フリスビー刑事・マスター編第2話

「アイスブレーカーはいかが?」


○バー『シルクロード』・表(夜)

『臨時休業』の札が揺れる。

○同・中(夜)

腕時計で時間を確認するゼフェル。
 ゼフェル 「とにかくオレは1時までにコイツを完璧に止めてやるぜ!」
と、カウンターの爆弾の解体を始める。
息を呑んで見守る処理班の面々。
一方テーブル席ではマスターと客が座り、ランディが客を監視している。
リュミエール 「(ケータイで)…ええ、そういうわけで私達はここを動くことがかないませんので、オスカー様、バンドのメンバーへの聞き込みをお願い致します…」
客がポケットをさぐろうとすると――
ランディ 「動くんじゃない!」
「おいおい、まるで犯人扱いだなあ」
マスター 「申し訳ありません。せっかくいらして下さいましたのに、とんでもない目に合わせてしまいまして」
ランディ 「常連客なんですか、この人は?」
マスター 「いいえ、初めてのお客様ですよー」
ランディ 「(あきれ顔で)初めて!? だったらどこの誰かもわからないってことじゃないですか!」
マスター
「あー、まあそうですけど、でもね、この人は爆弾を仕掛けるような方じゃありませんよー。確かに見たところ顔に傷があるようですが、ほらまるでマリモのようにあったかーい感じがするじゃありませんか」
客&ランディ 「(互いに顔を見合わせ)マリモって??」
リュミエール 「(手帳を取出し)フリスビー、マリモという漢字は『毬藻』…と、こう書きます」
ランディ 「複雑だなあ…俺にはあり得ない画数です、先輩」
そこへ爆弾防護服を抱えてくるゼフェルの部下ウィル。
ウィル 「リュミエール刑事、念のためにこの防護服を着用して下さい。丁度4着分あります」
「ほう、ずい分と用意がいいんだな」
ウィル 「(客を睨み)我々は常に最善策を取るべく訓練されていますから」
 × × ×
 店の時計が0時45分をさす。
ゼフェル 「クッソー、狂ってやがるぜ! この爆弾を作った奴は…」
既に色とりどりのコードが積上げられている。
ゼフェル 「このほとんどがダミーのコードときてやがる。まるでオレを嘲笑いながら挑戦してやがるみてえだ…」
リュミエール 「挑戦ですか…。しかしそれをはね除ける自信はおありなのでしょう?」
ゼフェル 「(腕を組み)そうだなあ…」
ウィル 「当たり前のことを言わないで下さい」
他の部下たちも各自頷いている。
マスター 「(目頭をおさえ)師弟の絆というものは死の恐怖感まで越えてしまうものなんですねー、うんうん」
ランディ 「ですが、あと10分しかないんですよ! 何か対策をとった方がいいんじゃ」
リュミエール 「フリスビー、落着いて。『10分しか』ではなく『10分も』あるのですから。そうですね? ゼフェル」
ゼフェル 「ああ。最後の、そして最大の砦がこの2本のコードだ。果たして、白か黒か」
爆弾に残された白黒の二重に巻き付いたコードを見据えるゼフェル。
「つまり、その2本のうち1本が本物で、1本がダミーというワケだな?」
ゼフェル 「そういうこった」
「だったらどうだ? そこのウィルとかいう若い奴に、白か黒どちらかを選ばせてみたら」
ゼフェル
「ふざけるなっ!! このオレ様が、こんだけ悩むような代物なんだ。こんな奴に選べっこねぇだろーが! 命がいくつあっても足りないぜっ」
ウィルの咄嗟の反感の瞳を見逃さないリュミエール。
「それはどうだかな? どうだ、やってみないか、ウィル?」
ウィル 「どうしてだ? なぜそんなこと言い出すんだよ!?」
「フフフ…、それはな。俺は知っているからだよ。お前さんが、その爆弾の製造者だってことをな」
ランディ 「なんだって!?」
各々の驚きの声が店中に響き渡る。
ゼフェル 「ウィル! そうなのかっ!?」
ウィル 「バッ、バカな! 一体何の証拠があって、そんなでっち上げを言うんだ!」
リュミエール 「私達が見逃した何かを、あなた様は御存知なのですね。よろしければ教えていただけませんか、手短かに」
 × × ×
客の回想シーン。
  カウンター付近を調べている男たちとその様子をカーテンの陰から注視している客。
  やがてカウンター上の騎馬人形型のボトルを、ごく自然に元あった棚に戻すウィル。
 × × ×

「その騎馬人形のボトルは俺がたまたまマスターに頼んで見せてもらったために、カウンターの上にあったんだ。だがお前は何ひとつ迷うことなくボトルを棚に戻した――つまり、この店に来たのが初めてじゃあないってことだ、そうだろう?」
 汗ばんでいるウィル。
リュミエール 「ではマスターにお尋ねしなければなりませんね。マスター、彼が客として店を訪れた、という覚えはおありでしょうか?」
マスター 「あー、そうですねー」
と、ウィルの顔をしみじみ見つめる。
ランディ 「じっくり見てる場合じゃないでしょう! マスター!」
マスター 「あなたの瞳はまるで氷のように透き通っていて…。はい、この方にお会いするのはおそらく今夜が初めて…」
狂ったように笑い出すウィル。
ゼフェル 「ウィル! てめえ!」
ウィル 「とんだ落とし穴があったもんだ。完璧なはずの計画を、たった一人の客に邪魔されるとは思わなかったぜっ」
ランディ 「やっぱりお前が!?」
リュミエール 「(ウィルの両手を握り締め)今ならまだ間に合います、切断するのは白ですか? 黒ですか?」
ウィル 「…白、だよ」
 一瞬ためらうが白のコードを切るゼフェル。時計が1時を差すが、爆発は起こらず店内に安堵の溜息がもれる。
 × × ×
 満面の笑みでシェーカーを振っているマスター。
 カウンターに並んで座っているランディ、ゼフェル、客の3人。
 ゼフェルの耳に反響するウィルの捨てゼリフ。
ウィルの声 「班長の得意げな顔を見るたび俺は、ムシズが走ってたんだ、ずっとな!」
ゼフェル 「ムシズ、か…」
ランディ 「ムシズって??」
「(コースターを取り)ムシズという漢字は『虫唾』…と、こう書く」
ランディ 「げっ、覚えたくない字だなあ…」
マスター 「えー、意味はですねー、『胃酸過多のため胃から口に出てくる不快な酸っぱい液体』ってことなんですよー」
ランディ 「へぇ〜、マスターって物知りなんですねぇ」
マスター
「ええ商売がら豆知識は多い方でして…さあ、お待たせしました、アイスブレーカーです。『砕氷船』という意味の他に『その場の雰囲気を和やかにするもの』という意味もあるんですよー。さあさあ、どうぞ召し上がって下さい」
と、グラスを3つ並べる。
いきなりあおるようにグラスを飲干してしまうゼフェル。
ランディ 「ゼフェル班長…」
マスター 「あのー、余計なことかもしれませんが、嫉妬の心は誰にも止められません。例えあなたと言えど起こりうる感情なのです…」
ゼフェル
「くだらねー、くだらねーんだよ!
 そんなモンのために、オレは大事な部下を一人失っちまった」

「まあお前は指揮官としてはまだ若い。人を束ねるってことは一筋縄じゃいかんということだ。人には人それぞれ、爆弾のように簡単にリセットできん”想い”というものがあるからな」
ランディ 「失敗は若さの特権だって、俺なんかいつも言われてますよ。元気出していきましょう、班長!」
ゼフェル 「おかわりだ、おっさん! 今のアイスブレーカー、じゃんじゃん持ってきやがれってんだ!」
マスター 「おっ、おっさん…!」

○同・表(朝方)

 辺りはすっかり明るくなっている。

○同・中(朝方)

 酔いつぶれたゼフェルを背負って帰ろうとしているランディ。
ゼフェル 「矢でもニトロでもきやがれってんだ…ムニャムニャ…」
ランディ 「じゃあ失礼します」
マスター 「本当に一人で大丈夫ですか?」
ランディ 「俺、これでも刑事ですから。どちらかというと、体力自慢のね」
「気をつけてな」
ランディ 「そうだ、肝心なこと聞くの忘れてました。あなたの名前、教えてもらえませんか?」
マスター 「そうですよ、命の恩人の名前を知らないわけにはいきませんよねー」
「俺の名は…ヴィクトールだ」
ランディ 「色々お世話になりました、ヴィクトールさん。それじゃあ」
と、店から出ていく。
マスター 「(ポンと手を打ち)そういえば、私も肝心要のことを忘れてしまってました、ヴィクトールさんにお酒をおごる約束」
と、騎馬人形型のボトルを棚から下ろすのだが、中でカランという音が聞こえる!
マスター 「何でしょう、コレ??」
と、取出したのは小指大の小さなカプセルだ。
ヴィクトール 「どれ、見せてみろ」
と、カプセルを受取り、鋭い目つきで観察し始める。
ヴィクトール 「これはっ!!」
 と、顔色を変える。
マスター 「一口マリモようかんみたいですねえ〜」
(マスター編完エルンスト編に続く)

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今年こそは”きりりとしたルヴァ様”を大プッシュ!
の予定だったんだけど、結局こんなんになっちゃいましたあ〜〜
まあ、まだ春爛漫だからいいってことで。(すばる)

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