フリスビー刑事レイチェル編・第1話
 「キューピッドは警察犬」

 

○警察犬訓練士養成学校

卒業式が行われている。
校長 「…この2年間よくぞ厳しい訓練に耐え抜いてこられました。しかしこれからが本当の意味での皆さんの訓練士としての人生の始まりです。失敗をおそれず、大きく羽ばたいて下さい。期待しています…」
卒業生の列の先頭で、唇を真一文字に結んだレイチェルの姿が見える。
突然風が巻き起こり、桜吹雪に見舞われる一同、歓声も上がっている。
レイチェルの差し出した右手の上に舞い落ちる小さなピンクの花びら。
その一片をハンカチの中にしまうのだ。

○七聖警察署・捜査課

係長席で金髪をなびかせつつ乱暴に新聞を閉じるオリヴィエ。
オリヴィエ 「全く最近の事件ってばセンスがないにもホドがあるってもんだよねぇ〜」
オスカー 「そんなに言うなら『よい子のための犯罪デザイン学』って本でも出したらどうなんだ?」
ランディ 「いくら何でも不謹慎です、先輩」
オスカー 「おいフリスビー、大人になったな。ずい分と難しい単語を覚えたじゃないか。
 さては新しい女でもできたか?」
ランディ 「先輩!」
と、立ち上がって抗議する。そこへ氷を浮かべたアイスハーブティを持ってくるリュミエール。
リュミエール 「さあどうぞ。本日は氷の方もハーブティで作ってあるのですよ。ですから中身が薄まる心配がありません。フリスビーもオスカー様の中身の薄い話にいちいち反応せずともよいのですよー」
オリヴィエ 「オ・ト・ナね、リュミちゃんは」
素直にハーブティを飲むランディ。
ランディ 「これ、めちゃくちゃおいしいです」
リュミエール 「やっとフリスビーらしい笑顔が出ましたね。最近イライラしているように見受けられますが、何かあったのですか」
ランディ 「それが…俺、朝はいつも犬のサニーと一緒にランニングしてるんですが、その公園に毎日のように子犬が捨てられていて…」
オスカー 「責任感のない奴が増えているからな。犬もたまったもんじゃないな」
オリヴィエ 「(鋭い視線で)あれ? どうやらただの捨て犬じゃなさそうねぇ」
ランディ 「ええ、そうなんです。子犬を紙袋に詰めた状態で捨てているんです。許せないですよ!」
リュミエール 「確かに、イタズラにしても度を越していますね…係長」
オリヴィエ 「OKよ。公園は住民の憩いの場。住民の不安を取り除くのは立派なお仕事だものね。フリスビーと二人で調べてみて」
ランディ 「ありがとうございます、係長!」
オスカー 「おいフリスビー、礼を言うなら、お前たちの分の仕事を引き受けるこの俺に言うべきなんじゃないのか?」
オリヴィエ 「さすがは一を聞いて十を知る男オスカー、だからあんたってば大スキ☆」
と、オスカーの机に山積みの書類をドンと置くのだ。逃げるように部屋を出るランディとリュミエール。

○ショウ爺さんの小屋・表

白い大型犬がつながれている。
中からは子犬たちの鳴き声。

○同・中

まるで動物園のように子犬がかけ回っている。エサをやるショウ。
そして何匹かの傷の手当てをしているのはレイチェルだ。
レイチェル 「よしよし、もう平気だよー」
ショウ 「すまんなレイチェル。助かるよ」
レイチェル 「ワタシはいいけど、お爺さんこそこれ以上捨て犬が増えたら引き取るのも大変なんじゃない?」
ショウ 「ああ。どこのどいつかはわからんが、きっと天罰が下るだろうて。そういやあ、こいつらを助けてくれた人の中に若い刑事さんがいてのう。あの人ならきっと悪い奴を捕まえてくれるじゃろう」
レイチェル 「刑事さん?」
ショウ 「白いマフラーなんぞしとってらしくはなかったが、そう言っとったよ」
レイチェル 「……」
と、急に帰り仕度を始める。
レイチェル 「あのワタシ、今日は大事な用があるんだったわ。じゃ又来るから」
と、出て行ってしまう。

○同・表

大型犬のリードを手に取るレイチェル。
レイチェル 「ルーティス、帰るよ」
と、早足に去っていくのだ。
入れ違いにやって来るランディとリュミエール。

○同・中

子犬たちになつかれているランディ。
リュミエール 「…それで子犬たちが詰めてあったという紙袋などは、残っていますか?」
ショウ 「捨てちまったなあ、そんなものは。あ、今朝のならまだあったんじゃねぇか」
と、ゴミ箱を探して見つけだす。
ショウ 「ありましたよ!」
と、ランディに手渡す。
ランディ 「『スーパーケーレス』と書いてあります。あまり聞かない名前ですね」
リュミエール 「その方がかえって好都合というものでしょう」
ショウ 「刑事さん、こいつらだって命を生きてんだ。その命を簡単に踏みにじるような奴を、きっと、きっと捕まえて下さいよ!」
と、ランディとリュミエールの手を交互に握りしめる。

○レイチェルの家(夜) 

『畜犬法令集』を勉強中のレイチェル。  
だが、あまり集中できていない様子だ。
ルーティスも首をかしげて見ている。
  × × ×
レイチェルの回想。
ショウ爺さんの小屋の前で。
木の陰からランディ達を見ているレイチェル。
  × × ×
レイチェル 「…一体どんな顔で彼に会えばいいっていうの?…」
  × × ×
再びレイチェルの回想。
七聖警察病院の病室で。
レイチェル 「(涙を浮かべ)ワタシを捕まえてくれる? ランディ刑事さん」
暗い目をしたランディ。
  × × ×
鼻をクーンと鳴らすルーティス。
レイチェル 「(ルーティスの頭をなでながら)
 ごめん、弱音吐くなんてワタシらしくないよね」

○ショウ爺さんの小屋・中(夜中)

子犬を抱きながら寝ているショウ。
突然外から聞こえてくる犬の吠え声。
ショウ 「何やってるんだ、こんな遅くに!」
と、護身用に傘を持って出て行く。

○同・表(夜中)

吠え声の方へ行くと、紙袋があり、口がヒモで縛ってある。開けると中には、おびえた子犬がいるのだ。
ショウの後ろから近づく男の黒い影。
振向くと、懐中電灯の光に目を射られ、次の瞬間には恐怖の顔となる。

○七聖警察署・捜査課(翌朝)

係長デスクの電話が鳴る。
オリヴィエ 「…聖池のほとりで変死体発見、だってさ」
ランディ 「行ってきます!」
と、飛び出していく。リュミエールとオスカーもそれに続く。
オリヴィエ 「なんだかイヤーな予感…」

○聖池(翌朝)

セイランをはじめ鑑識員たちが動き回る中を白手袋をしながら入っていくランディたち。
変死体は布袋に入れられた状態で、頭の一部だけが出ている。
セイラン 「いいですか、開けますよ」
と、縛られた縄をほどいていく。
布袋から顔が出てきて、表情を変えるランディとリュミエール。
オスカー 「なんだ、知った顔か?」
ランディ 「ショウ爺さん!」
と、その場にくずおれる。
リュミエール 「むごいことを…」
(つづく)

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「キューピッド」と書いたからにはランレイを目指してはいるのですが さて… (すばる)

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