三文字の漢字で三十のお題・03「共犯者」
たくらみ


【147日】
うららかな日の曜日、青空に白い雲がゆっくりと流れ、小鳥たちはにぎやかにさえずる。絶好のデート日和!と先週までなら思えただろう。でも現実は厳しく、女王候補たちは二人ともロザリアの部屋にこもって互いのノートを照らし合わせつつ、頭を抱えているのだった。

「いつの間にこんな事になっていたのかしら」
最新ページにびっしり記入されたリストを指さしてロザリアがため息をつく。

「ん〜なんか油断しすぎていたっていうか…」のろのろと顔を上げながらアンジェリークが答える。ロザリアも
「女王試験の要領にやっと慣れた、と思ってしまったのが敗因かしら」
などと反省しつつ、自分的には一番の原因と思い得る答えを付け足す。

「実をいうと長いことディア様のところにも行ってなかったし」

「え、ロザリアもなの?」
めいっぱい驚いた顔をしたアンジェリークだったが、それで腑に落ちたとばかりに肩をすくめた。
「…結局、謙虚さが足りなかったということかもね」
二人で心から納得して頷きあったけれど、問題は何一つ解決していなかった。



正直、その存在が腑に落ちなかった、占いの館。ここが最重要施設だったなんて、反則だ、というのが現時点での感想。


女王候補たちふたりは、もうこの時点になるとどちらが勝つかという試験結果など眼中にない。むしろ大陸への愛だけで突っ走っている。思えば試験当初から、大陸が大切でたまらないというお互いの共通点に気がついて、いつの間にか誰にも入り込めないほど親密になっていったのだ。
たとえ守護聖様といえども、大陸の計画育成は邪魔させない、という意気込みで。

余分に力を贈って下さりやがる傾向の方々には、気がついた時点でふたりでしっかり釘を刺した。幸い当事者だけでなく周囲もその警告の意味に気がついたようで、その後かなり計画通りに育成が進められるようになった。もちろん、そういう人と親密度を上げすぎないように調整するという技を覚えたということも大きい。
そのときにはじめて、占いの館でまめに親密度をチェックする必要性がわかったと思ったのだが、まだちょっと足りなかったらしい。


3日前、ディア様に二人してお茶に招待された。
ディア様手作りのケーキをごちそうになり、ディア様お手製の豪華刺繍入りテーブルリネンにただ感嘆したあと、「ふたりとも、とてもがんばっていますね」とお褒めの言葉を頂いた。
そこまでなら問題なかったのだけれど。

どちらが女王に決まっても、お互い助け合って力を尽くそうと思っている、という話になったとき、
「あなたたちはここ数ヶ月でとてもいい関係になりましたね。傍目にも気持ちがいいです。…なのに」
と、ディア様はため息をついて目を伏せた。
どう反応していいか解らずにお互いの顔を見つめるしかないアンジェリークとロザリアだったが、わずか5秒後、ディア様はいつもの微笑みを浮かべ、何もなかったように「お茶のおかわりはどうかしら?クッキーもあるのよ」と席を立ってしまった。

「えっと、…さっきの何?」
「わからないわ」

それっきり話題が元に戻ることなく、ディア様の優雅な態度が揺らぐこともなくその日のお茶会は終了した。
しかしあの5秒間が気になる二人は、とにかくキーワードは「関係」だわ、と結論を出して、それなら占いの館に鍵があるかも、と早速次の日に二人でサラの元を訪れた。
占いの館には何度も何度も来ている。でもこれまでは、自分たちのことしか調べていなかったのだ。

サラが占ってくれた結果は、二人の想像を絶していた。

「親密度ゼロ、なんてアリ?」
「それよりも相性ゼロが……恐ろしすぎて…」
「しかもいかにもわがままそうな人やいかにも仲悪そうな組み合わせだけではないのがコワイっていうか」
「…ものすごく失礼ではあるけれど、確かにそうね」
そして、二人きりの緊急対策プロジェクトチームが発足したのだ。
発足しただけで、すぐには動き始められそうになかったけれど。




【152日】
何かが起こっている、とクラヴィスが感じたのは、リュミエールがいつもより5分ほど早く演奏を切り上げ、自室とは反対側に向かって退出するようになってからだ。あの方向にはジュリアスの執務室以外に何があったのか、簡単には思い出せない。
ジュリアスのところだとしたら、叱られているのか、はたまた喧嘩を売りに行っているのか。
――無いな。

だが、なんにせよ自分には関係のない話だ、とクラヴィスはこの件についてそれ以上考えることはなかった。




【155日】
近頃占いの館でよく女王候補に出くわす。何か妙だ、と思ったゼフェルだったが、気がついてしまった。よく会うということは、自分もよく占いの館に通っている事に他ならない。なぜ試験に占いなんだよ、なんて初めは思っていたはずの自分がどうして。恐ろしい話だ。

今日もまたロザリアに「リュミエール様と仲良くして」と頼まれてしまった。このところずっと同じセリフだ。アンジェリークでもロザリアでも変わりなく。
いったい、自分とリュミエールはそれほど仲が悪く見えるのだろうか? 
実際たしかに仲が良いとは言えないだろうが、仲が悪いというのも違うように思う。正直、仲が悪くなるほどの関わりもないというのか。格好良くいえば、「相互不干渉な没交渉」のつもりなのだが、女王候補たちの目にはもっと違った何かが見えているのかも知れない。

それにしても。確か、もうちょっと前までは「ゼフェル様と仲良くなりたい」なんて頼まれていたはずなのに、そっちはもういいのかよ、と思わないでもない。そう思うと、彼女たちの意向には反して、ちょっとリュミエールが恨めしくなってしまったりもするのだった。
それでも、少しは交流を増やそうかと、ルヴァのお茶会への出席率を上げるぐらいの事はしなくては、と思う。
試験なんてカンケー無いって思っていたはずなのに。




【156日】
星が育っていくのをつぶさに見守るのがこれほど楽しいことだとは。
試験が始まって以来、足繁く研究院に通っては育成状況を見守っていたランディだが、ここしばらくどちらの大陸も成長がストップしているのがとても気にかかる。かといって女王候補たちが試験をサボっているわけでもないようだ。何度か研究院で会ったし、大陸にも頻繁に降りている様子がある。
なのに、なぜ。

いくら考えても見当もつかないので、周到な準備のもとに事が進行しているならば傍目にはあるいは止まっているように見えるのかも知れない、と思い直すことにした。というか、あの女王候補たちならそう考える方が自然だからだ。
「よくわからないけれど、応援するから!」なんて直接言ったりはしないけれど。




【157日】
ふと思い立って森の湖に行ってみたら、女王候補たちが滝のそばではしゃいでいる模様。案外元気じゃん、と心底ほっとする。ここのところ、二人ともなんだか思い詰めている様子でしかも始終忙しそうにしているものだから、気軽に声をかけられる雰囲気でもなかったのだ。

「はーい、なんだかお久しぶり」
「オリヴィエ様、こんにちは」二人はとってつけたように直立して彼を迎える。

「そうそう、たまにはここで息抜きするのもイイよね。上手に調整するんだよ。それにしても恋人たちの湖に二人でいるなんて、本当にあんたたち仲がいいね」
「運命共同体なんです」と、微笑みあうふたり。
「へえ?何かすごい重いことさらっと聞いちゃった?とにかく、あんまり無理すんじゃないよ」
「はい!」

そのまま来た道を引き返したオリヴィエが少し離れたところから振り返ると、二人はまださっきの場所にいて、しかもロザリアがアンジェリークに叱られているように見えた。なんだかその様子がおかしくてちょっと吹き出しながら、ここのところのカオスな状況についてそろそろルヴァあたりを問い詰めるべきかと延々考える帰り道だった。




【157日】
「ちょっとロザリア、なにハートの無駄遣いしてるのよ!」
「え、私別にそんなつもりじゃ」
「ほら、あっちで何か光ったよ。…やっぱりオリヴィエ様来ちゃったみたいじゃない」
「え、え、どうしよう、お祈りしたつもりじゃなかったのに、第一、滝のお祈りは一人きりの時しかできなかったはずじゃないの?」
「私知らないわよって、わ、わ、もう来る!」

  ×  ×  ×

「で、ロザリアの残りのハートはラブラブフラッシュ1回分ね」
「ごめんなさい」
「ううん、要するにここは相談事には案外向いていないって事よね。静かでキレイで気分転換をして考え事をするにはぴったりだと思ったんだけれど、甘かったなあ」
「…やっぱり、わたくしの部屋に帰る?ばあやはそうね、お買い物でも頼むことにするわ」




【158日】
近頃何かヘンだ、とオスカーは落ち着かない気分でいる。ここ飛空都市のあらゆる巷間の噂に精通しているつもりでいたのに、違和感の正体がつかめない。
まず、同輩が浮き足立っている。彼と自分との関係は一言で言って「微妙」なので、何があったか直接問いただすことはしない。いつもの小憎らしい落ち着きが失せているのは案外自分にとってありがたいことかも、と思うだけにとどめておく。
加えて上司(と言っていいのやら)が妙だ。彼に何が起こっているのかはわからないが、平静を装わなければと目一杯の努力をしていることだけはわかる。そのようなときは普通、3日もすれば向こうの方から事情を明かすのだが、今回はその答合わせもなく、ただ違和感のみが続いているのだ。
女王試験はひとつの治世の終わりを意味するのだから、これも仕方がないことなのだろうか。
女王試験といえば、候補たちの姿もしばらく見ていない。
ああ、なんだかすっきりしない。結局自分は物事が自分の前を素通りするのが気に入らないだけかも知れない、とうっすら思いつつ。




【159日】
球根を掘り返しながら、マルセルはこのところ気にかかっていることをふと口にした。
「なんか女王試験、止まってない?」
ランディも大いに頷く。
「じゃ、やっぱり気のせいじゃなかったんだね。僕もう長い間女王候補たちに会ってない気がするんだ」

「王立研究院で時々見かけるよ」ランディは掘った球根を籠に並べながら言う。
「今日は朝イチで占いの館にいたぜ」実はその時「ランディ様と仲良くして下さい」と言われたばかりのゼフェルも参入する。早速言いつけを守っている、なんて思われたくないのでもちろんそれは口外しないで、掘り返し終わった花壇の土をならす作業に集中するふりをして。

「そうなんだ。聖殿では全然見なくなったと思っていたけれど…あ、でも確かに先週公園で見かけたっけ」

確かあのとき、アンジェリークはしみじみと言ったのだ。「マルセル様って大人ですね」
え、それどういう事、と聞く前にアンジェリークは軽やかに駆け出して行ってしまった。
たぶん褒められたのだろうけれど、なんの脈絡もない褒められ方は喜んでいいのかもよくわからない。詳しく聴ける雰囲気ではなかったのが悔やまれる。そういえばあのときも彼女は占いの館の方からやってきたようだった。だから、研究院や占いの館によく行っているというのはその通りなのだろう。

「でもまあ、あの二人が試験そっちのけで何か他のことを、なんてあり得ないよね」とマルセルが思いついたままを口にしたら
「確かに」とランディは自分に言い聞かせるようにつぶやき、ゼフェルも無言で頷いたのだった。




【148日】
女王候補たちは神妙な面持ちでルヴァの前に立ち、審判を待つように彼の顔をじっと見つめていた。
「ええと、特定の二人を短時間で仲良くさせる方法、でしたね?」
「そうです」

「そうですねー。同じ目的を持つ、というのは大切だと思いますよ。でもその事で敵同士だと認識することになってしまうと、仲良くはいっそう困難でして」
「ええ、そこが難しいところなんだと思います」

「そう考えると、一番いいのは共犯者にすることでしょうかね」
なるほど、と深く納得顔の二人。

たくさんのお礼の言葉を並べた帰り際、アンジェリークがくるりと振り向いて言った。

「ところでルヴァ様、これでルヴァ様と私たちも共犯者、ですね?」
無垢すぎる笑顔に、ヤラレタ、と思ってももう遅かった。




【148日】
そもそも相性とは、親密度とは。
ぐるぐる考えていたら結局その辺の根源的な問題を理解していないことに気がついて、二人してサラのところに教えを乞いに行く。
「うーん、正直言って説明しにくいわね」の第一声に大いに脱力したけれど。

要するに、この状況をどうやれば変えられるか、ということなのだから、その辺を重点的に問い直す。
「まず相性。相性さえよくなれば、交流することで親密度は上がるはずよ」

おまじないは一日に二人で2回しかできないので、占いの館に通い詰めて誰か守護聖が来ているのをつかまえるのが一番近道っぽい。
それでは占いの館でほとんど見かけなくて、あまり顔を合わせそうにない組み合わせについては、何らかの工作が必要、って事になるのかな?



【148日】
「セカンドオピニオンって大切だと思うの」
とアンジェリークは、水晶球を扱いカードを読むかの人のもとへの訪問を主張する。
いきなり切り出したけれど、もしかしてクラヴィスにかまいたいだけなのではないかと思ったロザリアは黙っていた。
ハートを余らせるよりはマシかと。
期待しなかったことがよかったのか、思いがけない収穫と共に部屋に戻れたのは幸いだ。

で、相談の続きをしながら、あなたの本命は一体、ととても聞きたいけれどなぜか踏み込めないのは、
「両方!」とか思いがけない全然別の名前が挙がっても不思議でないからなのだ。
――「全部!」って言われても驚かないかもね。




【149日】
なんとか方針が固まったので、二人でディア様のところに特攻した。
守護聖たちの人間関係をチェックしたこと、この状態の守護聖たちを率いる自信もつもりも自分たちにはないこと。
この状況を動かすための小さな試みと、それに関しての協力の要請について。

「大義名分、ですか」
「お願いします!」

「たしかに、陛下のご下命とあればあの人たちも動いてくれるでしょう。しかし、ただ共同作業だけでは、かえってお互いに心証を悪くする危険もあるのではないですか?」
「『極秘事項につき口外厳禁』の但し書きをつければ、一気に共犯者です」

ディア様は微笑みを浮かべると頷いて言った。
「よくできました。ちょうどぴったりの仕事もありますから、ではそれをこちらから依頼しましょう。」
「なんの仕事ですか?」
「極秘事項ではなかったかしら?」とディア様はさらりとかわす。
「さあ、あとはあなたたちの手腕に期待していますよ」

再び本部、つまりロザリアの部屋に戻って確認し合う。
当分は占いの館に通い詰めて、おまじないとお願いを連発すること。
一日の終わりに報告し合って、翌日の段取りを組むこと。
大陸に降りたり、研究院をチェックするのはあり。
育成も妨害もなし。
「お話は、他にしなければならないことがなければありかしら?」
「今回の件に絡んでいない人ならアリかな」
「そんな人いたっけ」
…笑うしかない。

「女王候補と一緒にいるところを見ただけで親密度が下がったりする組み合わせも結構あるみたいだから、確かにどこにも行かない方がよさそうね」
「ああもう本当に面倒くさい連中だなー」
連中呼ばわりしているのでは、甘い感情なぞ入り込む隙さえない。ちょっと残念。




【150日】
陛下から直々の指名があり、急ぎ聖地に戻れば招集されていたのは自分とジュリアスの二人だけ。
そんな想定外の状況に置かれて、リュミエールはどんな顔をすればいいかわからないでいた。

女王試験が始まった当初は自分としてはかなり前向きで取り組んでいたはずだったのに、いつからかいろいろな歯車がかみ合わなくなってきて、今では試験から少し距離を置いている状態だ。なのに、誰よりもその事を不快に思っているだろう首座からとくにとがめ立てられていない事が、かえって居心地が悪い気がしている。我ながら勝手なものだ。
そんな少し腰が引けた状態で受けるには今回の下命の内容は厳しいものがあった。
現女王の退位処理。その性質上、極秘で、という但し書き付きだ。

今回もジュリアスは試験のことには全く触れず、あらたに下された指示について簡単に相談しあうことになる。
この仕事まで失敗したらどうしようという不安が表情に出ないか、それだけが心配だった。

「ディア、なぜわたくしがこの任に就く事になったのでしょう」
飛空都市に戻る途中、しきりにお茶会への参加を勧める補佐官をさえぎってなんとか尋ねると、
「数え切れないほど理由はありますが、あなたの細やかな心遣いについて女王候補たちが絶賛していたことがいちばん大きいでしょうね」
と、思いがけない答が返ってきた。
候補たちの推挙。ああでは、私のやり方も、すっかり間違っていたわけではないのですね。




【150日】
緊張しているのだろう、自分の隣で少し青ざめて女王と補佐官の前に立つリュミエールをどう扱ったものか、ジュリアスは決めかねていた。
退位処理が守護聖に任されるのは実は初耳だが、ことの性質上知らされたことがなくて当然だと思える。自分が中心になるのも納得だが、補佐役が固定で指名されているのは少し驚いた。だが、司るサクリアから考えると頷ける。
それに、あのとき結果的にリュミエールはスケープゴート的な位置に立たされてしまったのだから、失地回復のチャンスを与えようという意味もあるのだろう、と。
そして少し悔やむ。もう少し自分が上手く対処していたら、あれはリュミエールにとって回復が必要なほどの傷にはならなかったのではないかと。

過ぎたことを悔やむより、眼前の問題にベストを尽くす。その後半だけを口にして、細かい打ち合わせにはいる。本当に主張したいのは前半だけれど、まっすぐ受け取れる相手なのかまだわからないから。




【151日】
計画のキーポイントというか自分たちでさわれない部分が始動しはじめたようで、ひとまず安心。

人間関係をリストにしてみて驚いたのは、穏和で人当たりがいい印象を持っていたリュミエールやルヴァのほうが、親密度の異常に低い相手が多いということだった。とくにリュミエールは、クラヴィス以外の全員と親密度が低くなっていて、思わず何度も数値をチェックし直してしまった。あの人当たりの良さは本心を隠す巧妙さにつながっていたのか、と、なんだかいろいろなものが崩れていく気がする。
逆にわがままを自認する発言をしていたマルセルやオリヴィエに親密度の極端に低い相手がいなかったのも発見だった。

とにかく実際に数字で確認することは大切だな、と思うと同時に、わがままだと思いこんでいた皆さんごめんなさい、とあまりにも表面にとらわれやすかった自分たちを反省するのだった。
さ、気を取り直して、おまじないに精を出さなくちゃ。




【153日】
当初の予想とは違って、直接各守護聖に確認しなくてはならないことがたいへん多いことにジュリアスは驚いた。
しかも仕事の内容自体は秘匿しなければいけないので、口頭諮問よろしく執務室まで呼び出して、というわけにはいかないだろう。
ああ、このためのリュミエールの抜擢だったのか。
午後、ディアにお茶に招かれる。それどころではないと思ったのだが、彼女の微笑みの迫力に押し切られた。
同席したのはリュミエールとルヴァ。
つまり、これがヒントだと言うのだな。




【157日】
ディアがクラヴィスの部屋を訪れたのは心づもりしていた数日後になってしまった。
予告されていた訪問ではないので遅れても気にすることはないのだろうが、少しの罪悪感を伴って部屋に入る。主は静かにカードを繰っていた。

「ありがとうございました、クラヴィス。とても、参考になりました」
「…なんのことを言っている?」
「ふふ、そうですわね。例の人間関係のもつれの元凶について、いろいろ助言いただいたようなのも、私の気のせい、でしたわね」
「そういうことだ」
それでも部屋の主はそこはかとなく嬉しそうだ。
「で、カードはなんと?」
「予定調和」
「…意味深長ですわね」




【159日】
極秘業務に抜擢されて10日目。
思いの外順調に作業は進んでいる。指名されたときの不安ははすべて杞憂だったらしい。
女王試験半ば当たりから、自分は少し萎縮しすぎていたようだ、とリュミエールはここにきてようやく思えるようになった。

冷たく厳しく、気持ちが通じにくい人だと思っていたジュリアスも、連日接しているとその印象がいかに自分の思いこみに過ぎなかったかがよくわかる。以前オリヴィエやオスカーに思いこみの激しさを指摘された事があったが、今更ながら本当にその通りだと。
とにかく無事に任務を遂行できそうな見通しがついて何よりだ。

聖地からの帰り道、ディアにお茶会開催を勧められ、そういえば長い間出席さえしていなかったな、と思っていた。
それがなぜかその日から連日お茶に誘われている。
そろそろ動きなさい、ということなのだろう。ならば、従うのみ。




【161日】
カオスだと思っていたけれど、逆にどんどん霧が晴れてきたようだ、とオリヴィエは思う。
リュミエールが育成のことで女王候補たちに叱りつけられた(と少なくとも本人は認識しているらしい)事件のあと、試験それ自体に及び腰だったルヴァがこのところ精力的に(といってもあくまでルヴァ基準だが)動き始めていて、連日お茶に皆を呼び集めている。
それに刺激されてか、守護聖たちが三々五々集まる機会が急に増えた。結果、日によっては午前と午後に別々にお茶会があったり、一部メンバーでは飲み会まであるらしい。
かく言う自分も、なぜかコドモたちの集まりに茶々を入れに行ってみたりしている。微妙な嫌がられ加減が楽しい。
思っていた以上に試験が長引きそうだし、ここらで皆でリフレッシュって事?とディアに尋ねたら笑っているだけだったけれど。
とにかくリュミエールもちょっとは元気になってきたみたいだし、ジュリアスもこの状況にわざわざ雷を落としたりはしていないどころか彼にしてはよく参加しているし、いいコトじゃない?




【165日】
ゼフェルは昼下がりの占いの館でロザリアに会ったが、珍しく挨拶だけで何も頼まれなかった。
ただ力が残っていなかっただけかも知れないが、なんか画期的かも、と思った。
そして、またもや自分の中での女王試験の占める割合の大きさに嫌気がさすのだった。自分的に、あり得ない、絶対。




【166日】
相変わらず女王試験は停滞している。その代わりなのかなんなのか、最近やたらと茶会が多い。
気になることを確認するためにという気持ちで、これまでなら出席しなかったような面子のそれにもオスカーは出席するようになった。
茶会の頻度が増すのと調子を合わせ、聖地お茶好きクラブというものがあるとしたら間違いなく幹部であろう同輩も、元の落ち着きと底に横たわるふてぶてしさ(なかなか他の賛同は得られないが)を取り戻しつつある。

本日の茶会(主催はルヴァだ)では、同輩と、ジュリアスの問題処理手順の鮮やかさについて感嘆しあったのを嚆矢に、思った以上に話がはずみ、どこがどう転がったのか自分でも不可解なことに、今夜秘蔵の酒を味見に来る算段になってしまった。
まあ、こういうのもアリかもな。――ところで肴は何にしよう。




【168日】
女王候補たちにいきなり共犯者にされたのには面食らったが、彼女たちの試みはびっくりするほど上手く進行して、協力した甲斐があったとルヴァは思う。協力といっても最初の助言以外には、毎日お茶の時間に思いつく限りの人間を誘っただけだが。
それでも聖地特有のお茶会外交が、候補たちの渾身のおまじない攻勢との合わせ技で人間関係改善に大いに貢献しているのは確かだ。
たぶん、明日、月の曜日から試験は再び動き出すだろう。
だとすれば今日のお茶会はちょっとした節目だ。女王候補たちも呼んでみようか。




【168日】
とっておきのお茶とケーキでアンジェリークたちは久しぶりにゆっくりと夕食後のひとときを楽しんでいた。

「なんとかいい流れになってきたわね」
「3週で目鼻がつくなんて、ちょっとびっくりしてしまうわね」
「確かに。ものすごく根深い問題だと思っていたのに」
「でもまた気を抜くと3週ぐらいで元の木阿弥とか」
「ありそうでこわいわ。なんといってもあの人たちのことですもの」
ひとしきりくすくすと笑い合って、お茶をじっくり味わい、あらためて目を合わす。

「アンジェリーク、一緒に試験を受けたのがあなたで本当によかったとあらためて思うわ」
「私こそ。これからも末永くよろしくね、ディア」

聖地の女王の部屋では、宇宙の終焉が間近にせまっているとは思えないほど平穏なひとときが流れるのだった。

お題提供:


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飛空都市オールスターのはずが、パスハを出しそびれてしまった!

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