マスタールヴァのカクテルトーク ディア編
「いらっしゃいませー。
あー、ご注文は何になさいますかー。
えっ? 私のおすすめですかー? そうですねー。
まるでカトレアのように優雅な貴方様には、ぜひ『トゥルー・ラブ』をお作りしたいのですが。
……ええ、ライチリキュール・ディタベースのカクテルです。
うー、『トゥルー・ラブ』にまつわるお話をしましょうかねー。
実はこれは以前よくいらっしゃって下さったお客様の恋物語なんですが、 貴方には特別にお話しちゃいますかねー。
その娘さんは最初は何人かの女友達と一緒に来ていたんですが、 そのうちにここのカウンターが気に入って下さって一人でも足を運んでくれるようになりました。
そう、ちょうど今貴方がすわってられる席に、いつも少し右に身体をかしげるように腰かけて。
ある夜、彼女が私の目をまっすぐ見つめてこう言ったんです。
――ねえマスター、私、とんでもない人に恋しちゃったかも。
……ええ、その時はもう心臓が飛び出すほどビックリしましたけど、大丈夫、勘違いだってことはすぐにわかりました。
彼女が恋した相手というのはマジシャンだったんですよー。
――マジシャンて、人をだますのが商売でしょう? 私、だまされちゃうかも。
私は彼女を元気づけようとこう言いました。
――そんなことはないですよ。
人の心というものはそう簡単にタネやシカケはできないですからねー。
彼女は思った通り瞳をキラキラと輝かせて、それからいつもよりも2杯も余計にカクテルを飲んで帰っていきました。
それから1ヶ月ほどたった頃でしょうか、しばらく顔を見せなかった彼女が店を訪れました。
それはそれは淋しそうな顔で。
聞けばマジシャンの彼が旅公演に行ってしまった、と言います。
――やっぱり私はだまされたのよ! 彼は煙のように消えてしまったわ。
彼女は今にも泣き出しそうです。
私は何とかしてその涙を止めようと、夢中でシェーカーを振りました。
――でもね、消えるマジックって必ずとんでもない所から消えたモノが出てきたりしますよねー、 うんうん。
そしてシェーカーの中身をグラスに注ぐと、それこそマジカルミステリー!
ハートの形をした氷が1つ浮かび上がってきたんです。
氷をつまんで頬ばると彼女はこう言いました。
――ねえマスター、本当の恋にはシカケが必要かもしれないネ。
彼女はそれからまもなく彼の旅公演の場所を逐一調べ出しました。
マジシャンの旅先では、行くたびに1本のマジックステッキが匿名で送られてきました。
何ヶ月かすると、とうとうそれは1人では持ちきれないほどの数になってしまいました。
捨ててしまおうか、どうしようか……その時1人の女性マジシャンが現れたのです。
――そのステッキ、私が消してあげましょうか?
あっけにとられている彼の目の前で、彼女はステッキを全部抱きかかえました。
――但し、次の公演先に着くまでの間だけネ。
……ええ、きっと今でも二人は旅しているはずですよー。世界中、ステッキをかかえてね。
さあ、お待たせしました。『トゥルー・ラブ』です。貴方のためにピンクを濃くしましたからねー。」
「本当の恋……私、少しだけ自惚れてもよろしいかしら?」