30:And that's all...?
初冬。質実剛健の名の下に、よほど気温が低くないと暖房が入らない桜咲学園だが、今年は暖房いらずという感じだ。暖冬気味なのもあるが、3年に一度の合同ダンスパーティーに向けた生徒達の熱気がすさまじいのだ。
梅田北斗が学園に奉職して10年、年々醒めた生徒が増えてきたような気がしていたが、認識不足だったようだ。
毎回、ダンスの練習が始まった頃には捻挫や肉離れの生徒がやってくる。本番に踊れないなんてことになったら大変だというので、特に脅しをかけなくても注意事項をよく守る模範的な患者ばかりなのが面白い。
年月とともによけいな風格が備わってしまったのか、彼がいつも言うように「ボンクラな生徒どもにもようやくにじみ出る人徳が理解できるようになった」のか、ここに来た当初と違い、彼をむやみに怖がる生徒はあまりいない。それどころか、保健室で雑談しようとする生徒もあまり数は多くないものの存在するのだ。生徒と馴れ合わないという基本的スタンスではあるが、来る者は拒まないのがこの仕事だ。
今日も1年生が3人も連れだってやってきた。足の調子が思わしくない二人と、保健委員とだ。処置が終わる頃、1人がおそるおそる聞く。
「先生はうちの卒業生ですよね」
「ああ」
「じゃあ、ダンパのあの噂本当なんですか?ベストカップルの二人は必ず結ばれるとか言う」
「確かにオレのいた頃からその伝説はあったな」
すげー、本当なのかよ!と口々に小さく叫ぶのが面白くて、北斗は付け加える。
「ちなみにうちの両親も元ベストカップルだぜ」
うおお、と叫ぶ者、ため息をつく者。
「オレの出たダンパでの二人がどうなったかは知らないけどな」
なんだ、やっぱり百発百中じゃないのか、なんて当たり前のことをまじめな顔で言うのが高校生という感じだ。
「ああ、でも、そういえば、3回前のダンパのベストカップルは2組とも結婚しちまったぜ、たしか」
「2組?」
一同首をひねる。それまで比較的おとなしかった保健委員は何か知っているようだ。
「オレ兄ちゃんに聞いた。3回前の時って、ブロッサムの子が足りなくて、桜咲の生徒が何人か女装したって。
で、女装組の中でどう見ても美男美少女ですってカップルがあって、ベストカップル特別賞になったって」
「そうか、ベストカップルって一組とは限らないのか…」
「でもそんなの記録に残ってないよな、この前調べたとき」
「え、ちょっと待て、女装組がなんで結婚?」興奮気味だった3人は急に黙る。
ようやくこの話の一番面白いところにたどり着いたようだ、と北斗は思う。3人は少し上目遣いに彼を見つめて、話の詳細を待つ。
「記録にないのはな、片っぽの生徒の痕跡が学園の記録からすっかり消されたからだ。本人の希望でな。」
「どういうことですか?」
「特別賞のあと、その生徒は学園を去った。そして、外国で新しい人生をはじめた。残りの1人は、卒業後そいつを追っかけてやっぱり外国に。で、確か大学出た直後に結婚したんだったかな。」
もう何度か繰り返した説明をする。この話のポイントは、ウソは全くないのだが肝心の部分が語られていないために実態と遙かにかけ離れた想像を呼び起こすところだ。実際、「外国」というキーワードに騙された生徒達は、ゲイカップルの結婚が認められている国、と勝手な脳内変換を起こしているようだ。だからもちろん、その後の二人の間に生まれた子供達のことなど教えてやらないのだ。
「それで、それからどうなったんですか?話はそれでおしまい?」
やっぱりまたこの質問が飛んだ。梅田北斗は例によってわざとため息をついて答えるのだ。
「馬鹿野郎、そっからがスタートで、今も伝説とやらは続いているんだよ。あの二人には。」