物書きさんに20のお題・黄
06:「小さくなった鉛筆」
小さくなりすぎて使えなくなった鉛筆が机の引き出しに溜まってきた。
この鉛筆は例の学園祭の賞品だった分。みんなが要らないっていうから「じゃ、おれ貰おっと」というとたくさん集まってしまったという過去を持つ。
もちろん佐野もくれた。
実は佐野からもらった分はもったいなくてまだ使っていない。だってアレは別格。宝物だ。
いい加減捨てなくちゃ、と大量のちびた鉛筆の入ったポリ袋を持って、どう分別するのか、燃えるゴミでいいかな、とゴミ捨て場でちょっとぐずぐずしていたら、中央が通りかかった。
袋の中味を一瞥するが早いか「これ一本くれる?」とすごい勢いで聞くので、頷くと、実に嬉しそうにかつ慎重に袋の中をあさる。
「これがいいかな」と、一番短い一本を取り出す。
「それ何かに使うの?」
「秘密…って言いたいところだけど、芦屋だから教えるね。おまじないに使うんだよ。芦屋もやってみなよ」
「おまじない?」
「そ。恋が叶う」
こういう女の子じみたことが中央は本当に好きだ。もちろんおれも嫌いではない。いや正直言って大好きだ。
あんまり女の子っぽい事をするとまわりに不審がられそうなので来た頃はずいぶん気を遣ったけれど、中央がいるおかげでうっかり乙女な行動をしてしまっても見とがめられないのは本当にありがたい。
「え、それってどうするの」
「何パターンかあるんだ。これから試そうと思うのは、全体に色を塗っていつも持っておくっていうんだけれど…先輩の好きな色にいまいち自信がないのが難点かなー」
斜め上を見上げる中央のかわいらしいこと!親衛隊があったのも(そういや最近見ないな)うなずけるな。
「それぐらいのことなら直接聞けば?おれ代理で聞こうか?」
「前半は恥ずかしいし後半はなんだか腹立たしいから却下希望。芦屋、親切は嬉しいけど、よけいなこと、しないでよね」
「ごめん、でもなんか予想外の反応だった。…このところ中央って先輩のこと全然隠してないし、いろんな意味で平気なんだと思ってた」
「平気なんじゃなくて、なりふり構ってられる余裕が無くなったんだよ」と急に真面目な顔で言う。
「?」
「主に時間的な意味で、って言ったらわかってくれる?」
おれは黙って頷いた。
ついつい忘れてしまうけれど、とりあえず好きな人と一緒の空間にいられるこの毎日は有限で、しかも案外早く終わりはやってくると今更思い知らされる。中央の状況に立った時おれはどうするのか。それは仮定ではなくて過程としてあるらしきことなのだ。
「それじゃなおさら、中央、これ全部持っていったら?で、いろんな色に塗ったらどう。きっと当たりもある」
「うーん、正直そこまでって言う気持ちとこの際突っ走れという気持ちとがせめぎ合うなー」
「それに他のおまじないが何パターンあってもある程度対応できそうじゃない、30本ぐらいあるし。どーせ今捨てようとしてたんだし」
しばらく鉛筆を眺めていた中央は突然肩をふるわせて笑い出し、袋を掴む。
「わかった。ベストを尽くすよ。これは全部持ってく。なんて地球に優しいぼく達」
おれもおどけた調子で言ってみる。
「時代の最先端?」
「周回遅れの可能性の方がずっと高いけど」
顔を見合わせてひとしきり笑ったあと、何種類かのおまじないを教えてもらった。
「一本の鉛筆をずっと好きな人の名前しか書かないで使い切るっていうのもあるよ」
これがとっても気になるので、佐野にもらった5本のうちの一つで試してみたい。
ああ、それにしても、鉛筆一本で何回書けるんだろう。
専用のノートでも作ろうか。そうしたら、小さくなった鉛筆が残る頃には、何ページもびっしり、一面に「佐野泉」。
想像するだけでくらくらする。…途方もないエネルギーを感じるのは確かだ。
まだ試してもいないのに、どきどきして来た。
「それがどーした」な話になってしまった…つーか、もはや「お話」といえない。でも中央くんを書くのは楽しかった。(ちるだ)