろくなっていて時折破片が飛び散る。
× × ×
マリン 「(立ち止り)ダメだ、このままじゃ追いつかれてしまうよ…」
「大丈夫だって。この上にとっておきの場所があるんだ。もう少しだ、がんばれ!」
マリン 「あ、ああ…」
と、再び走り出す。

○廃墟ビル近くの路上(早朝)

ルーティスと共にやって来るレイチェル。不安げな表情だ。
レイチェル 「捜さなきゃ、何としてでも!」

○廃墟ビル・屋上(早朝)

屋上の隅に小さな建造物がある。
「いいかマリン、あのポンプ室の横に梯子があるからそれを使って上に登れ。登ったら頭を低くしてじっとしてるんだ。後は僕に任せろ、いいな!」
マリン 「…わかったよ、ジェレミー」
と、建物の方へ走って行く。
その姿を目で追いながら不敵な笑みを浮かべる少年 ジェレミー。
× × ×
ついに屋上に到達するランディ、ただならぬ気配に拳銃を取出すのだ。
ビル風の音が激しくなる中、隅の建物の屋根に人影を発見するランディ。
ランディ 「(つぶやくように)あそこか…」
× × ×
ビル風をこらえながら必死に屋根にしがみついているマリン。やがて梯子を登ってきたランディと目が合う。
ランディ 「もうこれまでだ。あきらめてこっちに来るんだ」
マリン 「(涙目で)う、動けないよ…」
強烈な横風にあおられて、ランディの足下もぐらついている。
ランディ 「わかった。今そっちに行くからじっとしてるんだぞ!」
と、拳銃を戻し、屋根の上を少しずつマリンの方へ近づいていく。そしてマリンに手をのばした瞬間背後から何者かにキックされ、マリンもろとも屋根を破って下に落ちてしまう!
× × ×
梯子から降り立つジェレミー。
ジェレミー 「淋しくなくてよかったじゃないか、マリン、フフフフ…」
と、楽しげに笑っている。

○商店街

『スーパーケーレス』の紙袋を手に聞き込みをしているリュミエール。
リュミエール 「(ケータイを取り)はい、こちらリュミエールですが。…えっ! フリスビーが消えた!? わかりました、すぐ署の方に戻ります」
と、顔をくもらせ駆け出す。

○廃墟ビル・屋上のポンプ室の中

壁をよじ登って脱出を試みるマリンだが失敗のくり返しである。既に手足は傷だらけだ。
かたわらに置き去られているランディが小声でうめく。
マリン 「(仰天して)う、動いた!」

○七聖警察署・捜査課

係長席で腕組みしているオリヴィエ。
オスカーは机上に広げられた地図を見て考え込んでいる。
そこへ戻って来るリュミエール。
リュミエール 「遅くなりました。フリスビーからはまだ連絡がないのですか?」
オリヴィエ 「ったく。容疑者らしき少年を追っかけてったまではお利口だったんだけどね。まーだ自分の実力ってもんがわかっちゃないんだよね」
リュミエール 「確かレイチェルとルーティスも一緒だったはずですよね?」
オリヴィエ 「レイチェルには一度署に戻るよう言ったからそろそろ顔出すはずなんだけど…オスカー、もう一回連絡してみて」
オスカー 「ああ。まさかお嬢ちゃんに限って命令無視はないと思うが…」

○廃墟ビル近くの路上

全力疾走していてコールに気付かないレイチェル、前を行くルーティスを追いかけているのだ。
やがてランディ達のいるビルに入っていくルーティス――。

○廃墟ビル・階段

どんどん登っていく レイチェル達。
ズボンのポケットに両手をつっこんで鼻歌まじりに降りてきたジェレミー、ルーティスに 出くわし仰天する。
レイチェル 「(息を切らせながら)君、ここで何してるの?」
ジェレミー 「(冷静を保ち)ぼ、僕、人が倒れてるのを見つけたから、警察に届けようと思って…」
レイチェル 「どこ!? 案内してくれる?」
ジェレミー 「うん、この上だよ」
と、振向いた瞬間ほくそ笑む。

○同・屋上

レイチェル達を連れて上ってくるジェレミー。
ジェレミー 「あのポンプ室の中だよ。うめき声が聞こえるんだ。でもドア開かないよ」
レイチェル 「わかった、ありがとう」
と、ルーティスをリードで鉄柵につなぐと、ポンプ室に近付いていく。
ドアはびくともしない。
中のマリンはおびえている。
やがて横の梯子に気付き登っていくレイチェル。そして屋根を伝っていく。
レイチェル 「(屋根の穴からのぞき)! ランディ刑事!」
だが再びジェレミーによって蹴落とされてしまうのだ!
屋根の上で大笑いしているジェレミー。
ジェレミー 「こいつはいいや!」

○七聖警察署・駐車場

覆面車に乗り込むオスカーとリュミエール。
オスカー 「お嬢ちゃんまで行方不明とは厄介なヤマになりやがったぜ。だから俺と組んでいればよかったものを」
リュミエール 「問題は二人が一緒かどうか、ですね。ルーティスさえ見つかれば…それにしても係長はひどいと思いませんか?」
オスカー 「アレか?『二人はともかくルーティスだけは働いてくれるって期待してたんだけどねえ』って暴言。だがな、係長の予感は意外と当たったりするんだぜ」
と、車を出発させる。

○廃墟ビル・屋上

吠え続けているルーティス。

○同・屋上のポンプ室の中

身体をひねって受け身を成功させたレイチェル。ランディを抱き起こすと、かすかに意識をとり戻す。
レイチェル 「しっかりして下さい!」
ランディ 「(消え入るような声で)あいつは無事か?」
隅でおびえて立っているマリンを振り返る レイチェル。
レイチェル 「ええ、ケガはないようです」
ランディ 「…そうか…よかった…」
と、又意識がなくなる。
× × ×
マリンの回想。
とっさにマリンを抱きかかえ守るようにして落ちていくランディ。
× × ×
マリンの目から涙があふれ出す。
マリン 「その人、助かるの?…」
レイチェル 「当たり前でしょ! 助けるわ、ワタシが。絶対に」
と、ショウの傘が落ちているのに気がつく!
レイチェル 「ごめん、ワタシ1人カッカしちゃってるよね。君、よかったら名前教えてくれる? ワタシはレイチェル、レイチェル・ハート」
マリン 「…マリン…」
レイチェル 「マリン君か。その傘はマリン君のもの?」
傘を見て、首を横に振るマリン。
レイチェル 「そっか…」

○廃墟ビル・屋上(夕)

うなだれているルーティス。

○七聖警察署・捜査課(夕)

窓際に立って空を眺めるオリヴィエ。
そこへ入って来る、バー『シルクロード』の客だったペンダントの男。
ペンダントの男 「なんだよ。珍しく黄昏れてるじゃないか」
オリヴィエ 「アンタをクラッカーで歓迎するほど能天気にゃできてないわよ(と初めて振返り)アリオス…」

○廃墟ビル・屋上のポンプ室の中(夕)

うっすらと月が見えている。
距離をおいて座っているレイチェルとマリン。ランディの身体にはレイチェルのジャケットが掛けられている。
レイチェル 「…ワタシ、これでも昔は『天才ランナー』だったんだよ。朝から晩まで走ってたわ、たった一人の敵=自分と戦って。
…マリン君は犬が嫌い?…なんであんなことしたの?」
マリン 「…わからない、自分でも。…ただ」
レイチェル 「ただ?」
マリン 「あいつらが鳴くから…捨てられてるのに鳴いてるから、教えてやりたかったんだ、『お前は孤独だ』って」
レイチェル 「それは、君も同じだから?」
マリン 「……(歯を食いしばる)」
レイチェル 「(月を見上げ)ワタシもよく月に向って叫んでたー『ワタシは天才なんかじゃない! 自分じゃない自分を演じるのはもうたくさん』…まるで、飛び立ってはみたけれど、どこに降りればいいかわからない鳥みたいにもがき苦しんでいたわ…ずっと一人きりで」
知らず、レイチェルの悲壮感漂う横顔にひきこまれていくマリン。
レイチェル 「でも彼が救ってくれたの。罪を犯しそうになったワタシに『君は弱虫なんかじゃない』って言ってくれた。ワタシのことをわかろうとしてくれている人がいるって、その時初めて思えたの」
マリン 「(ランディを見て)…僕にはそんな奴誰もいやしないよ。ジェレミーだって、味方のフリして結局は裏切ったんだ!」
レイチェル 「ジェレミーって、さっきの子?」
マリン 「ああ」
レイチェル 「マリン君。彼はきっと、君を殺人犯に仕立てるつもりなんだと思うわ」
マリン 「えっ!!」
ショウの傘を手に取るレイチェル。
そして傘の異臭に気づくのだ
レイチェル 「この臭いはもしかしたら…」
と、その時ルーティスが再び吠え始めた声が聞こえてくる。
レイチェル 「ルーティス、まだいたのね。…
可能性が低いというかほとんど賭けに近いけど、やるしかないわね」
× × ×
マリンを肩の上に乗せるレイチェル!
マリンは手に傘を持たされ、さらに外に向って投げようとしている。
レイチェル 「いい。勝負は1回きりよ!」
マリン 「(傘を握りしめ)ヤーーッ!」

○同・屋上(夕)

リードにつながれたルーティスの側に投げられた傘が転がってくる。
傘を警戒しつつも、臭いを嗅ぎ始める。
(つづく)

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