マスタールヴァのカクテルトーク ティムカ編


「いらっしゃいませー。
 あー、ご注文は何になさいますかー。
 えっ? 私のおすすめですかー? そうですねー。

 確か9月生まれでしたねー、貴方は。では『セプテンバー・モーン』なんていかがでしょう。
 ……ええ、『9月の朝焼け』をイメージしたラムベースのカクテルです。

 うー、『セプテンバー・モーン』にまつわるお話をしましょうかねー。
 朝焼けはお好きですか?
 小鳥のさえずりをBGMにして、空がだんだんと赤く染まっていく様を眺めていると、ああ生まれてきて本当によかった、なんて思えますよねー、うんうん。


 ある南の島に初老の童話作家が住んでいました。
 彼は20年ほど前に都会から移ってきた売れっ子作家でした。
 島の人々は当時彼がやって来て突然童話を書き始めたことを 天才の気まぐれ、くらいに思っていました。 
 しかしそれはもう気まぐれでは済まされないほどの年月が流れました。
 その間彼は1年のうちにたった1冊だけ、しかも短い絵本を出版していたんです。
 どうです、意味ありげでしょう?

 ……えっ? どんな絵本を書いていたか、ですって?
 それはもう様々なお話でした。
 ――心踊る冒険物語。
  ネコやリスや動物たちとのふれあいの物語。
  島に伝わる妖精のお話なんかもあったんですよー。

 童話作家は年とともに朝早くから目覚めるようになっていました。
 住まいにしているコテージからは林をほんの数分歩くだけですぐに海に出ることができたので、いつのまにか朝焼けを見ることが日課のようになっていたんです。
 そういえば都会に暮らしていた頃、ビルの谷間から垣間見える夕焼けが好きだった――ふと思い出したりしてみます。
 夕焼けの赤も朝焼けの赤も色としてはそんなに違わない気がするのに、どうしてこんなに見る想いが違うのだろう。 

 それはある9月の朝のことでした。朝焼けを待ちながら海辺を散歩していた彼は、林の中に何かしら輝くものを見つけました。
 まさか妖精?などと夢想していると、光がどんどんと大きくなってこちらに近づいてきます。
 
 ――やっとあなたに会いに来れたワ。お礼が言いたかったの。
  毎年誕生日にステキな童話を贈って下さってありがとう。 
  枕元で娘がいつも読み聞かせてくれていたの。本当なら逆なのにネ。うふふふ。

 彼は驚きのあまり声も出ませんでした。それもそのはず、彼女は20年ほど前に事故にあい、意識のないまま生死のはざまをさまよい続けていた幼なじみだったのです!
 童話にたくした彼の想いが通じたのか、奇跡が彼女を再び目覚めさせました!!
 二人は子供に戻ったように手をつないで、燃えるような朝焼けを眺め続けました。


 さあ、お待たせしました。『セプテンバー・モーン』です。いい色ですねー、うんうん。」



「ありがとうございます。……きっとその童話は彼の恋文だったんですね。僕もいつかそんなステキな童話を書いてみたいです。」


カクテルトークTOPへ

 フリスビー刑事・扉へ  すばる劇場へ