ルヴァ様コスプレシリーズ
CAST・12
 「転身」


<お話の背景>
  東京メッツの開幕戦でデビューすることになった大型新人玉一郎。
  相手阪神タイガースの先発はメッツキラーの二年目大文字だったが、彼は歌舞伎役者玉一郎の大ファンであった。


<登場人物>

ルヴァ・玉一郎 メッツのルーキー。歌舞伎界注目の女形でもある。
ジュリアス・五利 メッツの監督。
クラヴィス・鉄五郎 メッツの50歳現役投手。
オリヴィエ・大文字 タイガース投手。メッツのみから5勝をあげている。

 他


○歌舞伎劇場・舞台上

ルヴァ・玉一郎が『藤娘』を妖艶に舞い踊っている。

○同・客席

東京メッツのジュリアス・五利監督とクラヴィス・鉄五郎投手が小声で言い争っている。
ジュリアス・五利 「よくもこの私に無断で勝手な契約をしてくれたな」
クラヴィス・鉄五郎 「…何のことだ…」
ジュリアス・五利 「とぼけるな!『地元のゲームのナイターのみ出場』など言語道断だと言っておるのだ。プロ野球を何だと思っておるのだ」
クラヴィス・鉄五郎 「相変わらず頭の固いことだな。オーナーは喜んでいたぞ。玉一郎目当ての客が増えるとな」
ジュリアス・五利 「客減らしの筆頭のきさまがよく言うわ。マウンド上で居眠りしたのは一度や二度ではあるまい」
クラヴィス・鉄五郎 「フッ、少し眠ったくらいの方が、私はコントロールが良いのでな」
ジュリアス・五利 「『少し』だと!? 熟睡  しておるではないか!!」
 × × ×
別の席でうっとりと魅入っている阪神タイガースのオリヴィエ・大文字投手。
オリヴィエ・大文字 「私のただ一人の憧れの存在玉一郎様と、美的センスだけでなく、野球でも争うことができるなんて☆ 私ってばマウンドで我を忘れてはしゃいじゃいそう♪ きゃははっ」

○国分寺球場・東京メッツベンチ(夜)

大学ノートと電卓を手にベンチに座っているルヴァ・玉一郎。
ジュリアス・五利 「なるほど、玉一郎は勉強熱心なことだな。初戦の相手はメッツキラー大文字だ。球筋などよく見ておくがよかろう」
ルヴァ・玉一郎 「あー、監督、差し出がましいようですが、大文字投手は昨年メッツからしか勝てていないという、奇妙な方ですねー。その原因について私なりに仮説をたててまいったのですが、その検証をこれからじっくりとですねー…」
と、プレーボールとなってしまう。
クラヴィス・鉄五郎 「フッ、球場の時間は、特殊な流れ方をしている。今夜のお前は大事な場面でのピンチヒッターであろう。それまでに『検証』とやらを間に合わせるのだな」

○同・マウンド(夜)

ラメ入りのユニフォーム姿で化粧もバッチリ決めているオリヴィエ・大文字。
オリヴィエ・大文字 「さあ見てなさいよー、正真正銘の『ドリーム・ボール』投げちゃうんだからね☆」
快調なピッチングでメッツ打線を6回まで0におさえるオリヴィエ・大文字。
オリヴィエ・大文字 「(スコアボードを見て)うぐいす豆が6個なーらんだ。食卓に色どりを、なーんちゃって♪」
と、鼻歌を歌いながらマウンドを下りていく。

○同・東京メッツベンチ(夜)

頭から湯気を立てんばかりのジュリアス・五利。
ジュリアス・五利 「何故我がチームはあんなチャラ男の球が打てぬのか! 我ながら度し難い怒りだ。これ以上、うぐいす豆を並ばせてはならぬ!!」
ベンチの隅で双眼鏡をのぞいていたルヴァ・玉一郎が突然大声を上げ、側で眠っていたクラヴィス・鉄五郎が目を覚ましてしまう。
ルヴァ・玉一郎 「やはりそうでしたか! これで”魔球”の謎が解けましたよー」
と、うかれまくっているのだ。
クラヴィス・鉄五郎 「試合中だというのに騒がしいことだな、玉一郎」
ルヴァ・玉一郎 「(ハッと我に返り)鉄五郎さん、お喜び下さい。今夜の試合、勝つ目が出てまいりましたよ!」
クラヴィス・鉄五郎 「ほう…闇が終わるというのだな、連敗という名の」
と、少しずつ起き上がるのだ。
ルヴァ・玉一郎
「たった今『仮説の検証』が終わったんです。あの大文字さんの球が他チームは打てて何故メッツだけが打てないのか? その原因は、この国分寺球場の特異な磁場だったんですよー。あの人の投げるボールに、本人は知ってか知らずか、打者を詰まらせる回転を加えていたんですねー、うんうん」
クラヴィス・鉄五郎 「…野球バカな私には難しいことはわからぬ。だがその原因とやらがわかったところで、打てなければ話にはならぬ。どうやって打つ?」
と、クラヴィス・鉄五郎の前に数式がびっしりと書かれた大学ノートを広げるルヴァ・玉一郎。
ルヴァ・玉一郎 「ジャーン♪ このように『計算』はできております。打者は球の軌道をこのベクトルに従って修正してですねー、バットの角度をこのように…」
クラヴィス・鉄五郎 「…おい、五利! ピンチヒッターを出せ!」
ジュリアス・五利 「!! 貴様、監督である私に向って指図するとは何事かっ」
クラヴィス・鉄五郎 「細かいことを気に病むな。それよりこの玉一郎が大文字の球を確実に打ち返せると言っておるのだ。見過ごすわけにはいかぬであろう」
既にバットケースを持ち出して、様々なタイプのバットを出したり入れたりして頭の中でシミュレーションしているルヴァ・玉一郎。
ジュリアス・五利 「玉一郎 、それは確固たる自信をもって申しているのであろうな」
 ジュリアス・五利に対しても大学ノートを見せびらかすルヴァ・玉一郎。
ルヴァ・玉一郎 「はい、監督。私の打撃論を公にする機会を是非お与えさいますようお願い申し上げます」

○同・グラウンド(夜)

ウグイス嬢の声 「選手の交替をお知らせ致します。8番ライト甚九寿にかわり玉一郎、背番号29〜」
オリヴィエ・大文字 「ギャーッ!! つ、ついにこの時がっ、夢にまでみた玉ちゃんとの真剣勝負。厚化粧だからバレないだろうけど、実は今私ってば顔真っ赤っかヨーン」
七回裏、得点は0対1、メッツの1点 ビハインドの場面である。
少し細めのバットを左右に振りながらバッターボックスに向うルヴァ・玉一郎。ところがそこにとどまらず、ピッチャーマウンドまでズンズン進んでいってしまうのだ。
ルヴァ・玉一郎 「はあ〜なるほどなるほど」
 一方ルヴァ・玉一郎が迫って来るので、 身も心もとろけんばかりになっているオリヴィエ・大文字。
オリヴィエ・大文字 「…今気づいたわ…この世の中でサイコーに美しいモノ、それは玉一郎様、あなた自身と、そして今感動に打ち震えている私の心の二つだってこと!」
 鯉の如く口をパクパクさせているオリヴィエ・大文字ににっこり笑いかけるルヴァ・玉一郎。
ルヴァ・玉一郎 「あー、すみませんねー。お邪魔をしてしまって。このバットはこう見えてダウジングロッドも兼ねているすぐれ物なんですよー。『秘技ダウジングの舞』なーんちゃって?」
と、マウンドで舞うと、客席の玉一郎ファン達はもう大騒ぎである。
「待ってました〜八代目〜〜」

○同・東京メッツベンチ(夜)

ジュリアス・五利 「(鬼の形相で)玉一郎め、神聖なるマウンドで舞い踊るなど、プロ野球人としての緊張感がなさ過ぎるぞ!」
クラヴィス・鉄五郎 「フッ、ただ寝そべっているだけの私など、まだまだかわいいものだな」
ジュリアス・五利 「黙れ!」

○同・グラウンド(夜)

ようやくバットを構えてバッターボックスに立つルヴァ・玉一郎。
オリヴィエ・大文字 「ここはいい女対いい女、もとい男対男の勝負よ。さあ、この私のピュアな心がこもった球、打ち抜いてごらんなさーい」
 と、豪速球を投げるのだ。
 ルヴァ・玉一郎の脳内では瞬時に計算式が解かれ、球の軌道を見抜いた。
 バットの真芯でとらえられた打球はものの見事にバックスクリーンへの同点ホームランとなった!
ルヴァ・玉一郎 「ビバ物理学ですねー、うん うん」
  × × ×
試合は1対1のまま延長戦へ。そして 再びルヴァ・玉一郎に打席が回るので、阪神の監督がオリヴィエ・大文字の元へと行くのだ。
監督 「大文字、ここはワンポイントで別のピッチャーをいかせた方が…」
オリヴィエ・大文字 「(首をブンブン振りつつ)イ・ヤ・ダ! 私さ、昔のことは忘れるよーにしてるんだ。過ぎたことより、今が美しくなきゃ!」
ルヴァ・玉一郎 「(いつのまにかオリヴィエ・大文字の真横に来て)私も激しく同意です。人は常に『今』を生きなければ!」
オリヴィエ・大文字 「いくら監督だって私たちが同じ夢をむさぼるのを邪魔したら、許さないんだからね!!」
すごすごと引き上げていく阪神の監督。 
再び二人の対決の場面、一打出ればサヨナラゲームである。
オリヴィエ・大文字 「今度はそう簡単に打たせないわよー」
と、ボールにこそこそ何か細工をしている。
ルヴァ・玉一郎 「おや、何でしょうか…見かけによらず大文字さんは鋭いところがありそうですからねー。ひょっとして磁場の影響力に気付かれたのでしょうか…」
 こん身の力で豪速球を投げるオリヴィエ・大文字、球筋を読むルヴァ・玉一郎。そこへバットを持っていった瞬間、ボールにピンクのルージュで書かれた『好き』の文字が目に入ってしまう。
ルヴァ・玉一郎 「あー、ち、力がーっ」
芯をわずかに外した打球は上がり切らずライナーでフェンスを直撃する。
ルヴァ・玉一郎 「こ、これは走らなければいけませんねー、うんうん」
 ライトの選手がボールに追いつくが、『好き』に動揺してお手玉してしまう。その隙に、ルヴァ・玉一郎は次々と塁を駆け抜けていくのだ。

○同・東京メッツベンチ(夜)

クラヴィス・鉄五郎 「これはランニングホームランになるやもしれぬな」
ジュリアス・五利 「何かの呪いなのか…中継の選手が次々お手玉しておるではないか…」

○同・グラウンド(夜)

本塁に突っ込んでいくルヴァ・玉一郎。 バックホームは微妙なタイミングだったが、『好き』に案の定お手玉してしまうキャッチャー。 劇的なサヨナラランニングホームランに球場は歓喜の嵐である。 お立ち台に立つルヴァ・玉一郎。
ルヴァ・玉一郎 「(ターバンをなびかせながら)皆様ありがとうございます。私はこれでもう思い残すことはありません」
インタビュアー 「えっ? 今日デビューなさったばかりですよね?」
ルヴァ・玉一郎 「あのー、何と申しましょうか、私老成して見える反動なんですかねー、『青くさく生きる!』のがモットーなのです。ですので明日から私はスラッガーから物理学者へと華麗に転身したいと思うんですねー、うんうん」
と、大学ノートを勧進帳に見立て、見栄をきる。
「待ってました、武蔵坊弁慶!!」
大学ノートには『一生青春』の文字。
ジュリアス・五利 「…大文字キラーの離脱は痛いが、グラウンドの秩序は戻るであろう。 玉一郎に光の祝福を」
クラヴィス・鉄五郎 「『転身』と書いて『ねがえり』と読む…」
オリヴィエ・大文字 「(号泣しつつ)玉ちゃん、一夜限りの夢をアリガト☆」

    

コスプレ12弾は、懐かしの野球狂の詩、国立玉一郎くんでございます。
話はよく覚えているんだけど、正直敬ちゃんの声だったっけっていう印象なんだけどね。
まだがんばれ!タブチくんのフルサワの声の方が覚えてたりする私…(ネタ的にはタブチくん寄りかもしれません)  (すばる)

すばる劇場へ