マスタールヴァのカクテル・トーク    アリオス編


「いらっしゃいませー。
 あー、ご注文は何になさいますかー。
 えっ? 私のおすすめですかー? そうですねー。

 ハードボイルドなイメージの貴方様には『コープス・リバイバー』なんていかがでしょう。
 ……ええ、『死者をよみがえらせる者』なんて穏やかでない名のついた ブランデーベースのカクテルです。

 うー、『コープス・リバイバー』にまつわるお話をしましょうかねー。
 男は誰しもアウトローなヒーローに憧れをもったりしますよねー。 
 こんな私でもそうなんですから。えっ? 想像つきませんかー、やっぱり。
 
 昔、ある街にギャングに憧れる若者がいました。
 彼が酒場で飲んでいると、突然ケンカが始まりました。
 酔った男たちはとどまるところを知らず、酒場中はたちまち修羅場と化したのです。
 彼もまた相手かまわず殴りかかり、それ以上の返礼を受けていました。

 しばらくして1発の銃声が轟きました。
 ――そのへんにしておくんだな。せっかくの酒がまずくなるぜ。
 縞のスーツを着た男がひと睨みすると、あたりは静まり返りました。
 左手に握られた拳銃からはまだうっすらと煙が立ちのぼっています。

 若者はその瞬間胸をときめかせました。
 ――あの人こそが”男の中の男”だ、と。
 若者はすぐさま子分になって、兄貴のためならばどんな危険なこともやってのけました。
 命を賭け、傷だらけになって、信頼を勝ちとっていったのです。

 兄貴とは切っても切れない固い絆をもった若者でしたが、たった一つ秘密がありました。
 彼は恋をしてしまったのです、よりによって兄貴の恋人に!
 彼女は心の強い、それでいて愛らしい女性でした。
 危険な恋心を抱いた彼は、いつしかその想いをおさえ切れなくなりました。
 なぜならば、彼女の方も、命がけで尽くす若者の姿に次第に魅かれていったからです。
 ――あなたのせいだわ。あなたを見ていると、哀しいほどの優しさに胸がしめつけられてしまう……
  そう、あなたが悪いのよ。
 とうとうある夜二人は結ばれてしまったんです。ああ、どうなっちゃうんでしょう。

 二人の関係を兄貴が許すはずもありません。若者は武器をとりました。
 いつもの酒場にいくと、兄貴は一人静かに飲んでいました。
 酒の名は”コープス・リバイバー”、死者をよみがえらせる者。
 ――何の用だ? まさか俺を殺しにきたんじゃないだろうなあ。
 そしてゆっくりと銃口を若者に向けます。
 若者は涙を流しながら胸ポケットからナイフを取出しました。
 ――すみません、兄貴……兄貴の言う通りです。
 次の瞬間1発の銃声が轟きました。
 弾はものの見事にナイフに命中して、飛ばされたナイフは壁に突き刺さりました。
 ――俺を殺したいなら、10年後に又来るんだな、女房、子供を連れてな。
 こんな兄貴、120%憧れちゃいますよねー、うんうん。

 さあ、お待たせしました。『コープス・リバイバー』です。
 意外と口当たりは甘口なんですよー。貴方と似ているんじゃありませんかねー」


「サンキュ。……俺のことを甘く感じるか辛く感じるかは相手次第ってとこだな。
 そう、魔性の強いヤツなら、とろけるほど甘いだろうぜ」


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