フリスビー刑事・マスター編第1話
「臨時休業の夜」


○バー・中

開店前の明るい店内。
カクテルグラスを丁寧に磨き終え、曇りのないのを確かめるマスター。
マスター 「あー、これで準備は整いましたねー。そろそろお店を開けてもいいかなー?いいともー、なーんてね」
と、ドアが勢いよく開けられ、一人の客が入って来る!
思わず顔を両手で隠してしまうマスター。
「すまん。少し早く来すぎただろうか?」
マスター 「いえ、大丈夫ですよー。ちょ、ちょっとだけ待ってて下さいねー」
と、照明を落とす。そして目いっぱいの笑顔で登場すると―
マスター 「ようこそいらっしゃいませー」
 × × ×
カウンターの最奥で黙々とバーボンロックを飲んでいる客。
マスター 「あー、今日はあいにく当店自慢の生バンドの方々がお休みでしてねー、何かお客様のお好きな曲をおかけしましょうかねー?」
「いや、俺はこうして静かに飲む方が性に合っているんだ。それよりもマスター、俺はそこの棚に飾ってある騎馬人形が少しばかり気になっているんだ」
マスター 「えー? ああ、コレのことですか」
と、棚から人形をひょいと降ろす。
マスター
「これはですねー、実は東洋の土器を模した物でしてねー、ホラこの馬に乗っている兵士の頭の部分が注ぎ込み口になっていてですねー、そしてココ、この馬の口の部分からお酒を注げるんですよー」
 と、嬉しそうに語るのだ。
「ほうー、なるほどな」
マスター 「そうです(と手を打ち)、せっかくですから、このボトルを使って一杯差し上げましょう。私からのオ・ゴ・リです」
と、突然鳴り出す店の公衆電話。
マスター 「はい、お待たせしました。バー『シルクロード』ですが…」
電話の声 「(変えられた声で)店に爆弾を仕掛けた。爆発時刻は明朝午前4時だ。『シルクロード』に幸いあらんことを」
マスター 「(裏返った声で)バッ、爆弾!?」       
カウンターの客の目がギラリと光る。

○バー『シルクロード』・表(夜)

『臨時休業』の札。

○同・中(夜)

爆発物処理班長ゼフェルのもと、てきぱきと動き回っている数名の男たち。
ただオロオロと見ているマスター。
ゼフェル 「爆発時刻は午前4時と、はっきりそう言ってたんだな、そいつは!」
マスター 「は、はい…」
ゼフェル 「(周りを見回し)しかしここは怪しげなモンがありすぎだぜっ。おいみんな、気合い入れて探せよ!」
部下たち 「了解!」
そこへ到着してくるリュミエールとランディ。
リュミエール 「遅くなりました。ゼフェル班長、いかがですか?」
ゼフェル
「おぅ、オレもまだ来たばっかだぜ。
 アン? こいつ、新入り?」
と、ランディをまじまじ見ている。
リュミエール 「はい。新人刑事のフリスビーです。フリスビー、こちらは爆発物処理班のリーダー、ゼフェルです」
ランディ 「よろしくお願いします」
ゼフェル 「こっちこそよろしくな。噂には聞いてるぜ。漢字が書けない刑事だってな」
ランディ 「なっ!」
ゼフェル 「そう熱くなんなって。今夜は漢字とは無縁な仕事だからよ」
 × × ×
テーブル席で話を聞いているランディとリュミエール。
ランディ 「電話の声に聞き覚えは?」
マスター 「さあ〜。何か機械でも使って変えられたような声でしたし」
ランディ 「そうですか。じゃあ何か恨まれるような心当たりは?」
マスター 「そんなこと、ありましたかねー?」
リュミエール 「小さな水滴でも、それが集まれば大河や海となります。ささいなことでも構いません、思い出して下さいませんか」
マスター 「……! そう言えば! おつまみにお出ししたタコ焼で口の中をヤケドしたお客様が!」
ランディ 「それは…本当にささいですね」

○同・トイレの中(夜)

カウンターの客が腕組をして息を殺して潜んでいる―。

○同・中(夜)

 突然騒がしく動き出す処理班の面々。
 部下の一人ウィルが報告に来る。
ウィル 「ゼフェル班長、爆発物の可能性がある小型のトランクを発見致しました!」
ゼフェル 「よし、どこだっ!」
奥の小さなステージのジャズピアノの脚のところにトランクが斜めに立て掛けてある!
ウィル 「磁場に若干の変化が見られます」
ゼフェル 「おーいマスター、このトランク、見覚えあっか?」
マスター 「(人垣から顔をのぞかせ)い、いえ、見たことないです…」
ゼフェル 「よしわかった。みんな、どいてろ」
と、部下たちを下がらせると、指をボキボキと鳴らし始めるのだ。
そしてネックレスのように胸にかけていた金属の細い棒を、トランクに様々な角度で当て始める。
ランディ 「何やってんですか?」
リュミエール 「黙って! 彼の集中の邪魔をしてはいけないのですよ」
ランディ 「はあ…」
やがて棒を胸にかけ戻すと、トランクをゆっくりと角度を変えずに持上げるゼフェル。
ゼフェル 「おい、カウンターで解体するから、これと同じ角度になる場所を作れ!」
 たちまち立て掛ける構造物を組立てる部下たち。
ゼフェル 「サンキュ。どうやら中身はペットボトル型の液体爆弾らしいぜ」
と、トランクをカウンターに置き、蓋をそうーっと開ける。
すると複雑に絡まった配線とペットボトルが露見する。
リュミエール 「さすがですね、ゼフェル班長」
ランディ 「すごい、まるで自分で作ったみたいに当たってますね…」
リュミエール 「(キッと)なんてことを言うのですか! フリスビー」

○同・トイレの中(夜)

 閉じていた眼をカッと見開く男。

○同・表(夜)

 突然鳴り出す店の公衆電話。
 リュミエールにうながされ、恐る恐る出るマスター。
電話の声 「運良くブツは見つけたようだな」
マスター 「(裏返った声で)犯人さんです!」
電話の声
「悪いが予定変更だ。その爆弾の起動スイッチは遠隔操作も可能でね。真夜中1時ちょうどに爆破する。但し、店の中の人間がたった1人でも外に出ようものなら、その瞬間スイッチを押す」
マスター 「そんな無茶苦茶な!」
電話の声 「『シルクロード』に幸いあらんことを(と、電話が切れる)」
ランディ 「(ヘッドホンを外し)逆探知、ダメでした。真夜中の1時ということは、あと40分しかありません!」
ゼフェル 「悩む暇もなしってことか。けっ、上等だぜ」
リュミエール
「私はあなたを信じていますよ、ゼフェル。…それにしても、『店の中の人間が外に出たら直ちに爆破する』というのは、いささか腑に落ちませんねぇ」
と、トイレのドアがバタンと開いて、中から男が出て来る!
マスター 「お客様あ! お帰りになられたんじゃなかったんですか!?」
「ああ。マスターのオゴリの酒をまだ飲んでなかったんでな」
ランディ 「先輩、怪しいですよ、この男。今までトイレに潜んで何をしていた!?」
 と、身構える。
「だから落着いて酒が飲める雰囲気になるまで待っていたのさ。だがどうやら一向に騒ぎがおさまる気配がないんでね」
リュミエール 「(油断なく男を見据え)申し訳ありませんが、今の状況ではあなたを店の外にはお出しできないのですよ」
「らしいな。思うに、犯人の狙いは、今この店の中にいる誰かなんじゃないか?」
男の鋭い眼光。
リュミエール、ランディ、ゼフェルの額に浮かぶ汗。
マスター 「(頭を抱え)ああ、私があんなにアツアツのタコ焼を出しさえしなければ…!」

  次のお話へ

 あっさり2話で完結だけど、その次のエルンスト編の序にもなってますだ。
バーの客の正体は次回明らかになるんだけど、かなりわかりやすいよね?(すばる)

いや、初めはあの人かと思ったけれどあの人の可能性もあるなあと思ってからは迷いっぱなしだよー。
それにしても。ルヴァを詰問するゼフェル、声裏返るルヴァ、美味しいところてんこ盛り。(ちゃん太)

フリスビー刑事・扉へ

すばる劇場へ