おやくそく     


  6


ぶっきらぼうな声、他の人と間違うことのない声が・・・。

「ゼフェル様。」

おもわず振り返ったそこに、彼は立っていた。

「なんなんだ! なんで、俺から逃げてくんだ! 好きって誰がだよ!
もう一度、はっきり言えよ。おめーは、誰がすきなんだよ!!」

紅い瞳は真っ直ぐに私を見つめていた。
彼の心と同じように。

私は水からあがり、濡れた足をずっと見ていた。
その間、ゼフェル様はじっと待っていてくれた。

私が答えられるように、宇宙一せっかちな彼が・・・。

「私は、ゼフェル様が好きです。
ゼフェル様以外他にお誘いする方もいません。」

心臓がドキドキと鳴るのが、体中に響きわたる。
彼の瞳が外れた。
失恋決定・・・と思った瞬間、体がぎゅっと捕らわれた。
そして、片方の耳が熱くなる。

「わかった。毎日俺のとこに来い。
いいか、ぜってーだぞ。他の奴ん所なんか行くんじゃねーぞ。」

耳に小さく「わかったな・・・。」と聞こえたと同時に、抱きしめられた腕に力が入った。
私は「はい。」と返事をしたつもりなのに、それは涙に邪魔されて上手く言葉にならなかった。
でも、ゼフェル様は「はいって、言いてーんだろ。」と優しく言ってくれる。
彼の腕の中で、私は頷くことしか出来なかった。

森の湖に、夕焼けの朱が染まり始める。
今までの分を取り戻すかのように話した。
些細な思い違いの重なり。
この時初めて、守護聖様もレポートに追われるという事を知った。

「じゃ・・・、レイチェルと会っていたのも。」

「おめーだって、俺以外の奴と話し込んだりすんだろ!」と、明後日のほうを向いた顔は夕焼けに隠れてはっきりと見えなかった。

ジュリアス様の事を如何に大変だったかと説明する。

「そりゃー、おめー。俺のいつもの気持ちが解ってよかったじゃねーか。」と笑われる。
「じゃーどうして、あの日私の部屋に来たんですか?」の問いには、逸らかされ続けた。
何となく解ったのは、何か渡したい物があったらしい。
それが、いったい何なのかすごく知りたかったが、夕焼けよりも真っ赤になっている彼を見ると、それ以上は聞かないでおく事にした。

「だいたい、おめーは解りづれーんだよ。女ならもっとよー。ス、好きな奴のまえじゃ・・・。 だいたい、あれじゃーわかんねーぞ!仲のいい友達みてーだし。
マジ、こまったぜ・・・。」

最後の方はいつもと違いフェードアウトしていった。
やっと、いつもと同じように笑えるようになった時に「あっ!!」とゼフェル様が、いきなり立ち上がった。

「ど、どうしたんですか?」

びっくりしてたずねるとゼフェル様は私の手を取り立たせた。

「おい!! 部屋まで送ってやる。いそげ!!」

もう一人走りださないばかりに歩き始めている。
何がなんだか解らないながらもついて行く。

「さっき執務室で書いてたやつ、明日が最終締め切りなんだよ!ーったく!!」

と、ジュリアス様の文句を言いながらも、手はつないだままだった。


================おしまい。==========

         

長らくの連載もここで大団円です。最後まで読んでいただいてありがとうございました。

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