マスター・ルヴァのカクテルトーク ジュリアス編
「いらっしゃいませー。
あー、ご注文は何になさいますかー。
えっ? 私のおすすめですかー? そうですねー。
英国紳士さながらの気品漂う貴方様には『ダービー・フィズ』なんていかがでしょう。
……ええ、イギリス生まれのウィスキーベースのカクテルです。
うー、『ダービー・フィズ』にまつわるお話をしましょうかねー。
ある街にデビューしたての若い騎手がいたんです。
幸運にも彼はわずか3戦目で準優勝することができました。
馬主をはじめ周りの人々は、次こそは優勝だと大いに盛り上がり、祝賀パーティを開いてくれました。
そのパーティの夜、彼は一人の美しい娘を見初めました。
光り輝くブロンドの髪の娘は彼を虜にせずにはおかなかったのです。わかりますねー、うんうん。
けれど内気な彼はその夜はとうとう話しかけることさえできず、もちろん名前もわかりません。
そして彼は自分自身に誓いをたてたんです。
――次のダービーで必ず優勝して、彼女に告白するんだ、と。
それまでは名前も知らないままでかまわない。
しかしそんな彼の強い想いが災いしたのでしょうか、彼の戦績は落ちていくばかりでした。
馬との呼吸がどうしても思うように合わせられません。
ダービーの結果も散々なものでした。
馬という動物は人の気持がわかると言われていますからねー。
ブロンドの彼女に嫉妬しちゃったんですかねー。
その日から彼は酒に溺れ始めました。
街はずれの酒場で、彼は今夜も一人酔っぱらっていました。ブロンドの君への包み得ぬ恋を抱いて。
恋心が募るほどに自らのふがいなさを呪い、さらに泥酔しては暴言を吐き、店から追い出され、また 次の酒場へと……その繰り返しでした。
おぼつかない足どりで夜道をさまよっていた彼の耳に、どこからかピアノの音が聞こえてきました。
何の曲かはわからないけれど、聞いたことがあるようななつかしい音色でした。
導かれるようにらせん階段を下りて店の扉を開けると、小さなステージで、ショーが始まったところでした。彼の瞳はステージに釘づけになりました。
なぜならピアノで弾き語るその歌手こそ彼が恋い焦がれていた名も知らぬブロンドの君だったんです!
♪勝ち負けなんて時の運〜
私はいつも前向きに走り続けるあなただから好きなの〜
彼はようやく気づかされました。無我夢中で馬を走らせる喜びを忘れていたこと。
優しい歌声に涙を流して、彼は1杯の黄色い酒を飲み干したんです。
まるでそれを飲めば悪夢からさめるかのようにね。
さあ、お待たせしました。『ダービー・フィズ』です。もちろんスコッチでお作りしましたからねー。」
「感謝する。……確かに結果だけが全てではないだろう。その騎手の未来に乾杯するとしよう。」