レッツ!肝試し!(1)      by  AIRさま


「ったく!本気でむかついたぜ!」


鋼の守護聖、ゼフェルはジュリアスの執務室の扉を
乱暴に閉めた。


「でもさ、ジュリアス様の愛馬に向かって、
リモコン飛行機飛ばす、ゼフェルが悪いと思うよ。
たまたま傍にいた僕達まで怒られて大迷惑だよ。」


緑の守護聖マルセルはジト目でゼフェルを見た。


「そうだ、俺達は、馬が来るから気をつけて!
ってちゃんと忠告したのに、
それを聞かないゼフェルが悪い。」


風の守護聖ランディもジト目でゼフェルを見る。


二人から冷たい視線を送られ、
ゼフェルは更にムッと顔をしかめた。


「そんな事言ったって、馬だぜ!
あれ位のスピードの飛行機、避けられるだろ?」


「でも、結局避けられなくて、
よりにもよってジュリアス様の愛馬に、
怪我させたんだよねー・・。」


マルセルに事実を並べられ、
ゼフェルはグッと言葉を詰まらせる。


「でも、ちょっと納得いかなかったな・・
だって、俺とマルセルはただ傍にいただけなんだよ。
それなのに、連帯責任で怒られるなんて・・。」


ランディは、不機嫌そうに口を尖らせた。


「へぇ〜良い子のランディも、
ジュリアスにむかっ腹立ってんだ?」


ゼフェルはニヤリと笑った。


「むかっ腹って程じゃないけど・・
ちょっと納得いかないなって・・。」


ゼフェルはランディの肩をがしっと掴んだ。


「よし!じゃあ、ちょっとジュリアスに、
『報復』してやろうぜ。」


「「はぁ?!」」


ゼフェルの突然の言葉に、
マルセルとランディは同時に声をあげた。


「まぁ・・そんな酷い事するわけじゃねーよ。
俺達がやったってわかんねー位の、
悪戯レベルの報復・・どうだ?乗らねーか?」


「いや・・でもさ・・なぁ、マルセル。」


「うん・・そんなに僕は怒ってないし・・。」


ランディもマルセルも2、3歩後ずさった。


「なんだよ!根性ねーなー!
いっつもジュリアスに叱られて、
今回なんておめー達は悪くないのに叱られて、
ちょっとも仕返ししてーとか思わないのかよ!」


「・・・ゼフェルのせいで叱られたんだけどね・・。」


マルセルの鋭いつっこみも無視して、
ゼフェルは、更に言葉を続ける。


「ちょっと驚かせるくれーの事だし、
おめーらの協力が必要なんだよ。
な!協力しろよ!」


マルセルとランディは顔を見合わせて、
大きく溜息を吐いた。


「やめろって言っても、やるんだろ?
だったら、ゼフェルが暴走しないように、
お目付け役で手伝うよ。」


「右に同じく。」


「よっし!決まり!
早速計画図を書いてくるな。
決行は次の日の曜日!
へへっ・・打倒!ジュリアス!!」



こうして、
ゼフェル発案、
『たまには、ジュリアスに報復を!作戦』が
決行されるのだった。




***************************************




日の曜日 ―ゼフェル私邸―




「良いか、ちゃんと手はず通りにやれよ・・。」


ゼフェルは小声で囁くと、
計画図を叩いた。


「マルセルは、クラヴィスを館から引き離す。
ランディは俺と一緒にセッティング。」


マルセルは憂鬱そうな表情で計画図を見つめた。


「ねぇ・・本当に成功するの?
なんかいつの間にか大げさになってない?」


「大丈夫だって!
俺が考えた計画だぜ!成功間違い無し!」


「・・・・・そうかなぁ・・・・はぁ・・」


ランディは深い溜息を吐いて、
計画図をもう一度読んだ。


(以下、ゼフェル考案計画図内容)




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『暗闇でどっきり!
ジュリアスのうろたえる姿を見よう!作戦』



場所 クラヴィス私邸(暗闇どっきり!にぴったりだから)
日時 日の曜日 朝方から決行


作戦手順


1・クラヴィスを私邸から引き離す。
  (適当な理由をつける。(マルセル担当))

2・クラヴィスの私邸に潜りこんで、
  用意したロボや小道具をセッティングする。
  (俺とランディ担当)

3・偽の手紙でジュリアスをクラヴィス私邸に
  呼び出し、どっきり作戦決行!


(この後、作戦について、
事細かに書かれているが、きりがないので割愛)




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「景気の悪い溜息吐いてんじゃねーよ!
とにかく、早速はじめっぞ!」


ゼフェルは俄然やる気で、
工具やらロボやらが詰まっている大きな袋を
エアーバイクに乗せた。


「んじゃ、マルセル。
クラヴィスの館を使うんだから、
ちゃんとヤツをどっかやっとけよ!」


「それが、一番難しそうなんだけどなぁ・・。」


マルセルは重い足取りで、
ゼフェルの私邸を出ると、クラヴィス邸へと
向かうのだった。




*****************************




クラヴィスの私邸に辿り着いたマルセルは、
「クラヴィス様に会いたいんです!」
という執事も首を傾げる理解不能な理由で、
館の中に入った。


(うっわぁ・・・
ゼフェルが何かしなくても、
十分怖いや・・・。)


マルセルはクラヴィスの館の暗さ、
不気味さに身震いした。


そして、執事に案内されて、館の一番奥。
クラヴィスがいる部屋に通される。


「・・・・マルセルか・・何のようだ?」


暗闇の中で、クラヴィスはぬぼっと座っていた。


「あ・・えと・・・
実は、一緒にお散歩でもしようかと思って・・。」


重苦しい沈黙・・5分。


「・・・・・・・・・・フッ・・・
何を企んでいる・・・。」


(・・早速ばれてるし・・。)


マルセルの背中を冷たい汗が伝う。


「企んでないですよ〜。
たまには、クラヴィス様と出掛けるのも良いかなぁって。」


クラヴィスは、ふーっと深い溜息を吐いた。


「・・私はこれから寝る時間なのだがな・・。」


「そ、そこをなんとか!!」


マルセルは目を閉じ、手を組んで、
祈りのポーズをクラヴィスに捧げた。


「・・・・・・・・。」


「お願いします!!
(じゃないと、ゼフェルに怒られちゃう!)」


「・・・仕方無い・・。」


クラヴィスは椅子から立ち上がると、
「いくぞ・・・。」と呟いた。


マルセルは、ホッと胸をなでおろし、
これからどうやって時間を稼ごうか、
今度はその事で頭を悩ませるのだった。




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「よし、行ったみたいだぜ。」


クラヴィスの私邸傍の茂みから、
様子を窺っていたゼフェルは、
背後であくびをしているランディに合図した。


「ふわぁ・・・朝早かったから眠いよ・・
俺はセッティングを手伝ったら帰るからな。」


「何言ってんだよ!その後のロボのスイッチ入れたり、
仕掛けを動かしたり、クラヴィスが帰る前に、
セッティングした物を回収しなきゃいけないだろっ!」


ランディは、げっと声をあげた。


「本気?ゼフェル!そこまで手伝わせるの?」


「本気でマジ。おらっ!それ持って行くぞ!」


エアーバイクに載せて来た、道具を持ち、
二人はいざ、クラヴィス私邸へ!




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クラヴィス私邸 ―廊下―




ガチャガチャ・・




ヘッドランプを点けて、
パーツを組み立てながら、
ゼフェルは楽しそうに笑った。


「へへ。もう少しで終わりだな。
そっちはどうだ?」


「こっちは終わったよ・・暗いから苦労したよ。
それにしても、館にこんな装置を取り付けて、
館の人は何も言わないのかな・・。」


「あ?大丈夫だって!
ここの奴らには、『クラヴィスに頼まれて、
館をカスタマイズしに来た。
工事が終わるまで、暫らく外にいてくれ。』
って言っておいたからよ。」


ランディはくらりと眩暈を起した。


「館をカスタマイズって・・
それ・・皆信じたの?」


「ちょっと訝しげだったけどな・・
けど、お偉い守護聖様の言う事だから、
皆信じて、いなくなったぜ。」


「あ・・そう・・。」


ランディは、自分の館の人間には、
ゼフェルの言う事だけは信用するなと、
忠告しておこうと心に決めるのだった。


「よしよし・・
あとは、これを指定の場所に取り付けて・・
そろそろ手紙がジュリアスの所に届く頃だな・・。」


「本当に手紙だけでジュリアス様がここに来るの?」


ランディの疑問はもっともだった。
なにせ、ここはジュリアスの天敵。
クラヴィスの私邸なのである。
よっぽどの事がない限り、
この場所に足を踏み入れるとは思えなかった。


「あぁ・・ヤツは絶対来るぜ!断言しても良いな!」


「はぁ・・・。」


「手紙を見たら、
マッハで来ると思うからな・・。急ぐぞ!」


ゼフェルは、ランディはクラヴィスの私邸を駆け巡り、
ジュリアスを迎える準備を終えるのだった。




**************************




その頃・・・・



「えっと・・クラヴィス様。
こちらに、湖があるんですよ。」


「・・・知っている。」


「・・・・あ、こっちには鳥達の憩いの場が・・。」


「・・・・・・知っている・・・。」


(もう限界だよーーーっ!!)


マルセルはクラヴィスとの会話に限界を感じていた。


「マルセル・・・楽しいか?」


(・・・・・・・楽しいわけない・・。)


ずばりな事を聞かれ、
マルセルは、引きつった笑みを浮かべる。


「え・・えぇ・・勿論です。」


「そうか・・だが、私は疲れた・・・
館に帰る・・・。」


「げっ!だ、駄目です!!」


マルセルは踵を返したクラヴィスの腕を、
ガッシと掴んだ。


「・・・・・・・何故、帰ってはいけない・・。」


クラヴィスは眠い・・と不機嫌そうな顔で、
マルセルを見下ろす。


「え・・えと・・・。それは・・。」


しどろもどろになるマルセルに、
クラヴィスは僅かに微笑んだ(黒い笑み)。


「お前も・・少し休め・・。」



揺らめく闇のサクリア。



気づけば・・



マルセルは地面の上で、
すやすやと安らかな寝息を立て、
眠っていた。




*****************************






「クーーーーラーーーーヴィーーーースーーー!!!」




パカランパカランパカラン!!




愛馬を超高速ダッシュさせ、
光の守護聖ジュリアスが、
クラヴィス邸へと向かっていた。




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ




という雷も真っ青なBGM付きである。


ジュリアスは、クラヴィス邸にたどり着くと、
馬を下りて、荒く扉を叩いた。



ドカドカドカドカ!!
(↑ノックというよりも、殴っている音に近い)



「クーーラーーヴィーーースゥゥゥ!!
この私に喧嘩を売るとは良い度胸だっ!!出て来い!!」



ドカドカドカドカ!!



「この手紙は何なのだ!

『守護聖対抗
「ジュリアスものまね大会」
1位優勝者にはもれなく一ヶ月休暇を
ジュリアスによりプレゼント!

場所 クラヴィス私邸
日時 今日の今から
主催 闇の守護聖クラヴィス』

・・・とはどういう事だ!
私は、このような馬鹿な催しを許可した覚えも無ければ、
一ヶ月の休暇など言語道断!
今すぐこれについて説明ををせよ!!」



ゼーゼーゼーゼーゼーゼー
(↑叫びすぎで息が苦しくなってます)



ジュリアスがもう一度「クラヴィス!」
と叫んだ瞬間、ギギギと音を立てて、
クラヴィス邸の入口扉が開いた。


ジュリアスは怒り心頭で、
足音荒く、屋敷の中に入るのだった。




******************************




ちょうどその頃、
屋敷の主、クラヴィスが帰ってきた。



「・・・・・・・・・この馬は・・。」



館の前につながれている、
白い馬をちらりと見て、
クラヴィスは大きく溜息を吐いた。


「あれが来ているのか・・・。」


一瞬、リュミエールの館にでも避難しようかと
考えたクラヴィスだったが、
放っておけば自分を地の果てでも追いかけて来そうな、
予感を感じて、憂鬱な顔をして、扉に手をかけた。




******************************




「む・・・何も見えぬ・・。」


扉が閉まると同時に、
エントランスの明かりが全て消えた。


ジュリアスは、照明の故障か?
と冷静に待つが、光りは一向に戻らない。


「誰かいないのか!」


執事や使用人の気配もなく、
真っ暗闇の中でジュリアスはむぅと唸った。


(これは、明らかにクラヴィスの嫌がらせだな。)


ビシッと大きく怒り筋を浮かべた瞬間。


自分の背後から光が射した。


振り返れば、怒りの元凶、クラヴィスが、
扉を開けて立っていた。


「・・・ジュリアス何用だ・・・
・・・・ん?・・・誰もいないのか・・?」


クラヴィスは館の静けさに、
訝しげに眉をひそめた。


とりあえず、扉を締めて、
小さな紫の火の玉を掌から浮かび上がらせた。
(1のクラヴィス様が持っている火の玉(笑))


「クラヴィス!!
そなた・・どこにいた・・
この私をこのような形で愚弄するとは!!
そこになおれ!!私が成敗して、
宇宙の塵と化して・・・・・。」


手紙を振りかざし、
怒鳴るジュリアスの言葉が止まる。


クラヴィスは自分の背後に気配を感じて、
ちらりと視線を後ろに向けた。


そこには、
逆さ釣りになり、血を垂れ流す、
恐ろしい形相の男が恨みがましい目で、
二人を睨んでいた。


「な!!・・・・その男は・・!!
・・・・クラヴィス!!
そなた・・ついにこの館で死人を!!!」
(↑ついにって・・ジュリアス様・・汗)


ジュリアスは慌てて男に駆け寄る。


「まだ息はあるか?
ぬ・・このように冷たい体を・・
そなた!この男に何の恨みがあり、
このような事に・・。」
(↑クラヴィス様を殺人犯扱いですか・・
ジュリアス様・・汗)


「よく出来ているが・・・・人形だ・・・。」


クラヴィスは、
逆さ釣りの男をちょんと指差した。


コロン


硝子の目玉が音を立てて落ちた。


「・・・人形・・?
そなた、このような物を飾る趣味があったのか?」


ジュリアスは「悪趣味な」と呟いた。


「・・・誰かが私の屋敷に細工をしたらしいな・・
それを見せてみろ。」


クラヴィスは火の玉を頭上に翳すと、
ジュリアスの持っていた手紙を読んだ。


「・・・成る程な・・・
ジュリアス、どうやら嵌められたようだ・・フッ・・
私はこのような手紙を出した覚えは無い。」


「何!」


「この手紙はお前をここに誘い出す為の罠だな・・
そして、お前を罠にしかける場所に・・・
どうやら私の館が選ばれたようだ・・・。」


クラヴィスはポイッと手紙を捨てた。


「・・・・そなたではなければ、
一体誰がこのような事を・・・。」


ジュリアスに新たな怒りがふつふつと湧いてくる。


そんなジュリアスの肩を、クラヴィスはポンと叩いた。


「・・・では・・・・しっかり罠にはまると良い・・
私はこれから・・寝るのでな・・・。」


口の端を上げて笑うと、
クラヴィスはズルズルと衣を引きずり、
廊下を歩き出した。


「待て!クラヴィス!!」


ジュリアスはクラヴィスの服を引っ張った。


「元はと言えば、そなたの日頃の行いの悪さ、
そして、そのような者に利用される館の警備の緩さが
問題だと思わぬのか!
大体、この後、どのような仕掛けが施してあるのか、
分からぬのだぞ!それをそなたは、考えもなしにっっ
・・・どわっ!!!」


くどくどと説教を始めたジュリアスの首筋に、
冷たい物が触れた。
そして、それは前後左右からジュリアスに襲い掛かる。



「ぬわぁぁぁぁぁぁぁ!!」



冷たいぶよぶよした感触が、
ジュリアスの肌に触れる。


「何事だ!この気持ちの悪い感触は!!」


自分に襲い掛かる何かを、
ジュリアスは怒りに任せて掴んだ。




見れば、糸で吊られたコンニャクだった。




・・・・・・・暫し沈黙・・・・・・・



「・・・・・コンニャクだな・・。」



「見れば分かる!!」



ぶちり!べしっ!!



ジュリアスは、コンニャクを糸から切り離し、
壁に投げつけた。



「・・・・クラヴィス・・・
このような事で私を罠に嵌めようとする
馬鹿者を即刻探し出し・・・天誅を下す・・
ここはそなたの屋敷だ!!そなたも手伝え!」



ギラリ!



視線だけで息の根を止められそうな勢いの
ジュリアス。


クラヴィスは、やれやれと溜息を吐くと、
仕方なく頷くのだった。



(2話目へ続く・・・)

宝物殿へ