マスタールヴァのカクテルトーク ゼフェル編


「いらっしゃいませー。
 あー、ご注文は何になさいますかー。
 えっ? 私のおすすめですかー? そうですねー。

 いたずらっ子のような赤い目の貴方様には『レッド・アイ』なんていかがでしょう。
 ……ええ、二日酔いの朝の迎え酒としておすすめの、ビールベースのカクテルです。

 うー、『レッド・アイ』にまつわるお話をしましょうかねー。
 とある田舎町に、若いのに腕のよいパン職人がいました。
 彼が焼き上げるパンは、それは軽い口当たりで、町の娘たちは店が開くや否やこぞってパンを積み上げるようにして買っていくのです。 
 ところが彼のうれしい悲鳴はそれで終わりませんでした。
 なんと町長さんが彼の元へ苦情を言いに来たからです。
 ――君のおかげでこの町の若い娘たちは隣の町の娘たちに比べて平均体重が倍近いことがわかった。
  これ以上彼女たちを膨らませては困るよ、イースト菌じゃないんだから。

 このままでは営業停止にもなりかねないと思いあぐねた彼は、一晩中悩んだ末に、機械いじりが大好きな幼なじみにある相談を持ちかけたのです。
 ――お前にどうしても作ってもらいたいものがあるんだ! 今すぐ!
 持ち前の器用さを駆使した二人は、1週間後、ついに輝かしい成果をもたらしました。
 その名も『スーパーダイエットラブマシーン』。
 キャッチコピーは『新感覚ダイエットでお前の脂肪を脱がせるゼ!』。
 なんて刺激的なコピーなんでしょうねー、うんうん。

 ……えっ? そのマシーンの効果ですか?
 それはもう百発百中、でしてねー。 
 町の娘たちの平均体重も日々下がっていったほどです。
 これで悲鳴ともおさらば、そう思った矢先のことでした。

 パン職人の前に、それはそれはふくよかな赤い瞳の娘が現れたのです。
 ――まるでメロンパンみてーだ。ハハーン、ラブマシーンを買いにきたんだな。
 ところが! 娘はパンの噂を聞きつけて遠い街からはるばる来たと言います。
 ――あのー、とっても失礼とは思いますがあなたの手の臭いをかがせて下さい。 
 娘の意味深な笑顔につられ、彼はつい両手を差し出してしまったのです。
 ――どうもありがとう。 
 そう言うと彼女は踵を返し、去っていきました。
 ――おい、パンは買わねーのかよ!
 ――残念だけど、いらないわ。あなたのパン、美味しそうじゃないもの。

 パン職人にとってはまるでフライパンで殴られたようなショックな言葉でした。
 それからというもの彼は”メロンパンの彼女”のことが気になって仕方ありません。
 窯の中の真っ赤な炎を見つめていると、彼女のパッチリと開いた赤い瞳が思い出されます。
 彼は炎に向って叫びをあげました。
 ――いつかアイツに美味しいと言わせてみせるゼ!
  そして『ダイエット』なんて言葉も忘れるくらいもっと膨らましてヤル!
 知ってますかー? 赤にはクヨクヨしないで乗り越えるってパワーが秘めてあるって。
 彼は今もパン焼きの腕をさらにさらに磨いているそうです、今度こそ脇目もふらずにね。

 さあ、お待たせしました。『レッド・アイ』です。
 トマトジュースの香りを和らげるためにタバスコを落としてみたんですが、どうですかねー?」


「サンキュ。なかなかイケルぜ。そっか、赤がクヨクヨしねー色だってことなら、今夜からは好きになってやるぜ、オレのレッドアイもな」


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