おやくそく     


  5


「俺は今そんな気分じゃねー! 俺じゃなくて、他に誘いたいヤツがいんじゃねーのかよー!!」

最後の方は、窓ガラスが小さく震えるほど、怒鳴っていた。

重く、黒い雲が胸の中に広がっていく。
今にも、降りだしそうな嫌な雲が降りてくる。

傘をさそうとしたけど、雨の方が早かった。

水滴が、ポツンと、落ちていった。
また、ひとつ・・・ポツン。
そして、本降りになる。

間に合わない傘。
彼がキライと言った、メソメソした女の子。

「オイ、おめぇ・・・。」

今まで、いちばん聴きたかった声が頭のなかに届くと、私の中で嵐が起った。

「やっと、逢えたと思ったのに、わたしは・・・私は、あなたが好きです!!」

気持ちが止まらない。
ゼフェル様への想いが、止まらない。
降りやまない雨が、嵐となり、ちいさな傘を飛ばして行くように・・・。

私は、執務室を飛び出した。


ここまで、どうやって来たのかわからない。
泣いて取り乱した姿を誰かに、見られたかも知れない。
そして、そんな事を気にする程までに、気持ちは落ち着き始めていた。

森の湖には、人の姿はなく、水の音と小鳥のさえずり、風が髪をやさしく撫でてくれる。
湖のふちへ腰掛け、裸足になると冷たい湖水へ足をいれた。
初めは、冷たすぎた水が、だんだんと私の足先を受け入れてくれ、湖の水面と同じように気持ちも落ち着かせてくれる。

「毎日、かお見せろよ。」って言ってくれたのに、ほとんど顔もあわせず会話らしいものもなかった。
もしかすると、ただの女王候補に対するアイサツみたいなものを、勝手にいいように解釈してしまったのかも・・・。

私の想いは、また嵐を呼び、涙という雨を降らす。
涙が湖の一部になった。
だいすきが音になる。

「ゼフェル・・さま。」

「なんだよ。」

突然、頭の上で声がした。

====================つづく============

   

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