おやくそく     


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月の曜日から金の曜日までの五日間、あっという間にすぎた。
これは、別に忙しかったわけではない。いつもの様に学芸館へ通い色々学び、女王試験へのアドヴァイスを受け、他の守護聖様方と挨拶を交わし育成をお願いして、部屋へ帰るだけ・・・ただ自分自身から何もしたくないし、何もされたくなかった。
いつもの決められた事をこなしていくだけの日々。

土の曜日には、少し元気になっていた。
聖獣の求めるサクリアもなかよしのマルセル様なので、育成をお願いするのも気が楽だし、部屋の中で出来る「お花の育て方」でも教えてもらおうと、少し前向きになり始めていた。
そして、明日こそは、彼に・・・ゼフェル様に逢えますように、今度こそ会って少しでも「おはなし」できますようにと、祈りながらベッドにもぐりこんだ。

翌朝、寝つきの悪かったわりに、目覚めが良かった。
これは、いい事があるかもしれない。どんな「いい事」に出会えるのか、想像する。
どんなに、想像をふくらまそうとしても、今の私には「いい事」はひとつしかなかった。
 
もう、日課となってしまった庭園の女王像へ「朝のご挨拶」。
そして、いつもの様に商人さんへ会いに行く、「今日こそはあるといいなぁー」と、思いながら。

・・・・今日ほど、女王陛下に感謝した日は、ないかもしれない。
商人さんから「<おいしい水>手に入ったでぇ!」と水の入った瓶を渡された。
一瞬、なんの事かわからなかった。それぐらい、待っていた物が手の中にある。

「ありがとうございます!!」

深々とおじぎをする私に、商人さんはアセッタ様子でしゃべりだす。

「わぁー!頭あげてぇーな!! お客さんの注文に従ったまでの事やし、えらい、待たせたしなもんでも、あるんやさかい。こっちが、お客さまに感謝せんなあかんのに。もう、アンジェちゃんには、かなわんなぁー。
よっしゃ!!おーぉ負けに負けて 25%OFFや!!」

商人さんは、そう言うと渡したお金の中から、きっちり25%OFF分のお金を返してくれた。
再びお礼をいい、<おいしい水>を受け取ると急いで次の目的地へ向かう。
「いい事」に当たった喜び分 歩く足が軽かった。
このまま、「いい事」が続けばいいなぁとも思いながら。

次の目的地である、ゼフェル様の執務室。
いつもより、少し時間が過ぎてしまったので、もしかしたら・・・いないかもしれない。
扉にかけられたプレート。

金色の小さい天使の羽に、銀の鎖がひっかけてある、そして、それに対抗すかのように、銀色の大きな天使の羽に「在室中」とあった。
他の守護聖様たちの扉のプレートは、同じ金色の天使で、大きさだけが違う。

だけど、この扉にかけられた天使の羽は「鋼の守護聖」であるのを強調するかのように、素材から違っていた。

扉をノックする。

「どぉーぞ。」

ゼフェル様の全然「どうぞ。」じゃない声がかえってきた。

「しつれい、しまーす。」

私の全然「失礼。」と、思っていない声が部屋中に響いた。

銀色の髪の守護聖様は、大きな机に向かい何か書き物をしていた。
私と同世代に見えるのに、仕事をしている彼の姿は、いつも大人びて見える。
そのギャップの激しさに、惹かれていく。
逢うほどに、知れば知っただけ・・・自分の中の欲求は満たされることなく。
彼の心を、私だけのモノにすることができたなら 欲求は満たされ 、私の心に住む紅いドラゴンを飼い慣らす事ができるのだろうか・・・。


「おめー、用があんなら早く言え! ねーなら帰れ!!」

いつにもましてイライラしている、彼の声にドキッとする。
身体いっぱい仕事がキライだぁ!!って感じは、いつもと変わらずである。
そんなのお構いなしに、私は<おいしい水>を彼の目の前に差し出した。

「こりゃぁ・・・前に話したヤツじゃねーか!くれんのか俺に?」
「はい!どうぞ、もらってください!」

ゼフェル様は、うれしそうな表情をしたので、私もつられて同じ顔になった。

「サンキューなっ。」

でも、お礼の言葉とは反対に、ゼフェル様の表情がすぐにきつくなる。
空の端に重そうな雲が見えはじめた時の様に、胸の辺りに不安が降りてくる。
私は、それを掃うかのように、言葉を探した。

「よろしかったら、外へでも行きませんか?」

せいいっぱいの笑顔をつけるが、返ってきた答えは、「NO」だった。

====================つづく============

   

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