フリスビー刑事エルンスト編・第5話
「ひび割れた時計」


○コレットの家・前(夜中)

暗闇の中、対峙しているランディとヴィクトール。
ランディ 「ヴィクトールさん、俺にもぜひクリス刑事の仇討ちの手伝いをさせて下さい」
ヴィクトール 「何だと!?」
ランディ 「俺はまだ『フリスビー』なんて呼ばれてる半人前だけど、きっとお役に立ちますから! お願いします!」
と、土下座までするのだ。
 × × ×
ランディ達から少し離れた場所に止まっている覆面車の中で、あっけにとられているオスカーとリュミエール。
オスカー 「あのバカ野郎、何してやがる!」
リュミエール 「…ひょっとして係長からの極秘命令とかでしょうか?」
オスカー 「あんな丸見えで極秘なワケないだろーが。それにヴィクトール相手じゃあいつにゃ荷が勝ちすぎるってもんだ」
リュミエール 「だとすると…(と人差し指を自分の顎に当てて)彼の独断ですか?」
オスカー 「係長殿のブチ切れる様が目に見えるぜ」
と、天をあおぐ。
 × × ×
ランディを見下ろすヴィクトールが、やがてにっこりしてしゃがみ込む。
ヴィクトール 「気持はうれしいが、今の俺は一匹狼が似合う男なんだ」
ランディ 「違う!俺にとって、あなたは狼なんかじゃない! あなたは…誇り高い獅子のはずだ!」
ヴィクトール 「…困った奴だな」
 と、頭をかくのだ。

○同・中(夜中)

書斎のクリスの机の引出しを開け、警察手帳を取出すコレット。
手帳のあるページに『エンリケ・チア』と、メモ書きがされている!
 × × ×
コレットの回想。
クリスの背広を脱がせているコレット。
クリス 「なあ、『エンリケ・チア』っていうピアニストの名前、知ってるか?」
コレット 「さあ、聞いたことないけど。それがどうかしたの?」
クリス 「いや、今日たまたま聞き込みにいった医者の部屋で、いい曲が流れていてね。
君にも聞かせたいなと思って尋ねてみたら、その名前を教えてくれたんだよ」
コレット 「そう。じゃ今度CDショップに行ったら探してみるわね」
 × × ×
止まった掛時計を見上げるコレット。
コレット 「あなたの仇は必ず私が討ちます。ヴィクトールさんが手を下す、その前に!」
掛時計のひびがビシッという音を立て、さらにひび割れていくのだ…。  

○車の中(夜中)

運転席で仮眠をしているエルンスト。
ビシッという音に飛び起きる。
エルンスト 「今のは…!?」
と、サイドミラーにひびが入って割れているのだ。突き動かされるように、アクセルを踏む。猛ダッシュする車。

○倉庫街(夜中)

ヴィクトールとランディが乗った車をオスカー達が尾行している。

○覆面車の中(夜中)

無線を通じて車内に響き渡るオリヴィエの怒号。
オリヴィエの声 「フリスビーがヴィクトールにくっつき虫してるって、アンタ達なんでそんな七面倒臭いシチュエーション作っちゃってるワケェ!?」
リュミエール 「申し訳ありません、係長。折をみてフリスビーは必ず連れ戻しますので」
オリヴィエの声
「今はそれどころじゃないんだよ。どうやら本命のホルスト一味が動き出したらしいって情報が入ったんだ。フリスビーはしばらくそのまんま飛ばしときゃいいから、あんた達は何とか血なまぐさい連中を阻止するんだよ!」
オスカー 「燃えるセリフを言ってくれるねえ〜係長殿は」
リュミエール 「わかりました。私たち二人で全力で立ち向いたいと思います!!」
オリヴィエの声 「う〜ん、気持はうれしいけど、軟攻でいいからね、リュミちゃん。応援、急がせるから」
 と、無線が切れる。
オスカー 「確か、ホルスト議員には”親衛隊”と呼ばれる命知らずが30ちょいいるはずだ」
リュミエール 「30!?」
オスカー 「だから係長の言う通り軟攻でいかないとな、軟攻で」
 と、リュミエールにウィンクする。

○倉庫の中(夜中)

ホルスト親衛隊が勢揃いしている。
親衛隊長
「いいか、相手はエルダと名乗る、顔に傷がある男だ。一人で来ると言ってはいるが仲間がいないとも限らん。ボスのために、できるだけ速やかに抹殺プランを遂行することを期待している」
一糸乱れぬ様で、数グループに分かれ散っていく屈強な男たち。

○倉庫街(夜中)

停車しているヴィクトールの車。
やや離れてオスカー達の車も見える。

○覆面車の中(夜中)

後部座席で隠れて何やらガサゴソとやっているリュミエール。
リュミエール 「(少し怒った声で)何だってこんな物持ち歩いていらっしゃるのですか!?」
オスカー 「俺は嫌だと言ったんだがね。係長がどうしてもって頼むもんだからな。おい、急がんと手遅れになっちまうぜ」
リュミエール 「用意、終わりましたけど」
と、水色のワンピース姿にしかも薄化粧まで施した顔で恥じらって登場。
オスカー 「(口笛を鳴らし)こりゃ予想以上に効き目がありそうだぜ」

○倉庫街(夜中)

油断なく見張る親衛隊の男たち。
その彼らの目の前をすっとよぎる水色の長い髪。
親衛隊の男A 「何だ、今のは?」
親衛隊の男B 「女の後ろ姿に見えたが…」
と、銃を手に追っていくのだ。
行ったり来たりする水色の髪の女に翻弄される男たち。
親衛隊の男C 「おいどうした、お前たち」
親衛隊の男A 「怪しい女がいる。もしかしたら仲間かもしれん」
と、次第に男たちの数が増えていく。
そこへマドロスパイプの煙をくゆらせながら颯爽と登場するオスカー。
オスカー 「ひょっとしてその女ってーのは、水色の長い髪をしたちょっといい女じゃなかったかい?」
親衛隊の男B 「そうだ。知っているのか?」
オスカー
「まあな。ここらじゃそういういい女はこの世のもんじゃないって相場が決まっていてね。水色の髪といやあ、そう、第4倉庫でクレーンの下敷きになった娘だな。何でもあんた達のようなマッチョな男が好物だったって噂もあったかな」
 明らかに動揺している男たち。
オスカー 「まあとりつかれないように気をつけるこったな」
と、去っていく。
その直後に又現れる水色の髪の女。
リュミエールの声 「あなたへの密かな想い、感じていただけたのでしょうか…」
一斉に逃げ出す男たち。
一人ポツンと残されるリュミエール。
オスカー 「(いつのまにか横に立ち)マッチョな男ほど幽霊を怖がるってデータ、あながちデタラメでもなさそうだぜ。なあ?」
リュミエール 「だとしても、こんな軟攻、これっきりにして下さい!」
と、水色の髪のかつらの束をオスカーにポンポン投げつけるのだ。

○走る車の中(夜中)

エルンストの額から汗が流れ落ちる。
エルンスト 「どうして私はこうも鈍いのだ!」
 × × ×
エルンストの回想。
カウンセリング室で。
エルンスト 「まるで『裁判とは、公明正大という名の暴力だ』…そんな風にも聞こえましたが」
コレット 「エルンストさん!」
と、思わず涙がこぼれ落ちる。
エルンスト 「申し訳ありません。貴方の涙を見るために、ここに来たわけではないのに」
コレット 「(エルンストに背を向け)…あなただって御存知のはずです。…主人の死も、警察という一見”公明正大”な組織によって封じ込められたということを」
と振向いた顔にもう涙はない。
エルンスト 「(ハンカチを握りしめ)そんな腐った組織を自ら辞したヴィクトール先輩に、私も倣えばよかったとおっしゃるのですか?」
コレット 「(首を横に振り)あなたとヴィクトールさんは違いますもの。ただ、私はあなたにあの方を捕えてほしくない、それだけです…」
 × × ×
エルンスト 「クリス、お願いです。どうか今度だけは私を間に合わせて下さい!」
強引な運転にフロントガラスに映る星々が曲がった光跡を作り出す。

○倉庫街・ヴィクトールの車の中(夜中)

ヴィクトールのケータイが鳴る。
ヴィクトール 「エルダですが」
アレックスの声 「アレックスだ。今18倉庫に到着した。場所がわかるか?」
ヴィクトール 「ああ、わかるとも。もちろん一人なんだろうな」
アレックスの声 「一人さ。そっちこそジャラジャラ連れがいるんじゃないのか?」
ヴィクトール 「今にわかるさ」
と、ケータイを切る。
ランディ 「アレックスって、コレットさんの病院の内科部長でしょう。彼がクリス刑事を撃った犯人なんですか!?」
ヴィクトール 「フリスビー刑事!」
ランディ 「はい!」
ヴィクトール 「お前に頼みたい仕事がある。しかも2つだ。できるか?」
ランディ 「まかせて下さい!」
ヴィクトール 「いい返事だ。(と小指大のカプセルを出し)この爆弾を七聖署に持ち帰ってくれ、慎重にな」
ランディ 「これ、本物のウィルの爆弾なんですね…。わかりました。で、もう一つの仕事というのは?」
と言うが早いかヴィクトールにボディブローで気絶させられてしまう。
ヴィクトール 「できるだけゆっくりおねんねしてくれると俺は大助かりなんだがな」

○倉庫街(夜中)

 黒いジャンプスーツの女がまたがった、1台のバイクが到着する。
 ヘルメットを取ると、それはなんとコレットである。

前へ    次へ

悪いクセでリュミちゃんで遊んでしまった回でございます。
次回にはちゃんと本筋を展開しますんでどうかよしなに。(すばる)

「フリスビー刑事」扉へ

すばる劇場へ