アンジェポンタン企画
守護聖様たちの9人制バレー


番外編2・ロザリアの苦悩

○占いの館(朝)

 思いつめた顔でやってくるロザリア。
ロザリア 「サラさーん! サラさーん! どうしたのかしら、時間はとっくに過ぎているっていうのに…」
 しばらく立ちすくんでいるが、あきらめたように去っていくロザリア。
 それを確かめて、カーテンの裏から出て来るサラとアンジェリーク。
アンジェリーク 「こんなことしていいんですか? サラさん」
サラ 「職務怠慢と言われようが何と言われようが、ロザリアとクラヴィス様のラブラブフラッシュはもうごめんよ。だってロザリアが痛々しすぎるもの…」
アンジェリーク 「私も、クラヴィス様の心がどうしてあんなにかたくなに閉じていらっしゃるのか不思議に思って、一度オリヴィエ様にお聞きしたことがあります」
サラ 「彼、何て?」
アンジェリーク 「いつもの調子で『さあねェ』でおしまいでした」
サラ 「でしょうね。誰でも触れられたくない傷の一つや二つ、持っているものだわ。クラヴィス様御自身が語られない限り、私達は何も言えないわよ…」
アンジェリーク 「…ロザリア、またやせたんじゃないかしら…」

 ◯森の湖(朝)

 滝のそばでひとりたたずむロザリア。
 手にはクラヴィスのユニフォームを握りしめている。
        × × ×
クラヴィス 「…私のユニフォームにはあろうことかシミがついていた」
  × × ×
 また悔し涙があふれ出す。
ロザリア

「徹夜して”みかん色のリボン”のトゥールペイントを仕上げたのに、『シミ』だなんて…。アンジェリークはリボンの力でオリヴィエ様と日に日にラブラブになっていってるっていうのに、どうして私だけがこんな目に合うのかしら。クラヴィス様が憎い。なのにこんなに会いたいなんて」
 と、人の気配を感じて振向く。
 やってきたのはゼフェルである。
ロザリア 「ゼフェル様だったんですか…」
ゼフェル 「はいはい、お呼びじゃない奴で悪かったなー」
ロザリア 「そんなこと言ってやしませんわ」
ゼフェル 「顔に出てるっつーの。おや?」
 と、ロザリアの指先の数々のばんそうこうに気がつく。
ゼフェル 「ケガしてんのか、おめー」
ロザリア 「これは…皆様のユニフォームを作ってさし上げていた時に、ミシンの針がちょっと…」
ゼフェル

「だっせ! はっきし言っておめー、不器用だかんな。だからフェリシアもいつまでたってもパッとしねーしよお。しょーがねーから今度『器用さ』をちっとばかり贈ってやるか?」
ロザリア 「余計なこと、なさらないで下さい」
 と、怒って行ってしまう。
ゼフェル 「なんだ? 逆ギレか? まあいいや。オレもゆっくり考えたくってここに来たんだ。邪魔者は消えてもらわなきゃな」

 ◯ルヴァの執務室

オリヴィエが目を丸くしている。
オリヴィエ 「正気なの!? ルヴァ。ゼフェルがキャプテンだなんて」
ルヴァ 「あー、これでも悩みに悩みぬいたんですよー。でも私は、最終的には神のお告げを信じることにしたのですよ」
オリヴィエ 「どこのへっぽこ神だい、そいつは…」
ルヴァ 「ただ…そのような大役を、あのゼフェルが引受けてくれるかどうか」
オリヴィエ 「ま、なるようにしかならないんじゃない?」

 ◯森の湖(夕)

 ほおづえをついて、ボーッと滝を見つめているゼフェル。
ゼフェル 「キャプテン、か…」
 と、人の気配を感じて振向く。
ロザリア 「ゼフェル様! あれからずっとここにいらしたの? 何かお悩みのことでもおありなのですか?」
  × × ×
月の光が二人を照らし出す。
ロザリア 「ゼフェル様にキャプテンを任せるとおっしゃったの? ルヴァ様が…」
ゼフェル 「何を企んでやがるのか、あのおっさんの頭の中、ちっともわかんねぇ。大体バレーに参加させられた時だって、うまくハメられちまったし」
ロザリア 「あら、どんな風にですの?」
ゼフェル 「確かオレがスカッシュをやり終えてきたとこを待ち伏せしてて…」

 ◯ゼフェルの執務室・前(回想)

ルヴァ 「いい汗をかいてきたようですね」
ゼフェル 「ウワッ!…」
ルヴァ 「ところであなたは確か『器用さ』を司る鋼の守護聖でしたねー」
ゼフェル 「ちっ今さら何寝ぼけたことを…」
ルヴァ
「ゼフェル! あなたはスカッシュよりももっと高度な器用さを要求される、バレーボールという競技を知っていますか?
この手の十本の指先一つ一つが、それぞれに役割を果たさなければ成立しないのです。あー、あなたこそぜひやるべきです!」

 ◯元の森の湖(夜)

ロザリア 「ルヴァ様らしい説得力ですわね、確かに」
ゼフェル 「あの時は強引すぎるほど強引だったのが、今回は違うんだよなー」
ロザリア 「ルヴァ様、何ておっしゃったの?」
ゼフェル 「決めるのはオレだって。イヤなら断っていいって、そう言ってた」
ロザリア 「だっせ!」
 ロザリアのひょう変ぶりにあわてるゼフェル。
ロザリア
「(ゼフェルにかまわず)はっきし言っておめー、人間関係、不器用だかんな。さっさと断っちまいな、キャプテンなんて」
ゼフェル 「ロザリア! てめー、満月で狼にでもなりやがったか!?」
ロザリア 「ホホホホ…、昼間の仕返しですわ、ゼフェル様。あー、すっきりした」
ゼフェル 「ロザリア…」

 ◯特別寮・前(夜)

 ロザリアがゼフェルに送られて来る。
ロザリア 「ありがとうございました」
ゼフェル 「おめーも一応女の子だかんな」
ロザリア 「おやすみなさい」
ゼフェル 「ああ。あっそうだ、オレ、キャプテン、やってやろうかって思ってる」
ロザリア 「それがよろしいわ。ゼフェル様、やっぱりやらないで後悔するよりも、やって後悔する方が、どれほどいいかわかりませんもの」
ゼフェル 「だよな。オレもそんな気がする。
 じゃあな!」
と、軽やかに去っていく。
ロザリア 「ゼフェルキャプテン、応援してあげないといけませんわね。だってどう考えても、ヒドイ目に合いそうですもの」
 と、優しげな微笑みで中に入る。

 突然闇の中から姿を現わすクラヴィス。
クラヴィス 「ロザリアよ。ようやく寄り添うがゆえの安らぎに気づいたようだな。この私が、唯一与えてやれぬ安らぎを」
クラヴィスの微笑みは、哀しいまでに孤独な闇にかき消されていく――

(おしまい)


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本編が完結したとき、すばるに、
「ロザりんもぜひ幸せにしてあげてね」とお願いして書いてもらったのがこの番外編パート2です。

ロザリアが一生懸命でとっても可愛い……いやあ、女の子はいいな♪
あの方の出番もちゃんとあるのが「愛」なのね、すばる!

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