2004年地様お誕生日企画
「バースデイ・スコール」(前編)


○聖地・ゼフェルの私邸

ガレージでエアバイクの整備をしているゼフェル。
ゼフェル 「(得意げに)細工は上々、夜空をひとっ飛びってか」
マルセルの声 「ゼフェルーー」
と、突然乱入してくると、息をゼーハーはずませているのだ。
マルセル 「よかった、間に合って」
ゼフェル 「なんだなんだ!? オレは今忙しいんだ。野暮用ならまたにしろ」
マルセル 「ぼく、ゼフェルにとっても大事なお願いがあって、一生懸命走ってきたんだよ(と、目をウルウル)」
ゼフェル 「(半ビビリで)このパターン、今までロクなことにはなってねーぜ…まあ、とりあえず聞くだけは聞いてやるぜ、その『大事なお願い』って奴を」
マルセル 「ありがとう! ぼくね、今日こそゼフェルに夜遊びに連れて行ってもらいたいの!」
ゼフェル 「なんだとお!?」
と、思わずエアバイクを倒してしまう。
マルセル 「アーッ、大切なバイクが!」
ゼフェル 「(エアバイクの下敷きになって)どっちの心配してんだよ、おめーは!!」

○青空

雲一つない青空が広がっている。

○聖地・ゼフェルの私邸

ロボットの執事がゼフェルのケガの手当てをしている。
マルセル 「ねぇ、今の話ちゃんと聞いてた?」
ゼフェル 「だから毎年7月12日には雨が必ず降るんだろ。で、花に水やらねーですむから、心おきなく夜遊びができるってか」
マルセル 「そうなの! そのことを知ってぼく、もうずっと前から7月12日が来るのを楽しみにしてたんだよ。だからお願い、ゼフェル」
ゼフェル
「(大きくため息を吐きつつ)ったくしょーがねーなー。連れてってやるよ。
 おめーもちっとは社会勉強って奴をしねーとな」
マルセル 「やったね!」
と、大喜びで執事相手に踊ったりなんぞしている。
ゼフェル 「ったく脳天気なガキだぜ。明日がなんで雨になるのか知りもしないでよ。なあ、ルヴァ…」

○同・王立図書館前

ロザリア補佐官が大きな袋を抱えて出てくる。
ルヴァ 「おやー、相変わらず勉強熱心ですね、ロザリア」
ロザリア 「ごきげんよう、ルヴァ。貴方こそ新着図書を御覧になるのでしょう?」
ルヴァ 「ええそのつもりですよ」
ロザリア 「(少し意地悪な瞳で)明日はきっと雨が降りますから読書日和ですわね」
ルヴァ 「(顔をくもらせ)…そうなんですかねー? ではまた」
と、逃げるように中へ入っていく。
ロザリア 「陛下も陛下ですわ。どうしてああ煮え切らない方がタイプなのかしら」
オリヴィエ 「(背後から現れ)あの煮え切らなさがルヴァのいいとこじゃなーい。物事を決めつけるって意外と残酷なんだよね。そうでしょ、ロザリア?」
と、大きな袋をサッと持ってやる。
ロザリア 「そうかもしれませんけれど…(と、なにげに腕をからませ)でも私は陛下にも幸せになってほしいの。貴方と私のように」
オリヴィエ 「そうだねぇ。『幸せ』って言葉にはまだ手が届かない感じだね、あの二人は。今年はちょっぴり手助けしちゃう?」
ロザリア 「ええ!」

○同・ルヴァの私邸(夜)

窓から星空を見上げているルヴァ。
ルヴァ 「あんなに星が瞬いているのに、明日になれば雨が降り暮らすのでしょうか…」
と、窓際に置いてある木製の揺り椅子に目を落とす。
アンジェリークの声 「私からのお誕生日プレゼントです、ルヴァ様」
ルヴァ 「あなたとの約束を守らない私がいけないのですかねー」

○飛空都市・ルヴァの執務室(ルヴァの回想)

汗びっしょりで駆け込んでくるアンジェリーク。
アンジェリーク 「ルヴァ様、ちょっと手伝って下さいませんか」
 × × ×
アンジェリークとルヴァが二人がかりでリボンのついた大きな箱を運び込んでいる。
ルヴァ 「ここまでよく一人で運んでこられましたねぇ、アンジェリーク…」
アンジェリーク 「腕っぷしには自信があったんですけど、力尽きちゃいましたあ〜」
ルヴァ 「この辺で下ろしましょうかねぇ」
と、部屋の中央に箱を置く。
ルヴァ 「で、何なんですか、これは?」
急にもじもじし始めるアンジェリーク。
アンジェリーク 「あの、まだ先だってことは知っているんですけど…でも…」
ルヴァ 「??」
アンジェリーク 「(ルヴァをまっすぐ見つめ)これ、私からのお誕生日プレゼントです、ルヴァ様」
あっけにとられているルヴァ。
アンジェリーク 「やっぱり笑っちゃいますよね。7月はまだ半年も向こうだし。でもね、この前アンティークのお店の前を通りかか ったら、『これって絶対ルヴァ様だ!』って思っちゃったんです」
ルヴァ 「(優しい笑顔で)開けてみてもかまいませんかねー?」
アンジェリーク 「はい、ぜひ!」
 × × ×
部屋の中央にある木製の揺り椅子。
少し揺らしてみたりするルヴァ。
ルヴァ 「あー、なんかこう、ほっとするような、素敵なプレゼントですね」
アンジェリーク 「本当ですか!?」
ルヴァ 「ええ。うれしいですよ。言葉にできないほどに」
アンジェリーク
「…ルヴァ様、どうか毎年7月12日にはこの椅子にすわって本を読んで下さい。そうできれば、ハッピーエンドになる物語を。私もどこにいても、その日はきっと本を読みますから。約束ですよ」
と、指切りの仕草をする。

○元のルヴァの私邸(夜)

揺り椅子の側で膝をつき、肘掛けに頭をもたせかけているルヴァ。
ルヴァ

「あの時、あなたの睫が震えていました。睫があんなに震えるものなのかと、初めて知りました。わかっていたんですよね。女王になる日が近いということが。ええ、私だってわかっていたはずです。だけど私は、私の心はそのことに振向けずにいたんです。そして、きっと今もまだ…」
やがて優しい雨音が聞こえ始める――。

○同(朝)

揺り椅子にもたれた状態のまま眠ってしまっているルヴァ。
窓の外はもう雨がかなりの勢いで降っている。
オリヴィエ 「おやおや。『人の夢』って顔して眠っちまってるよ。かわいそうなルヴァ」
と、ポケットからおもむろに鈴を出し鳴らし始める。
オリヴィエ 「ほらルヴァ、起きなよ。もう朝なんだからさ」
ゆっくりと目を覚ますルヴァ。
ルヴァ 「…オリヴィエ?どうかしました?」
オリヴィエ 「早くシャンとしなさいよ。この雨ん中わざわざあんたに『ハッピーバースデイ』言いに来てあげたんだから」
ハッと窓の外を見るルヴァ。
ルヴァ 「雨、なんですね…」
オリヴィエ 「陛下にも困ったもんだよ。年々雨がひどくなってやしない?」
 × × ×
テーブルの上に二人分のお茶とケーキが出されている。
オリヴィエ 「おめでとう、ルヴァ。雨のバースデイにカンパーイ☆」
と、カップを掲げる。
ルヴァ 「オリヴィエ…私には陛下の気持がまるでわかりません。知を司る地の守護聖失格ですね…」
オリヴィエ
「そーでもないんじゃなーい。ルヴァ言ってたじゃない。『地の守護聖は、無知ではいけないが、かといって全知であってもいけない』ってさ」
ルヴァ 「ええ、それは歴代の地の守護聖に戒められていることですけど」
ルヴァの目の前に1本の鍵を差出すオリヴィエ。
オリヴィエ
「わかんなきゃ、わかる努力してみたら? ソレ、私からのささやかなバースデイプレゼント。いやー、持つべきものは女王補佐官の恋人でもある親友ってね☆」
と、意味深なウィンク。
ルヴァ 「オリヴィエ…」

○同(昼)

雨がさらに激しさを増し、まるでスコールのように窓を叩く。
ルヴァ 「陛下、どうして…」
ルヴァの脳裏にフラッシュバックするアンジェリークの泣き顔。
鍵を鷲づかみにすると部屋を飛出していくルヴァ。

○聖地(昼)

豪雨の中を走り続けるルヴァ。

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*前編はやや切なめ、後編では一転ラブコメ化の予定ですだ。(すばる)

*いつになく甘く切ないムードのお話をどうコメディに持って行くのか?ううむ、みどころですな。(ちゃん太)

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