物書きさんに20のお題・黄

01:「45点


少なくとも高校に入ってそんな点を取ったことはなかったので、答案を返された佐野はしばらく固まっていた。
45点。
横から覗いた中津は「あーさすが佐野は結構ええセンいっとるやん」と、15点の答案をひらひらさせて言う。
イヤ、それは申し訳ないが比べる対象がアレなわけで。
…とりあえずこれが単元テストで良かった、定期考査じゃなくて、と佐野は思う。

公言していないので、佐野が学力面での特待生だということを知るものはほとんどいない。
なのでこの成績に彼がどんなに危機感を抱いているのか周囲に理解できないのは無理もない。
特待生の地位の判定は年間トータルの席次によるので、ほかの科目や次回以降の試験など、挽回の機会はもちろん多い。しかし、挽回できる気がしない、というのが今回の最大の問題点なのだ。

なぜなら原因は佐野がもはや個室住みではないと言うことだからだ。
多分教師たちも早晩そのことに気づくだろう。
そしてきっとこう言うのだ。「大丈夫、じきに慣れる」
否。この状況に慣れるなんてことはない。少なくとも佐野には考えられない。



部屋では事態の元凶が能天気に話しかける。
「いやーまいっちゃった。数学のテストなんて万国共通だと思ってたけど、違うね。
日本語不慣れなせいか答え方迷うし。」
と、27点の答案を掲げる。このオープンでフランクなのはいわゆる米国流ってやつか。
どう反応すればよいのかわからずに佐野は曖昧な返事だけして机に向かい、勉強するふりをして考え続ける。

気にしないように、と自分に言い聞かせ続けているものの、同室の人間が居るというだけでかなりペースは乱される。ましてやその相手がどういう訳か女で、しかも向こうからあの手この手でまとわりついてくるのだ。
そして自分はそれを無視しきれない。女だから、という部分は案外影響は小さい。もう一度跳ぶという提案に、同意できないまでも正直大きく心を揺さぶられているのだ。

しかし、このまま成績不振一直線となるといろいろまずい。
例えば、部屋替えとか。だが、そうなると芦屋はどうなる。新しいルームメイトにもきっと秘密を露呈してしまうに違いない。そうなると、自分もそれを黙っていたかどで追及される可能性がある。相手によっては芦屋がどんな目に遭うかもわからない。直接ではないとはいえ自分が原因で誰かが悲惨な状況に陥るのはゴメンだ。少なくとも夢見が良くない。ならばやっぱり成績を落とすわけにはいかないのだ。桜咲に気持ちよく居続けたいなら。
…全然考えた甲斐のない結論が出てしまって、佐野はため息をついた。心配げな視線が背中に刺さるが、無視した。



2日後、思いきり落胆した表情の数学教師が言った。
「オマエら、出来悪すぎ。学年平均20点台ってどういうことだよ。予定変更してあの単元の授業、もう2時間するから。LHR2時間分各担任からもらったからそのつもりで。前返した単元テストの点は、10√Xに換算して評定することにするから。ちゃんと計算できるな?36点が60になって、25点あったヤツは50だぞ」「つーわけで40点、じゃなくて16点未満だったヤツには楽しい課題セット詰め合わせが終礼の時に届くから」
涙目で佐野のシャツの裾を引っ張る中津に「ガンバレ」とだけ言った佐野は、この分だとなんとか特待生の地位は維持できるかもしれないと、根拠のない安堵を覚えるのだった。

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