マスタールヴァのカクテルトーク ユーイ編


「いらっしゃいませー。
 あー、ご注文は何になさいますかー。
 えっ? 私のおすすめですかー? そうですねー。

 真夏の海の香りがする貴方には『ブルー・ラグーン』なんていかがでしょう。
 ……ええ、目にも鮮やかな青色をした、ウォッカベースのカクテルです。



 うー、『ブルー・ラグーン』にまつわるお話をしましょうかねー。



 あるバイキングの村に少し臆病な少年がいました。
 仲間たちが、大人になって大海に乗り出す夢を語れば語るほど、 彼は、必ず出合うであろう激しい嵐を切り抜ける知恵や、強大な敵群と戦う力を思い、心が縮んでゆく 気がするのでした。
 ――きっとオレはダメな奴なんだ…父さんが望むような「何があろうと背を向けない男」になんかなれやしないんだ。

 ある日静かな湾で1人で釣りをしていた少年は、幼い少女が溺れかけているのを偶然に見つけ、助けたのでした。
 少女の腰のあたりには大きなえぐられたような傷があって、少年は医者に見せようとしたのですが、

 ――それはできません。私は恐ろしい魔物に追われていて姿を隠さなきゃいけないの!
  傷の治し方は知っているのでどこかにかくまってくれませんか?

 少女があまりにもキッパリとした口調で話したので、少年は仕方なく、湾の中の秘密の洞くつに向ったのでした。
 ねえ、なんてワクワクする展開なんでしょうねー、うんうん。


 洞くつの奥の方で、少年が着ていた服を脱いで地面に敷くと、少女はうれしそうにその上に身体を横たえたのでした。

 ――さっき君は『傷の治し方は知っている』と言っていたけどどうするの?

 ――そうね。まず必要なのは海の色、深い深い海の底の水の色をした花が1輪。
  あなたに見つけられる?

 少年は少女の傷跡が痛ましくてならなかったので、きっとその花を見つけることを約束すると、洞くつを後にしました。

 次の日、海色の花を届けると、少女は又別の物を望むのでした。
そして又次の日も。
 さくら色の貝殻、星の形をした木の実、甘い甘いミルク、などなど、少年はまるで毎日宿題を出されているような気分だったのです。

 ――あの子は一体何者なんだろう? 恐ろしい魔物って何なんだろう?

 答を出せないまま日々は過ぎ、いつしか少女はすっかり元気になりました。

 ――ありがとう。あなたは私の命の恩人です。
  これは私からのお礼の品です、受取って下さい。

 少女が差し出した木箱の中には何とこれまで少年が届けた海色の花やさくら色の貝殻など、全ての物がそのまま入っていました!

 ――ここにある物は全てあなたが私のために使ってくれた知恵であり力です。
  あなたはきっと勇気あるバイキングとなるでしょう。

 そう言ってにっこり笑った少女はみるみるイルカの姿になって海へと消えたのでした。
 
 それ以来その場所は『ドルフィン・ラブ・ラグーン』と呼ばれるようになり、今も多くの人々が訪れているそうなんですよー。



 さあ、お待たせしました。『ブルー・ラグーン』です。
 少しアルコールが強いので、グラスの底に飲むヨーグルトを入れておきましたからねー。」



「わあ、まるで海が閉じ込められてるみたいだな。もしかしたらオレの知ってるでっかい海も本当はちっぽけなのかもな。知りたいことがいっぱいだな!」