マスタールヴァのカクテル・トーク カティス編
「いらっしゃいませー。
あー、ご注文は何になさいますかー。
えっ? 私のおすすめですかー? そうですねー。
いつも人の輪の中にいる貴方様には『サングリア』なんていかがでしょう。
……ええ、フルーツたっぷり、パーティには欠かせない赤ワインベースのカクテルです。
うー、『サングリア』にまつわるお話をしましょうかねー。
昔、田舎町の町外れに小さな教会がありました。
そして教会の墓地に一人の墓掘人がおりました。
墓掘人はブドウを一房盗んでしまったことがあったのです。
それは小さな罪だったのですが、彼の自分を罰する気持はとても大きかったのでしょう。
自ら皆が嫌がる墓掘りの仕事を求めたと言います。
しかしながら彼は、仕事とは裏腹に大変明るい人柄でしたので町の人気者でした。
教会に向う道すがら、とある十字路で鍬をかついだ彼は、必ずといっていいほど町の衆に声をかけられるのです。
――やあ、元気かい? 今年はうちの畑のイモの出来がいいんだよ。今度取りにくるといい。
――わかった。神様はきっとマッシュポテトが食べたくなったんだろう。あれは実に上手いとおっしゃっていたからねー。
ある夜、教会からの帰り道、彼は十字路にさしかかろうとしてとんでもないものを見てしまいました。
若い神父が美しい娘と逢びきをしていたのです。
思わず空を見上げると、そこにはワインカラーの銀河が広がっていました。
――神様もやっぱり照れますか?
翌日、墓掘人が墓地の草取りをしていると、後ろに人の気配を感じます。
振り返ると夕べの若い神父が、まるで別人のように暗い顔で立ち尽くしていました。
――僕は罪深い神父です。彼女と同じ道を歩いていけないことをわかっていながら、それでも逢わずにはいられないのです。
そして神父は墓掘人にすがるように言ったのです。
――いっそのこと、彼女があなたを好きになってくれたなら。
墓掘人は神父の肩に手を置くとこう告げました。
――私は恋泥棒だけはしない。
昔、ブドウを盗んだ時に牢に来られた神父さんが、
”罪の心がなくならないと天国には行けないんだよ”と教えて下さった。
それ以来私は罪の心と向かい合ってきました。
――罪の心をなくすることが本当にできるのでしょうか?
――あなたもまた戦いのさ中にいるのですよ。戦いは多かれ少なかれ苦しいものです。
だがその戦いが終わった人の顔のなんと安らかなことか。私は墓掘人として、それだけはあなたに教えられます。
若い神父はただ静かに微笑んで深々と頭を下げると、教会に向って一直線に歩いていったのです。
さあ、お待たせしました。『サングリア』です。
オレンジ、レモン、そして白桃、たーくさん召し上がって下さいねー」
「おいおい、俺は今夜は一人なんだぞ。
だがマスターのせっかくの気遣いだ。一人で大いに盛り上がるとしよう」