堕天使のメガネ(後編)


○湖・小舟の上(夜)

 眼鏡をかけているニーナとルヴァ少年。
ニーナ 「ルヴァ、ヤバイヨ」
ルヴァ少年 「はい?」
ニーナ 「見えすぎだよ、コレ。しかも目が合っちゃったよもう。エメラルド・フィッシュみたいな奴と」
ルヴァ少年 「エーーッ!?」
胸の前で両手を合わせて目を閉じ、余韻にひたっている様子のニーナ。
ルヴァ少年 「あの、ニーナ様…できましたら私にも見せていただけませんかねー」
片目だけ開けて、おもむろに眼鏡を外してルヴァ少年に渡すニーナ。
眼鏡をかけ湖をのぞき込むルヴァ少年。
ルヴァ少年 「???…うー、あのー、私にはただ暗いばかりで何も見えませんが」
ニーナ 「やっぱりね」
ルヴァ少年 「やっぱり?」
ニーナ 「うん、確か『メガネ美人にのみ特別効能アリ』って説明書に書いてあったっけ」
ルヴァ少年 「…(意気消沈)」
ニーナ
「大丈夫。アタシにはハッキリクッキリ見えてるんだから、ルヴァはアタシのいう目標に向って奴を釣り上げればいいのよ。体長はせいぜい50cmってとこ。やれるでしょ? ルヴァなら」
ルヴァ少年
「(元気を取戻して)はい、見事釣り上げてみせますよ。実は私にもあるんですよ〜、ジャカジャーン! とっておきの必勝アイテム!」
と、なんとターバンから何かを取出した。
ニーナ 「それは?」
ルヴァ少年 「私のルアーコレクションの中でも最も高価な、抹茶パフェルアーです!」
何とも珍妙な顔でルアーを見つめているニーナ。
ニーナ 「…まだいちごパフェの方がよくない?」
ルヴァ少年 「いいえ! このルアー、今だ負け知らずなんですよー、ふふふふ…」
 × × ×
湖じゅうに轟き渡るニーナの叫び声。
ニーナ 「ほら右! あっ左! もっと下にやって! いきすぎよ! ちょい上!」
ルヴァ少年 「あー、こんなに慌ただしい釣りは、生まれて初めてですねー」
だが口調とは裏腹に、釣りテクニックはかなりの素早さだ。
ニーナ 「やったわ! 抹茶パフェに興味をもったみたい。来る! チャンスよ! 食いついた!」
ルヴァ少年 「はあーい!」
と、渾身の力で釣り上げた!
キラキラとエメラルド色に輝く魚をうっとりと見上げる二人。

◯湖岸(夜) 

 桶の中で輝くエメラルド・フィッシュ。
 ルヴァ少年もまた瞳をキラキラ輝かせて見つめている。
ルヴァ少年 「ネオロマンティックですねー、うんうん」
ニーナ 「(腕まくりをして)さーて、お楽しみはこれからよ」
ルヴァ少年 「えっ? どういうことです?」
ニーナ 「ルヴァ、この魚がなんでこんなに光ってるかわかる?」
ルヴァ少年 「うー、何か理由があるのですか」
ニーナ 「大アリよ。こいつが光ってるのはね、実はこいつ自身のせいじゃなくて、こいつのお腹の中にある、エメラルドの石のせいなのよ」
ルヴァ少年 「へえ〜〜」
ニーナ 「いいこと? アタシがわざわざこの湖に降りてきたのは、その石を取戻すためなのよ」
ルヴァ少年 「取戻す?…ということはもともとその石はニーナ様の…」
ニーナ 「そう、アタシの大切な落とし物」
と、例の眼鏡をかける。
ニーナ 「ほーらココ。ココにアタシの石が引っかかってる」
ルヴァ少年 「どうやって取出すんですか? まさかお腹をかっさばくつもりじゃ…」
ニーナ 「何言ってんの。それは最後の手よ。何かいい方法、思いつかない?」
ルヴァ少年 「そうですねー。…! どうでしょう。この魚に、お腹の底から笑ってもらうっていうのは」
ニーナ 「はあ〜? 何ですって?」
ルヴァ少年 「(あくまで真剣に)例えばですねー、『今日のランチ、どこで食べる?』 『”まぐろナルド”』」
ニーナ 「ちょっとそれって…」
と、桶の魚が少しケイレンしている。
ルヴァ少年 「どうです、少しは石の位置が変わりましたかねー」
ニーナ 「全然」
ルヴァ少年 「そうですかー。それは”骨折り損のフカヒレ儲け”でしたねー」
桶の魚がピクピクしている。
ニーナ 「あーっ、石がちょっと口の方に動いた。この作戦、意外にイケるかも!」
ルヴァ少年 「『意外に』なんてヒドイじゃないですか。”ウンザリガニ”しちゃいますよー」
ニーナ 「あーっ、また動いたよー。レベル低いんだねー、こいつ」
ルヴァ少年 「…」
と、ショックから立直れない。
ニーナ 「ごめん、ごめん。許してよ、ルヴァ。もう『レベル低い』なんて”コンリンザリガニ”言わないからさー」
桶の魚が大きくはねて、石がポーンと口に近づいた!
ルヴァ少年 「や、やりますねー」
二人のダジャレ合戦がさらに続き、エメラルドはどんどん出口へと近づく。
ニーナ 「あともう少しよ! ねえルヴァ、こうもっとスケールの大きなの、ないの?」
ルヴァ少年 「急にそんなこと言われても”F1しらんぷり”ですねー」
ニーナ 「例えばほらあんでしょう、”炊いた肉(タイタニック)沈めないで!”とか」
ルヴァ少年 「おう、”ポセイドン・アオレンジャー”ですね!」
と、エメラルド・フィッシュの口からついに石が飛出した!
あろうことか、ルヴァ少年の顔面を踏み台にして石をジャンプキャッチするニーナ。
意識がもうろうとして大の字に倒れてしまうルヴァ少年。
ニーナがつかんだ輝くエメラルドが突然輪っかに変形し、ニーナはそのまま空へとのぼっていく――。
ニーナ 「ありがとう、ルヴァ。アタシこれでやっと天使に戻れたわ!」
と、眼鏡を地上のルヴァ少年に向って投げる。
ニーナ 「それ、アタシからのプレゼント。お礼の気持よー。さよならあ〜」
ルヴァ少年の頭に眼鏡が直撃、完全に気絶するルヴァ少年。
再び景色が渦を巻き始める――。

◯元の丘の上



ルヴァに両肩をしっかりつかまれているアンジェリーク(メガネはかけていず、手に持っている)。
アンジェリーク 「…それで、ルヴァ様の側にこのメガネが転がった場面を見たところで、又急に現実の世界に戻ってきたんです」
ホッとしたように手を離すルヴァ。
ルヴァ 「よかった…ニーナ様はちゃんとエメラルドの石を取戻したんですねー、うんうん」
 キョトンとしているアンジェリーク。                 
ルヴァ

「あー、いえね、ずっと気にかかっていたのですよ、あの湖での出来事が。私の記憶は、エメラルド・フィッシュの口から石が飛出したところを見た瞬間に途切れてしまってて。一体その後どうなったのか、ずっと知りたくてしょうがなかったんですよ」
アンジェリーク 「それで私にこのメガネを?」
ルヴァ 「ええ…(と赤面しながら)あなたはきっとメガネ美人に違いない、そう思ったものですから…」
アンジェリーク 「ルヴァ様ったら…」
と、頬を染める。
ルヴァ

「(立上がり)さあ、そろそろ戻らないと。またジュリアスに叱られてしまいますからねー。あー、そうそう。よかったらそのメガネ、あなたにプレゼントしますよ、アンジェリーク。悩みを一つ減らして下さったお礼です」
と言うと、アンジェリークをおいて、スタスタと歩いていってしまう。
アンジェリーク
「…何だか変な気もするけど? まあいっか。何であれルヴァ様からの初めてのプレゼントだもん。大切にしようっと」
かなり遠くへ行ってしまったルヴァが立ち止まって振返る。
ルヴァ
「アンジェリーク。
『天使のメガネ』を使いこなせたあなたはやっぱり天使だったんですねー」
アンジェリーク 「待って下さい、ルヴァ様ー」
と、スカートをなびかせ走っていく。

(おしまい)


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一種イタイことになっとります……(すばる)

やはり本命様のラブラブ話は書きにくいのよ、というオーラをふりまきつつ。
すばるの次回作は刑事物です!
「太陽にほえろ!」に青春の数割をささげていたすばるですのでどうぞご期待下さいね。(ちゃん太)

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