マスタールヴァのカクテル・トーク  メル編


「いらっしゃいませー。
 あー、ご注文は何になさいますかー。
 えっ? 私のおすすめですかー? そうですねー。

 今まさに大人への階段をのぼろうとしている貴方には『ピュア・ラブ』なんていかがでしょう。
 ……・ええ、木いちごの甘酸っぱさが胸をキュンとさせる、ジンベースのカクテルです。

 うー、『ピュア・ラブ』にまつわるお話をしましょうかねー。
 貴方はこういう格言を知っていますか?
 『恋は決闘です。もし右をみたり左をみたりしたら敗北です』
 それがもしも初恋だとしたら、それ以上に気合いが入っちゃうでしょうねー、うんうん。

 昔、ある国境の町に一人の兵士が配属されてきました。
 彼が警護する関所は人の行き来もまばらで、先輩の兵士と二人だけで任務にあたっていました。
 そんな中、月に1、2度隣の国の山奥の村からやってくる花売りの母娘がいました。
 娘は器量もよく、母をよく助ける働き者だったのです。
 先輩の兵士が彼をからかうのも無理からぬことでした。
 ――おい、また鼻の下がのびてしまりのない顔になっているぞ。
  どうだ、今日こそ思い切って花を買いに行ったら?

 ある夏の日のこと、一頭の暴れ牛が畑を荒し回ったあげくに関所の前まで暴走してきました。
 ――お願いだ、兵隊さん。アイツを止めてくれ!
 先輩の兵士は仕方なく銃を抜きました。
 1発、2発、3発、……何度目かの銃声と牛のドサッと倒れる音が同時に聞こえました。ところが!
 牛の後ろには、足を撃たれた花売り娘までもが倒れていたのです。

 銃弾は無事取り出せたものの、高熱にうなされ続ける花売り娘を、兵士は一心不乱に看護しました。
 3日3晩つないだ手を離せずに、眠ることなく彼女に付添って励ましたのです。
 ――生きるんだ! 花を待つ人々のために……いや僕のために!
 そのかいあって娘はなんとか命をとりとめました。
 ――助けて下さってありがとう。
  ……あなたにお願いしたいことがあります。村にいる母に私の無事を知らせて下さいませんか?

 兵士はすぐさま村を訪ねて花売り娘の母親に一部始終を話しました。
 それだけではありません。彼は思い切ってこんなことまで言ってのけたのです。
 ――娘さんと僕を結婚させて下さい! と。
 母親は言いました。
 ――この村に伝わる古いおまじないの歌があります。
  ♪あなたに恋人ができたなら蜂を捕まえてごらんなさい 
   もしそれがあなたを刺さなかったらその恋人はあなたが本当に求める人です〜

 村から戻ると、国境はバリケードが作られて封鎖されていました。
 彼の留守中に、両国の国交が突然断絶されてしまったのです。
 愛する彼女と離ればなれになってしまった彼は、それでもあきらめはしませんでした。
 兵士は”おまじないの歌”を口ずさむと、生まれて初めて銃を右手にとり、バリケードに向かって突っ込んでいきました。
 左手には花売り娘の母親からたくされた木いちごを抱えて。
 
 その時彼にはわかりかけてきたんですよ、”おまじないの歌”の意味が。
 本当の愛を手に入れるのには勇気と幸運が必要なんだって、ね。

 さあ、お待たせしました。『ピュア・ラブ』です。
 貴方が立派な大人になって、そして本当の愛にめぐり逢えますように」


「あのね、ぼく、本当のこと言うと大人になるってことがよくわからなくて少しこわかったんだ。
 だけど何だかフシギ。このお酒を飲んだら大人の気分が味わえて、もっと知りたくなっちゃった。
 おかわり、してもいい?」


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