フリスビー刑事エルンスト編・第2話
「ワナ」


○ユニバーサル病院・内科部長室

内科部長アレックスの元に訪れているコレット。
アレックス
「最近は何かというと『ドクターハラスメント』だなんだと騒がしくなりましたな。まあポーラさんの件は今後心に留めておきますよ。いやいやコレット先生には常日頃お世話になりっ放しですな」
コレット 「患者さんの御家族も、患者さんと同じ気持で闘病されていることをお忘れにならないで下さい。では私はこれで」
アレックス 「待って下さい。前からお誘いしてる、一緒にお食事を、という話、今夜あたりどうです? 先生の『ドクハラ』の講義も是非お聞きしたいですし」
コレット 「今夜も来客の予定がありまして…。またいずれ」
と、部屋を出ようとするが――
アレックス 「ではこれだけでも」
と、一枚のCDを無理やりコレットに押し付けるのだ。
アレックス 「最近僕がはまっているラテン音楽のCDでしてね。カウンセリング効果もあると思いますよ。是非聞いてみて下さい」
コレット 「…わかりました。お借りします」
と、出ていく。
アレックス 「あのそっけなさが実にイイネ」

○ホテル街

小さなホテルのロビーから出て来るオスカー。そこへさりげなく合流するリュミエール。
オスカー 「何かわかったか? 鬼刑事がお気に入りのスポットとか」
リュミエール 「いいえまだ。ただヴィクトール刑事はオフの時もクリス刑事とよく行動を共にしていたようですね」
オスカー 「フン、色気のない話だな」
リュミエール
「エルンスト検事の話では、クリス刑事が撃たれた時、ヴィクトール刑事はほんの200m離れた場所にいたんだそうです。ですからなおのこと、部下を守り切れなかった悔しさがつのるのでしょうね」
オスカー
「だから上の命令で捜査が打切りになった途端刑事を辞めて、この3年ホシを追い続けてたっていうのか? 俺には到底マネのできない芸当だぜ」
リュミエール 「(少し拗ねたように)私がオスカー様の目の前で撃たれたとしても?」
オスカー 「お前のことだ。例え撃たれたって、その弾を素手で掴んでポイッだろ?」
リュミエール 「私はそんな赤塚アニメのような刑事じゃありませんっ」
と、ますます拗ねてしまう。

○バー『シルクロード』・中(夜)

お互いの顔も見えないほど暗い照明。生演奏らしきジャズ音楽が聞こえる。
カウンターで一人カクテルを飲んでいるエルンスト。  
カクテルグラスの中に浮かんでくるコレットの淋しげな笑顔。
コレットの声 「あの時計…どうしても処分する気になれなくて」
思わず溜息をもらすエルンスト。
マスター 「恋の吐息、ですかー?」
エルンスト 「恋!? とんでもありません!」
マスター
「お客様がお気づきになっていないだけかもしれませんよー。そう言えばある映画でこんなセリフがありましたねー。『流れ星がパスタに見えたら恋に落ちた証拠』だとか」
エルンスト 「それは視覚心理学上あり得ない現象ですね」
マスター 「……」
そこへ空のグラスをカウンターにトンと置く男――セイランである。
セイラン 「こんばんは」
エルンスト 「! あなたは確か鑑識…」
エルンストの口唇にスッと人差し指を当てるセイラン。
セイラン 「野暮はよしましょう。ところでさっきの話の続きですが、ポール・ヴァレリーはこんな風に言ってます。『恋愛とは二人で愚かになることだ』と」
エルンスト 「愚か、ですか…」
セイラン
「ただ愚かになることは意外に難しい。あなたのような方はなおさらね。(と、グラスを持上げ)マスター、グリーンアラスカをもう1杯頼むよ」
マスター 「はい、ただいま」

○墓地(早朝)

朝もやの中を花束を抱いて歩いていくコレット。
クリスの墓の前に佇む人影に驚く――
コレット 「ヴィクトールさん!」
 × × ×
ヴィクトール 「そうか、エルンストが貴方のところに…」
コレット 「あの方、ちっともお変わりなくて」
ヴィクトール 「変わるということにはかなりなエネルギーを要する。俺のように年を重ねると特にそう感じる」
コレット 「(厳しい顔になり)あなたの時計も止まったままなんですね…」
突風が吹き花束の花びらを散らす。
ヴィクトール 「貴方も俺を止めますか? エルンストのように」
コレット 「いいえ。あなたはきっとお聞き入れにはならないでしょうから」
一瞬微笑を浮かべるとコレットに背を向けるヴィクトール。
歩き出してふと立止まり――
ヴィクトール 「そう言えばまだ貴方には話してなかったかもしれないな。クリスと最後にかわした言葉を」
コレット 「最後にかわした言葉…」
ヴィクトール

「アイツが珍しく弱音を吐いてね。『先輩、このヤマは何だか空回りしていく気がします』と。そして俺は言った。
『頑張ろうじゃないか、最後に笑い合えるようにな』…そう言うとアイツはいつものクセで、両頬をパンと叩くと走っていったんだよ」
コレット 「ヴィクトールさん、やっぱり私」
ヴィクトール 「俺に万が一のことがあったら、エルンストを頼ればいい。クリスがよく心配してたよ。貴方はすぐに一人で抱え込んでしまうってね。つらい時は頼ればいい」
と、ゆっくりと去っていく。

○ユニバーサル病院・内科部長室

 電話をしているアレックス。
アレックス 「…ユニバーサルのアレックスです、いつもどうも。又君の病院に転院させたい患者がいてねぇ。…かなりの資産家のようだよ。例のモノも少し色をつけてもらえるとありがたいねぇ、ハハハ。じゃ近々下の者から連絡させるんでよろしく」
と、電話を切る。
アレックス 「悪い芽は早めに摘むに限るからな」
と、リモコンのスィッチを押すと、ラテン音楽が流れ出す。
目を閉じて聞き入っているが、突然ケータイが鳴り、不機嫌に出る。
アレックス 「もしもし」
ヴィクトールの声 「ようやく見つけましたよ、アレックス先生。あなたの最大の弱点をね」
アレックス 「誰だ!?」
ヴィクトールの声 「さあ、『エルダ』とでも名乗っておきましょうか」
アレックス 「何を言ってる…」
ヴィクトールの声 「3年前、クリス刑事が撃たれた現場にあなたはいた。違いますか?」
アレックス 「!!」
ヴィクトールの声 「証拠を見せろと言うならいくらでもお持ちしますよ。但し、取引額は1つの証拠につき1億。今のあなたの輝かしい地位にすれば安いでしょう?」
にわかに顔色が失われていくアレックス。
ラテン音楽のリズムが次第にアップテンポになっていく――。

○安ホテルの一室

ケータイで電話しているヴィクトールの手の内に、小指大の小さなカプセル。

○走る車の中

運転しているランディ。
ランディ 「(後部座席のエルンストに)検事はヴィクトールさんが本気で予告通りに殺人を犯すとお考えですか? 俺には何かしっくりこないものがあって…」
エルンスト 「(無表情に)私の知る彼なら、本気と考えた方が妥当でしょう。一刻も早く彼のターゲットを突き止め先手を打たなければ、殺人は止められない」

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第2話なので例の方御登場です、ムフッ。(すばる)

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