堕天使のメガネ(前編)


○丘の上

並んですわっているアンジェリークとルヴァ。
アンジェリーク 「(メガネを手に)メガネかけるとチョッとは賢く見えます?」
ルヴァ 「さあ、どうなんでしょうねー」
アンジェリーク 「(もう、ルヴァ様ったら、意地悪なんだから)」
意地悪というよりいたずらっぽい瞳で笑っているルヴァ。
ルヴァ 「でも何だかわくわくしますねー。早くそのメガネをかけて、私に顔を見せて下さい、アンジェリーク」
アンジェリーク 「(そうね、せっかくルヴァ様が私のために持ってきて下さったんだもの。)じゃ、いきますよー」
と、メガネをかけた瞬間、視界の全ての色がごちゃまぜになって渦を巻き始め、意識が遠のいていく。
ルヴァ 「どうかしたんですか?! アンジェリーク、アンジェリーク…」
と、その声も遠ざかり――。

◯林の中 

上空から眺める角度で展開する情景。
アンジェリークの声 「ここは…一体どこなのかしら?…! 誰か歩いてるわ」
背中を丸めて歩く人影が見える。
頭に見慣れたターバン、だがルヴァよりは明らかに背丈が小さいようだ。
アンジェリークの声 「でも、あの人並み外れた、のほほーんとした雰囲気、どう見たってルヴァ様以外には…」
と、より近付いてみると、果たしてそれは、ルヴァ少年なのだった!
釣竿を手に、魚図鑑を熱心に読みながら歩いていくルヴァ少年。
ルヴァ少年 「ニジマス、イトウ、ワカサギ、ナマズ、コイ…。♪魚は僕らを待っている〜オウ!」
アンジェリークの声 「歌なんか歌っちゃって、カーワイイッ。 どうやら私ってばタイムスリップしたみたいね。せっかくだし、お子様ルヴァちゃまの追っかけしっちゃおうかな。あの様子じゃきっとこれから、大好きな釣りに行くのね」
ルヴァ少年 「(図鑑をバタンと閉じ)今日の獲物はコイにしましょうかねえ。コイこくにしたらおいしいですからねー」
アンジェリークの声 「『コイこく』って…。少年のボキャブラリーじゃないと思う…」

◯湖 

 比較的大きな湖だが、釣り人はルヴァ少年一人のようだ。
ルヴァ少年 「(背のびをして)いいお天気じゃありませんかねー」
青空の片隅にピンク色の風船がフワフワ飛んでいるのが見える。
× × ×
湖岸で釣り糸を垂れているルヴァ少年。
ルヴァ少年 「なんだか今日は大物が釣れそうな予感がしますねー、うんうん」
と、糸が引き始める。
ルヴァ少年 「あー、待ってましたよ。コイよ、出てコイ! なんてねー」
アンジェリークの声 「変わってないんだわ、ルヴァ様って…」
予想外に強い引きに立上がり、よろよろし始めるルヴァ少年。
ルヴァ少年 「あー、これはですねー、さすがの私も、あせる、というような状態に陥ってしまいましたかねー、うんうん」
アンジェリークの声 「あせってる風には全く見えないけど。でも力になれるものなら手伝ってあげたいな」
と言うや否や、ルヴァ少年の腕に力がこもり、巨大な魚を釣り上げる。
ルヴァ少年 「な、何ででしょう??」
だが釣られた魚も最後の力をふりしぼり、結果釣り糸が切れ、魚は湖に逃げ、釣竿は大きくしなり、空中へと舞い上がった!
丁度そこへフワフワと降りてきたピンク色の風船に直撃すると、バアーンと大きな音をたてて割れてしまった。
アンジェリークの声 「エッ何!? おっ、落ちちゃう〜」
少女の声 「キャアアアーーッ!!」
はでに水しぶきを上げている湖面。
ルヴァ少年 「えっ? な、何ですかー?」
湖からガバッと顔を出す金髪の少女ニーナ。
ニーナ 「ちょっと何するのよ!」
と、思いきりルヴァ少年を指さす。
ルヴァ少年 「(一瞬振向いてから自分を指さすと)うー、わ、私のことですかあ?」

◯ボート小屋 

栗ごはんのおにぎりをニーナに差出すルヴァ少年。
ニーナの身体はアッという間に乾いたようである。
ルヴァ少年 「先ほどは本当に御迷惑をおかけしました。せめてものお詫びです」
ニーナ 「こんなおにぎり一コじゃ許すわけにはいかないわよ。食べてあげるけどさ」
と、おにぎりを口いっぱい頬ばる。
ルヴァ少年 「あははは…」
ニーナ 「うん、なかなかの味だわ。えっとー、ところで少年、アタシをこんなヒドイ目に合わせてくれた君の名前は?」
ルヴァ少年 「…ルヴァです」
ニーナ 「あっそう。アタシはニーナ。可愛いくてつい『ニーナちゃん』って呼びたくなるだろうけど、『ニーナ様』って呼んでネ」
ルヴァ少年 「は、はい…ニーナ様」
ニーナ 「ところでルヴァに聞きたいんだけど、この湖でエメラルド色に輝く魚の噂、聞いたことないかしら?」
ルヴァ少年 「エメラルド色に輝く、うー、何だか聞いたことがあるような…」
ニーナ 「マジ!?」
ルヴァ少年 「ないような…」
ニーナ 「もうっ、ハッキリしなさいよ!」
魚図鑑をパラパラとめくるルヴァ少年。
ルヴァ少年 「!(と突然顔を上げ)思い出しました。ちょっと一緒に来て下さい」
と、ニーナの手をつかむと走り出す。
ニーナ 「(こいつったら、あっさり手なんか握ったりして…あなどれないワ)」

◯図書館 

埃まみれになりながら古文書を調べ回っているルヴァ少年。
ニーナ 「ゴホッゴホッ。一体いつまで待たせるつもりよ。あーあ、自慢の髪もこれじゃ台無しじゃないのよ、ったく…」
ルヴァ少年 「! ありました! 『エメラルド・フィッシュの伝説』…」
ニーナ 「どこ、どこ?」
満足げに微笑むルヴァ少年。

◯湖(夜) 

月灯りのもと、一艘の小舟が岸を離れていく。
こぎ手はルヴァ少年。ニーナは古文書の文面をそらんじている―。
ニーナ 「『いにしえより湖底深く眠りし魚ありき。翠玉色に輝けるその姿は、見る者全てを陶酔境に導かん。いざ今宵、名残の月の雫のもと、蘇えりし光をともに愛でん』
…うーんロマンティックねえ〜。これで横にもうちょっと気のきいた彼でもいればねえ〜」
と、ルヴァ少年のこぐ櫂が湖水をはね上げ、ニーナにかかってしまう。
ニーナ 「下手くそっ」
ルヴァ少年 「す、すみません…。けれどよかったですよねえ。偶然、今夜が名残の月、すなわち十三夜さんでねー、うんうん」
ニーナ 「素晴らしき偶然だわ。そう、奇跡と呼んでもいいかもしれない」
ルヴァ少年 「(あー、私にとっては、あなたに出会えたことが既にもう奇跡だと言えるんですがねー)」
湖の真ん中で小舟を止める二人。
ニーナ 「さあ準備して、ルヴァ」
釣竿を組み立て始めるルヴァ少年。
ルヴァ少年 「うー、でもこれじゃ水の中までは月の光が届かなくて、どこに釣り糸を垂れるべきか、悩んじゃいますねー」
ニーナ 「心配なくてよ、ルヴァ。ジャカジャーン!」
と、胸ポケットから眼鏡を取出した。
ニーナ 「エヘン、この眼鏡をかけたらアーラ不思議、どんなに深くてにごった湖でも、底の底まで見通してごらんに入れまーす」
と、眼鏡をかけると…。
ニーナ 「???…」
ルヴァ少年 「ずい分と非科学的な眼鏡があるものですねー。どうです? 何か見えますか? そんなワケないですよねー」
ニーナ 「ルヴァ、ヤバイヨ」
ルヴァ少年 「はい?」
ニーナ 「見えすぎだよ、コレ。しかも目が合っちゃったよもう。エメラルド・フィッシュみたいな奴と」
ルヴァ少年 「エーーッ!?」

後編へ


ルヴァアンは見せかけだけ(爆)で、実はルヴァ少年の物語。
ルヴァ少年、セリフで「お子様ルヴァちゃま」って出てくるんだけど、
13、4才くらいの設定ですかねえ。(すばる)

新シリーズまでの箸休めは、すばる初のルヴァアン。
十三夜に間に合わなくてゴメンよ、すばる……(ちゃん太)

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