おやくそく    


  2


「なんだぁー。クラヴィス様だったんですかぁー。」

ため息と一緒にこぼれでる言葉、そして涙のあと。

クラヴィス様とは、他の守護聖様たちとは何か違う親しみがあった。
それは、マルセル様やランディ様と同じ様に話せる親しみではなく、だまっていても気を使わなくていいような「闇のサクリア」と同じ、「安らぎ」をいつも感じさせるものだった。
だから、人のそばにいたいけど、静かに過ごしていたいだけで、ゼフェル様にも会いたくない時などに、よくクラヴィス様の執務室にお邪魔していた。
クラヴィス様も私にある種の親しみを感じて下さっているらしく、よくどこかへと誘って下さるのだった。

「どうしたのだ?」

クラヴィス様は少しだけ心配そうに聞いてくれた。

私はどう説明したらいいのか考えながら、とりあえず「なんとなく・・・。」とだけ言った。
それだけ聞くと「そうか・・・。」と言い、そのたった一言からクラヴィス様の闇に隠れた「安らぎ」が感じられた。

「こんばんは、クラヴィス様。」

私はできるだけの笑顔で言う。
クラヴィス様は少しだけ口元に笑みをうかべ、今夜は月がとても奇麗なので一緒に月見でもどうかと、誘いに来てくれたのだと言った。

以前、私がお月様が大好きと言ったことを覚えていてくれたようだ。

私は手短に身仕度をすませ、ふたりで庭園へとむかった。

昼間の庭園とは違い静かで、すべてが「闇」と「月の光の色」で覆われていた。

「月の光は、闇でも・・つかまえることができないんねぇー。すごいですねぇー。」

と、言うとクラヴィス様は、いつもと同じ少しだけの笑みをうかべた。

「月の光は元々、太陽の光なのだから覆いつくせないはずだ。 昼と夜が一緒になれないように・・・・・・・。」

そう言った横顔はいつもより淋しげにみえた。

私は、「昼」と「夜」が一緒になるジュモンをとなえるかのように、ただ・・・・「そうですね。」と、言った。

上を見ると闇色の中に、蒼白く光る月があった。
雲は風に流され、月の光を受ける様は、天の波のようだった。
そして、夜空のすべては「月の真珠」を守っているようにも見えた。

< 聖地書 詩編>の聖句を思いだした。


「光と共に闇は消え、月と共に天にあらわる。」

クラヴィス様も同じ聖句をささやいた。
見下ろす瞳は優しく笑っていた。
私もクラヴィス様を見上げる。
なぜ、この方に親しみを感じてしまうのか解った気がした。

そして 私たちは、美しい月の光を浴び続けた。

====================つづく============

   

絵馬の杜に戻る