マスタールヴァのカクテルトーク ロザリア編
「いらっしゃいませー。
あー、ご注文は何になさいますかー。
えっ? 私のおすすめですかー? そうですねー。
男性が自然と跪いてしまうほどに気品あふれる美しさをお持ちの貴方には、 『ルナ・ロッソ』なんていかがでしょう。
……ええ、『赤い月』という名のブランデーベースのカクテルです。
うー、『ルナ・ロッソ』にまつわるお話をしましょうかねー。
人にはそれぞれできることとできないことがたくさんありますよねー。
そんな中でこれだけは何人たりともできないってことがありましてねー。
何だと思われます? それは……自分の親を選ぶってことです。
王の娘に生まれれば即ち望む、望まざるにかかわらず『王女』と呼ばれてしまう……
今からお話するのはちょっと変わった王女の物語です。
王女が生まれる何ヶ月か前に、王にお告げがありました。
生まれてくる娘は、”赤い月の蝶”の生まれ変わりだと。
その国には古から伝わる伝説があって、国をお守り下さる神が月が赤く輝く夜に美しい蝶の姿をしてお生まれになった、というものでした。
果たして、その王女が産声をあげた夜、月は、まるで燃えさかる炎の如く赤く輝いておりました。
そんな風にお生まれになった王女ですから、ええ、それはもう大切に大切に育てられました。
しかしながら当の王女はそのことを幸せと感じることなく大きくおなりのようでした。
まるで自分が物語の主人公のように、閉じ込められた色も匂いもない世界で生かされているように思われたのです……
王女は、物心がつく頃より、眠る前に寝台のそばの大きな鏡で自分の姿を見ることが決まりとなっていました。
鏡の中の自分は、いつも鮮やかな色彩を帯びているように見えました。
――おやすみなさい、本当の私。
あなたは今日はどこでどんな楽しいことをしてきたの?
いつか話して聞かせてね。
そして月日は流れ、王女の17才の誕生日の夜のことでした。
いつものように鏡に向かうと、鏡の中の王女が突然話し始めたのです!
――誕生日おめでとう。そしてさようなら。
私は明日から旅に出るのよ。まだ見ぬ恋に出逢うためにね。
その夜以来、鏡には王女の姿は映らなくなってしまったんです。
不思議ですねー、うんうん。
それからしばらくの間、王女にはあまたの国より縁談が寄せられましたが、王女が首をたてにふることは1度もありませんでした。
ある夜、王女が部屋の窓から月を眺めていると、みるみる月が赤く輝き出したのです。
――とうとう、見つけたのね!
そう呟いた瞬間、王女の姿は大きく羽を広げた蝶へと化身したのでした。
――これから私の本当の人生が始まるの。
だって人は例えどんな風に生まれようと、誰かを心から愛するために生まれてくるんですもの!
さあ、お待たせしました。『ルナ・ロッソ』です。
今夜の月は何色に見えますかねー?」
「このグラス越しの赤い月に魅せられて、私も今一度恋に溺れてみたくなりましたわ」