フリスビー刑事エルンスト編・第4話
「公明正大という名の暴力」


○バー『シルクロード』・中(朝方)

マイシェイカーをマイターバンで几帳面に包むマスター。
マスター 「あー、今日も1日お世話になりましたねー。明日又よろしくお願いしますね」       
と、桐箱にしまうのだ。

○同・表(朝方)

ドアを開け出て来るマスター。
ゼフェル 「よぉ、この前は色々とすまなかったな」
マスター 「おやー?(と、朝の光に目が慣れない様子で)…誰かと思えばゼフェルさんじゃありませんか!」

○立食い定食屋(朝方)

チキンカレーを頬張るゼフェル。
カレー皿に福神漬を盛るマスター。
マスター 「カレーに福神漬を付け合わせたのは、大正時代の客船が最初だったそうですねー」
ゼフェル 「へえ〜(と机を叩くがすぐにやめ)
 こんなことしてる場合じゃねーんだよ。そのー、円盤野郎からなんか聞いてねーか?」
マスター 「円盤野郎?? ああ、フリスビーさんのことですね。あれからお会いしてないですが、お元気ですかねー?」
ゼフェル 「ああ。バカみてえにクルクル動き回ってやがるぜ。ってことは、カプセル爆弾のことは聞いてねーってことか…」
マスター 「それってもしかして『一口マリモようかん』のことですかねー?」
ゼフェル 「『マリモようかん』?」
マスター 「ええ。あの夜ヴィクトールさんが危険かもしれないから警察に届けて下さるっておっしゃって下さいましてねー。本当に何から何まで御親切な方でしたねー、うんうん」
と、急にゼフェルに胸ぐらを掴まれる。
ゼフェル 「おいおっさん! その話、詳しく話してみろ」
マスター 「ど、どうしたんです!?」

○拘置所・表

 腕組みをして待っているゼフェル。
 中から出て来るランディ。
ゼフェル 「すまなかったな、一人で行かせて。で、どうだった? 奴の様子は」
ランディ 「随分とやせてましたね。ウィルは俺の質問にも素直に答えてくれて。ゼフェル班長のことも気にしているように見えました、何となくですけど」
ゼフェル 「そっか…」
ランディ 「それでカプセルのことですけど」
ゼフェル 「(眼光鋭く)しゃべったのか?」
ランディ
「はい。爆破未遂事件があった夜、爆弾を捜すふりをして、騎馬人形のボトルの中に仕掛けたと、はっきり証言しました。残念ながら…」
 × × ×
ランディの回想シーン。
金網越しで驚きの表情を見せるウィル。
ウィル 「! それじゃあのカプセル爆弾は回収されずに、別の事件に使われたと!」
ランディ 「断定はされてはいないよ。それを確かめるためにも詳しく話してほしい」
ウィル 「一つだけ教えてもらえますか? ケガ人はいたんでしょうか?」
ランディ 「今のところいないと聞いている」
ホッとした表情のウィル。
 × × ×
 大きくため息を吐くゼフェル。
ゼフェル
「奴は、ウィルは、頭も切れたし腕もあった。正義感をふり回すタイプじゃなかったが、フェアな奴だったんだ。だからオレがもっと早くあいつのどす黒い嫉妬心に気がついてやっていればってな…」
ランディ
「そうですよね。最後に白と黒のコードのどちらを切るかって時にも、正しい方を言ってくれましたしね。実は俺、あの時ウィルの言うことを信じて白を切ったゼフェル班長も、内心すごいなって思ってたんです」
ゼフェル 「あれは一瞬の賭け、だったけどな」
ランディ 「…今回の俺たちには賭けは許さないですよね。相手はあの、ヴィクトールさんなんですから」
ゼフェル 「あいつ、あの夜言ってたよな。『人には人それぞれ、爆弾のように簡単にリセットできない”想い”がある』って」
ランディ 「それって、どす黒い”想い”なんでしょうか…」

○ユニバーサル病院・カウンセリング室

 黒衣をまとったポーラが訪れている。
コレット 「ではどうあっても訴えを起こされる、とおっしゃるのですね?」
ポーラ 「ええ、コレット先生。亡くなった主人の胸の内を思うと、私は、私は…」
と、唇をかみしめ言葉にならない。
コレット

「ポーラさん、『怒りは自分に盛る毒』です。裁判というものは、一見公明正大に行われるものと考えられがちですが、実際は個人が封じ込められ、たった一つの流れに沿った事実関係が積み上げられていくのです。ポーラさんの御主人への想いも、否応なしに歪められる可能性だってあるんです。もう一度考え直されませんか?」
ポーラ

「ありがとう、先生。私がこれ以上傷つかないよう気遣って下さって。でもね、結果がどうあろうと、私は戦うつもりです。アレックスという男を医者として、いいえ、人間として許すことはできません。亡くなった主人の顔にも、その想いは見てとれました。ええ、間違いありません」
コレット 「(涙を浮かべ)わかりました。私も、裁判には必ずお伺いします」
 一礼すると部屋を出ていくポーラ。
 入れ違いに訪れるエルンスト。
エルンスト 「まるで『裁判とは、公明正大という名の暴力だ』…そんな風にも聞こえましたが」
コレット 「エルンストさん!」
と、思わず涙がこぼれ落ちる。
エルンスト 「申し訳ありません。貴方の涙を見るために、ここに来たわけではないのに」

○安ホテルの一室

窓のカーテン越しに下を見ているヴィクトール。
ホテル前にオスカーとリュミエールが立っている。
ヴィクトール 「(ケータイを耳に当て)…
 先日お近づきになったエルダという者ですが、約束のモノは御用意いただけましたかな? アレックス先生」
アレックスの声 「ああ、用意はできている」
ヴィクトール 「ほう流石ですな。手術よりも手際がよさそうだ」
アレックスの声 「あいにく私は外科医ではないのでね。で、取引の時間と場所は?」
ヴィクトール 「できるだけ急いでもらいたいんですがね、こっちとしては」

○ユニバーサル病院・内科部長室

 電話を切るアレックス。
アレックス 「(不敵な笑みを浮かべ)バカな奴め。飛んで火に入るとはお前のことだ。虫けらのように葬ってやる!」
 と、ノックの音。
アレックス 「どうぞ」
CDを手に入ってくるコレット。
アレックス 「これはようこそ」
コレット 「お借りしたCDをお返しにまいりました」
アレックス 「どうです、癒されたでしょう、『エンリケ・チア』のピアノの音色」
コレットの瞳に憎悪の感情が湧き上る。
だが顔には微笑みさえ浮かべ
コレット 「先生、CDのお礼に今夜お食事でもいかがですか」
アレックス 「(心底残念そうに)なんてことだ! 今夜はどうしても外せない用がたった今入ってしまって。明日以降なら絶対的にあけますから!」

○七聖警察署・鑑識課

セイランの元に訪れているランディ。
ランディ 「(大声で)それは本当ですか!?」
セイラン 「僕が今までに嘘を言ったことがあるかい? ホルスト議員宅で爆発した爆弾は、ウィルが作った精巧な物じゃない。外見は同じでも中身はオモチャ同然の代物さ」
ランディ 「つまり誰かを傷つけるつもりはなかったってことですよね?」
セイラン 「殺傷力は極めて低いと言わざるを得ないね。目的は脅しと考えるのが妥当だろう」
ランディ 「やっぱりヴィクトールさんは、あの人は俺が思った通りの人だったんですよ。
俺はあの人の刑事としての誇りを信じてあげたいんです、セイランさん」
セイラン 「君のそういう無鉄砲なとこ、嫌いじゃないけど。確かに灰色は黒とは限らないさ。だけど君は…刑事だろ?」
ランディ 「わかってます。あの人の本当の目的が何なのか、きっと突止めますよ!」
 と、飛出していく。
セイラン 「(カプセルのかけらを指でつまみ)
 これがニセモノだとすると、本物はまだ切札として持っているってことか…」
と、顔をくもらせるのだ。

○コレットの家・前(夜中)

 窓に灯りがともる。
 物陰から見ているヴィクトール。
ヴィクトール 「(背後に気配を感じ)誰だ!」
ランディの声 「俺ですよ、ヴィクトールさん」
 闇の中から現れるランディ。
ヴィクトール 「お前か。俺に何か用か?」
ランディ 「あなたにお願いがあって来ました。
ヴィクトールさん、俺にもぜひクリス刑事の仇討ちの手伝いをさせて下さい!」
ヴィクトール 「何だと!?」
 ランディの白いマフラーが夜風にはためく――。

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ゼフェル班長登場〜ということでようやく晴れてフリスビーオールスター登場編と相成りました。
ゼ−君にくっつき虫で例の方も出ばっておられます。(すばる)

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