フリスビー刑事エルンスト編・第6話
「号泣する検事」


○走る車の中(夜中)

猛スピードで運転しているエルンスト。
エルンスト
「どうして私はこうも鈍いのだ!
ヴィクトール先輩の真の目的は彼女の復讐を止めることだったんだ。クリス、お願いです。どうか今度だけは私を間に合わせて下さい!」
と、口唇をかみしめる。

○倉庫街(夜中)

ヘルメットを取りバイクから降りるコレット。ジャンプスーツの胸ポケットから盗聴器を取出し耳に当てると、途切れ途切れながらもアレックスの声が聞こえてくる。
アレックスの声 「頼みますよ。…なんだから」

○倉庫の中(夜中)

ホルスト親衛隊長と数名の隊員が待機している。親衛隊長に煙草を勧めるアレックスだが断られてしまう。
親衛隊長
「先生も度胸がついたものですな。
 確か3年前に刑事を殺った時に、腰を抜かしていたのとはまるで別人だ」
アレックス 「あの時はまさか彼を殺すとは思ってもみなかったからさ。あの刑事は聞き込みにきただけだったのに」
親衛隊長 「それだけでビビッて我々に泣きついてきたのは先生の方でしょうが」
アレックス 「あの日を境に私も肝をすえるしか道はなかったんだよ。さもなければ次に消されるのは私なんだから」
親衛隊長 「その危険なハードルを越えたからこそ甘い蜜が吸えるというわけです」
アレックス 「そう。とびきり甘い蜜がね」

○倉庫街(夜中)

コレット 「見ていてね、クリス」
と、再びヘルメットをかぶると闇の中へと駆け出していく――。

○同・ヴィクトールの車の中(夜中)

 助手席で眠っているランディをじっと見つめているリュミエール。
リュミエール 「お疲れのようですね、フリスビー。でも今夜はあいにくローズヒップの持ち合わせがありませんので代わりにコレでガマンして下さいね」
と、ツボマッサージ棒で背中をグリグリやるのだ。
ランディ 「! 先輩、何やってるんですか!」
リュミエール 「フリスビー、どちらかと言えばそれは私のセリフでしょう。ヴィクトールはどこへ行ったのですか?」
ランディ 「そうだ! 18倉庫!」

○同・18倉庫近く(夜中)

ホルスト親衛隊員たちが警戒している。
そこへコロコロと転がっていくカプセル爆弾。
ヴィクトールの声 「3、2、1…」
煙を吹き出す爆弾。

○倉庫の中(夜中)

外で爆発音が聞こえる。
アレックス 「奴が来たのか!?」
部下達に無線連絡をとる親衛隊長だが、交信が途絶えたままである。
親衛隊長 「ここを動かないでいて下さいよ」
と、隊員二人を残して出ていくのだ。
不安げに胸ポケットから小型拳銃を取り出すアレックス。

○18倉庫近く(夜中)

ホルスト親衛隊員達が煙の中バタバタと倒れた状態である。
ハンカチで口をおさえつつ隊員の一人の脈をみているオスカー。
オスカー 「どうやら催眠ガスのようだ」
と、煙の中を拳銃を撃ちながら駆け抜ける黒い人影。
オスカー 「待て! ヴィクトール!」
と後を追うが、親衛隊長達と鉢合わせしてしまうのだ!
親衛隊長 「お前がエルダか!?」
と、銃弾をお見舞いする。
オスカー 「(横っ跳びに銃弾を避け)人違いだぜ、と言ったところで無駄だろうな」
激しい銃声が倉庫街にこだまする――。

○倉庫の中(夜中)

銃声が続いている。
親衛隊員 「始まったようだな。あの銃声が消えればプランも終了だ。(もう一人に)おい、様子を見てくるんだ」
アレックス 「そう上手くいくといいが…」
様子を見に行った隊員の悲鳴が聞こえてきて、焦り始めるアレックスたち。
親衛隊員 「どうした!? 返事をしろ!?」
意を決し、銃を構えて出口の方へ向っていく隊員だが――。
突然荷物の陰から腕が伸びてきて、口に布を当てられると気絶してしまう。
床に転がっている隊員二人の側に立つのはジャンプスーツ姿の足だ!
アレックス 「おい…何やってるんだよ…」
視線の先に姿を現わす、ヘルメットをかぶったジャンプスーツ姿の人物。
アレックス 「エルダなのか? お前が」
一歩一歩近づきながらヘルメットを取った相手は長い髪の女――即ちコレットである!
驚きのあまり声も出ないアレックス。
コレット 「アレックス先生、『エルダ』の意味を御存知ですか?」
子供のようにかぶりを振るアレックス。
コレット
「『失われし者』という意味です。
 私はあなたのおかげでこの世で一番大切な人を失いました。ですから…」
と、細い刃物のような物を取出す。
アレックス 「まさか…」
コレットの静かな迫力に震える手で銃を構えるアレックス。
だがコレットは躊躇なくアレックスに迫っていく!
その二人の間に立ちはだかるヴィクトール。
ヴィクトール 「止めるんだ、コレット!」
背中に被弾して血しぶきが飛ぶ。

○18倉庫近く(夜中)

オスカーの元にリュミエールとランディも駆付け銃撃戦が展開している。
そこへ数台の車が到着。
オスカー 「やっと応援部隊のお出ましだぜ」
タイヤの音を軋ませ、エルンストの車も到着する。
エルンスト 「ヴィクトールはどこです!?」
ランディ 「たぶん18倉庫の中に」
エルンスト 「わかりました、急ぎましょう」

○倉庫の中(夜中)

コレット 「ヴィクトールさん…」
ヴィクトール 「憎むなら俺を憎め。クリスを救えなかった俺を」
そこへ飛込んでくるエルンスト。
エルンスト 「先輩!」
アレックス 「エルダが一体何人いるって言うんだ! 皆殺しにしてやる!!」
と、狂ったように乱射する。
身体を張ってコレットをかばうヴィクトール。それを見てエルンストはアレックスに猛然と突進して飛び蹴りで銃を跳ね飛ばした!
そしてドカドカとランディを筆頭に刑事たちが駆け込んでくる。
 × × ×
オスカーに手錠を掛けられる放心状態のアレックス。
オスカー 「命拾いしたな。その代わり3年前の汚職のからくりをたっぷり演説してもらうぜ。ホルストと一緒にな」

○倉庫街(朝方)

親衛隊長以下次々と護送されていく男たち。
その中の1台に乗込むリュミエールを見て悲鳴をあげる男。
「で、出たあー!」
リュミエール 「御心配なく。私は生身の、しかもれっきとした男、なんですから」
オスカー 「(窓から覗き込み)なんなら証拠でも見せようか?」
リュミエール 「それ以上おっしゃったら、例えオスカー様といえど、あごを外して差し上げますよ♪」
 少しずつ明るさを増す倉庫街。

○倉庫の中(朝方)

コレット 「しっかりして! ヴィクトールさん!」
エルンストに抱きかかえられている血まみれのヴィクトール。
ヴィクトール 「(少し笑って)まるで逆だな。 クリスの時と…」
エルンスト 「おやめ下さい! そんな弱気、先輩らしくもない」
ヴィクトール 「…これで終わったな、エルンスト」
エルンスト 「あなたという人は…」
ヴィクトール

「(苦しい息づかいで)…俺はアレックスをマークし続けていたんだよ。
 だが運命というものなのか、同じ病院に彼女が勤め始めた。…やがて彼女がアレックスがクリスの仇だと気づき、憎しみを日々募らせていると知った時、俺にはこうするしかなかったんだよ。クリスのためにも、そしてエルンスト、お前のためにもな」
エルンスト 「あまり話さないで下さい…」
ヴィクトール 「何を言う。今しか話せないじゃないか…。エルンスト、お前に俺の分の勇気もやるよ。もうクリスも許してくれるはずだ。だから…」
と、言葉を継ごうとするが声にならず、ついには気を失ってしまう。
コレット 「ヴィクトールさん、死なないで!」
ランディ 「救急車、到着しました!」

○病院・手術室前(朝方)

『手術中』のランプが点る。
見上げているランディ、エルンスト、そしてコレット。
ランディ 「大丈夫です。あの人は、これくらいのことで死んだりしません」
エルンスト 「…そうですね。(コレットの手首につたう血に気づき)貴方も手当てをした方がいい…」
と、手を取ろうとした途端はじかれたように走り去るコレット。
エルンスト 「コレットさん!」
と追っていく。

○病院・ロビー(朝方)

窓から差し込む朝焼けの光がコレットとエルンストを包む。
ゆっくりと握りしめていた右手を開くコレット。その手から落ちた血塗られた凶器―それは止まった掛時計の飾り針だった!
コレット 「こんな…こんな物で殺せるはずないのに。バカですね、私…」
飾り針を拾うと、突然号泣し始めるエルンスト。
身体を折り曲げ、涙をポタポタと落とす姿に、コレットの目にも涙があふれ出す。
ランディ 「あのエルンストさんが…泣いてる…」

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*実質的にはこれが最終話です。
あと残り1話はエルコレロ〜マンス編になるかどうか乞う御期待!
(↑無責任予告)

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