フリスビー刑事エルンスト編・最終話
「パスタに願いを」


○岬(コレットの回想)

冷たい風が吹きすさぶ冬の岬に立つコレットとクリス。
クリス 「寒いな。冬だから当たり前か」
クスッと笑ってクリスの背中を見つめるコレット。
クリス 「もう咲いてるかと思ったんだが、ちょいと早すぎたかな…」
と、花のない菜の花畑に頭をかく。
コレット 「咲いたら素敵でしょうね、ちょうど黄色い絨毯のようになって――」
と目を閉じる。その横顔を優しい瞳で見つめているクリス。
クリス 「結婚、してくれないか」
一瞬ビクンとするが目を閉じたままのコレット。
クリス 「コレット?」
コレット 「もう一度言って、クリス」
クリス 「…俺と…俺と結婚してほしい」
大きく息を吸込んで、ゆっくりと目を開けると――そこには黄色く咲き誇った菜の花畑が広がっている!
コレット 「クリス、あなたってまるで魔法使いね!」
と、クリスの胸に飛込んだ。

○七聖警察署・捜査課(朝)

鼻歌まじりにハーブティを配っているリュミエール。
リュミエール 「今朝ほど手摘みしてまいりましたブロードリーフセージティです。事件解決まであとひとがんばりしましょうね」
ランディ 「(元気なく)ありがとうございます」
オスカー 「どうした、フリスビー。バカみたいな明るさが売りのお前らしくないじゃないか」
リュミエール 「『バカ』は余計じゃありませんか? オスカー様」
ランディ 「…ヴィクトールさんの意識がまだ戻らないそうなんです…」
リュミエール 「出血量が多かったですからね」
オスカー 「だが奴は『誇り高い獅子』なんだろ? ならそう簡単にくたばりはしないさ」
ランディ 「先輩…」
そこへ勢いよくドアを開け戻って来る  オリヴィエ係長。
オリヴィエ
「ハーイ☆みんな注目! すったもんだしたけど、ついにホルスト議員への逮捕状が出たわヨーン。容疑はもちろん3年前の汚職事件アーンドクリス刑事殺害アーンド今回のヴィクトール元刑事殺害未遂の詰め合わせセットでね」
オスカー 「いよいよゴール目前だな。しかし過去ホルストに恩義のある上層部の連中をよく口説き落とせたじゃないか」
オリヴィエ
「アレックスの自白が完璧だったのもあるけど、そりゃあもうエルンストのがんばりが一番だね! あの冷静な男がそう最後はまるでライオンのように吠えてたもの。目の前で見ていたって信じられない光景だったよ」
オスカー 「ライオンのように吠えるエルンスト。確かに必見だな」
リュミエール 「どうやらライオンがブームになりそうですねえ」
オリヴィエ 「何ソレ? 私を見習って、金髪ブームってこと?」

○裁判所・法廷内

ポーラ原告のドクターハラスメントの裁判が行われている。
証言台に立つコレット。傍聴席で見守るエルンスト。
コレット
「…総合病院である以上、一人一人の患者さんに長い時間を費やす余裕がないことは私もカウンセラー医師として十分承知しています。しかし、患者さんの生きようとする力を根底から削ぐような言動は慎むべきだと思います」
弁護士 「具体的に話していただけますか?」
コレット 「例えば『死の準備段階に入っている』ですとか『経験上治ったケースはない』ですとか…」
弁護士 「アレックス医師は患者に直接そのような言葉を吐いたというのですか?」
コレット 「はい、そうです。アレックス医師だけでなく、彼のような医師を内科部長として放置していたユニバーサル病院の体質に対しても、私は強い憤りを感じます」
騒然となる病院関係者たち。
エルンストの独白 「コレットさん…貴方は自分の立場を捨てる覚悟でいたのですね」

○七聖警察病院・集中治療室

様々な医療器具につながれた状態のヴィクトール。
窓の外から小鳥の鳴き声が聞こえる。
やがて羽ばたきの音が聞こえたと同時に、ヴィクトールの両目がゆっくりと開く。

○同・一般病室(数日後)

 痛々しい包帯姿のヴィクトールをエルンストが見舞いに訪れている。
ヴィクトール 「…そうか。ホルストを逮捕してこそやっとクリスに顔向けができる。エルンスト、礼を言うぞ」
エルンスト
「いいえ。私の力など何ほどのものでしょう。命を張られた先輩こそが、巨大な悪を潰す原動力となったのです。私の方こそお礼を言わせて下さい。本当にありがとうございました」
と、深々と頭を下げるのだ。
ヴィクトール
「…明日からは一人の民間人に戻る。俺にもまだ次への扉が用意されていたようなんでな。で、エルンスト、お前はどうするんだ、これから?」
エルンスト 「どうする、とは?」
ヴィクトール 「決まってるだろ、彼女のことだよ」
エルンスト 「!…コレットさんは、私にとってはクリスの未亡人でしか…」
ヴィクトール 「恋は裁判じゃないんだぞ」
と、花束を持ったコレットの姿に気づき、そちらを見やりながら、
ヴィクトール 「可能性が限りなく0に近いと頭では理解していても、想いは止められない――恋とはそうしたものだ。実はクリスからの受け売りなんだがな、ははは」
気配に振返るエルンスト。
コレットと目が合い激しく動揺する。

○岬(夕)

岬に立つエルンストとコレット。
コレット 「今日ユニバーサル病院を辞めてきました。明日から早速仕事を探すつもりです」
エルンスト 「そうですか」
コレット 「今度こそちゃんとやり直します。ヴィクトールさんとあなたに救っていただいた命ですから」
と、海を見つめる。
エルンスト 「クリスは私にとって、かけがえのない友人でした」
コレット 「はい…」
エルンスト 「そして貴方も私にとって、かけがえのない…」
と、一つだけ咲いた菜の花に触れる。
エルンスト 「たった一人の女性でした…」
コレット 「!!」
エルンスト
「今貴方に、クリスと過ごした大切な時間を忘れてくれとは言えません…。
 ですが、それでも私はきっと、この想いを枯らすことはできない!」
目を大きく見開いてエルンストを見つめるコレット。
エルンスト 「(コレットの左手をとり)だから貴方に指輪ではなく、これから共に時を刻むための時計をお贈りしたいのです。異議はありますか?」
コレット 「(ゆっくり頷き)しかるべく」
 微笑み合う二人の前を流れ星が一つ流れていく。
コレット 「流れ星、見えました?」
エルンスト 「(頭をしきりと振って)パスタに見えたかもしれません」
 暮れゆく岬に二人の影が寄り添う。

○七聖警察署・捜査課(朝)

入ってくるなりいきなりジャンプを決めるランディ。
ランディ 「皆さん、おはようございます!」
オスカー 「元気になると一気に騒々しくなる奴だな、お前は」
リュミエール 「何か嬉しいことでもあったのですか? フリスビー」
ランディ
「はい! 昨日ヴィクトールさんのお見舞いに行ったんですけど、退院したら柔道場を開いて、俺を真っ先に弟子にしてくれるって約束してくれたんですよ!」
オリヴィエ 「あんたってばそれ以上身体鍛えてどーすんのよ! それよりもっとおつむを鍛えること考えなさいよ!」
オスカー 「なんだ、ずい分とご機嫌ななめじゃないか、係長殿は」
リュミエール 「きっとお疲れが出たのでしょう。今お茶をお入れしますので」
オスカー 「ちょっと待った。それよりも効き目抜群なグッズがあるぜ、ここに」
と、オリヴィエの顔の前に1本の口紅をちらつかせるのだ。
オリヴィエ 「アーーッ!! ちょっとソレ、『新色ルージュプレゼントキャンペーン』の”ネオレッド”じゃないの! 何百枚もハガキ出して、たったの1本も当たらなかったってゆーのにぃー」
オスカー 「そりゃ気の毒だったな。どうも俺には妙なツキが生まれつきあるらしい。ハガキ1枚で、この通り」
ランディ&リュミエール 「1枚で!?」
オリヴィエ 「嘘つくんじゃないよ! どうせまたキャンペーンガールに色目使って横取りしたに違いないんだから!」
リュミエール 「(キッと)そうなのですか?オスカー様!」
オスカー 「妄想するのは勝手だがね。使ったハガキは1枚には違いないぜ。で、このネオレッドはお気に召さなかったのかな?」
オリヴィエ 「そりゃ要るに決まってんでしょ。さあ早くおよこし!」
と、口紅を奪い取ろうとするがオスカーにかわされてしまう。
オスカー 「高くつくぜ、なにせ非売品だからな(と、ウィンク)」
オリヴィエ 「きゃははっ、いーね、その人の足元見た態度、叩き直しがいがあるってもんだわ」
と、歯ぎしりをして、今にも拳銃を抜きそうな勢いだ。
リュミエール 「(あせって)フリスビー、今朝のお茶は外でいただきましょうか」
 と、ランディを強引に引張るようにして外に避難する。

○同・捜査課外の廊下(朝)

出てきたリュミエールとランディの前に立つエルンスト。
エルンスト 「どうかしたのですか?」
リュミエール 「エルンスト検事、おはようございます。係長に御用でしたら、少し後にされた方がよろしいかと…」
中から聞こえてくるドタバタ音、そして罵倒の数々。
ランディ 「今、嵐の真っ最中みたいで」
エルンスト 「(くすっと笑い)では嵐とやらがおさまるまで、私たちは爽やかな朝の風に当たりに行きましょうか。今回のお礼にモーニングティーをごちそうさせて下さい」
ランディ 「はい! よろこんで」
去っていく三人の背に聞こえてくるオリヴィエの叫び声――
オリヴィエの声 「およこしったらおよこしーぃ!!」
(エルンスト編完・レイチェル編に続く)

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*サブタイトルは2話で出てきたマスターのセリフからきてるんだけど、昔のことで誰も覚えてないかも?? 
季節感全く無視でごめん。(すばる)

*すばるの次回作は完全新作のホームドラマを予定しています。レイチェル編はその後になります。(ちゃん太)

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